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パチンコを3ヶ月やめられた人が、それでも再発する理由

「もう自分は大丈夫だ」

パチンコをやめて3ヶ月が過ぎた頃、私はそう思っていました。給料日も落ち着いて過ごせるようになり、休日に打ちに行きたいという衝動もほとんど感じなくなっていた。周りからも「変わったね」と言われるようになった時期でした。

そして、その"順調さ"の中で、私は再びホールの前に立っていました。

この記事では、なぜ「もう大丈夫」と思った時期こそが一番危険なのか、そしてそこからどうやって踏みとどまるかを、心理学的な知見と自分の経験の両方から書いていきます。すでにパチンコをやめられている方、今まさに順調に日々を過ごせている方にこそ、読んでいただきたい内容です。

なぜ「順調な時期」ほど危ないのか

パチンコやアルコール、薬物など依存性のある行動をやめた直後は、強い渇望(クレイビング)を感じることが多くあります。ところが、依存症研究の分野では「インキュベーション効果」と呼ばれる現象が知られています。これは、対象から離れている期間が長くなるほど渇望が自然に消えていくのではなく、むしろ一定期間は強まっていく可能性があるという考え方です。

つまり「時間が経てば経つほど楽になる」という単純な直線的回復ではなく、波のように渇望が強まったり弱まったりする時期があるということです。多くの人はこの波の存在を知らないまま「最近つらくないから、もう治ったんだ」と解釈してしまいます。

この誤解こそが危険です。渇望が一時的に落ち着いているだけなのに「克服した」と思い込むと、警戒心が緩みます。「1回だけなら」「もう自分はコントロールできる」という考えが自然に浮かんでくるのは、この時期の典型的な心理状態です。

やめてしばらく経って気持ちが楽になってきたとき、それは"治った"のではなく"今は波が穏やかな時期にいる"だけかもしれない、と捉え直すことが、再発防止の最初の一歩になります。

再発を引き起こす4つの引き金──HALTモデル

依存症からの回復支援の現場でよく使われる考え方に「HALT」があります。これは再発の引き金になりやすい4つの状態の頭文字です。

  • Hungry(空腹):血糖値が下がると自制心を司る脳の働きが弱まりやすいと言われています

  • Angry(怒り):職場や家庭でのストレスやいら立ちが、発散手段としてのギャンブルを呼び起こす

  • Lonely(孤独):話し相手がいない時間、誰にも気づかれない時間ほど、一人で行動しやすくなる

  • Tired(疲労):判断力や自制心は疲労によって明らかに低下します

私自身、再発しかけた日を振り返ると、この4つのうち複数が重なっていました。仕事で嫌なことがあり(Angry)、誰にも相談できず(Lonely)、疲れて何も考えたくない状態(Tired)で、気づけば車がホールの方向に向かっていたのです。

大切なのは、この4つの状態を「悪いこと」として否定するのではなく、「今は要注意な状態にいる」というサインとして認識することです。空腹、怒り、孤独、疲労のいずれかを感じたら、それ自体が「一度立ち止まるタイミングだ」と自分に言い聞かせる。それだけでも行動を変える余地が生まれます。

"スリップ"と"リラプス"は違う

もう一つ、再発防止において重要な考え方があります。認知行動療法の再発防止モデルの中に「AVE(禁欲違反効果)」という概念があります。これは、一度だけルールを破ってしまった(スリップ)ときに、「もう全部だめだ」「自分には意志がない」と過剰に自分を責めることで、かえって本格的な再発(リラプス)に突き進んでしまう心理的メカニズムを指します。

一度打ってしまったこと自体よりも、その後の「もうどうにでもなれ」という投げやりな思考のほうが、実際には大きなダメージを生みます。

もし一度打ってしまったとしても、それは「完全な失敗」ではなく「一時的なつまずき」です。そこで終わりにするか、そこから立て直すかは、その後の数時間、数日の行動次第で変わります。自分を責め続けることよりも、「なぜそうなったのか」を冷静に振り返ることのほうが、次につながります。

再発防止のための3つの仕組み

気合いや意志力だけに頼らず、仕組みで自分を守るという発想が重要です。私が実際に取り入れていた方法を3つ紹介します。

1. トリガーログをつける 「打ちたい」と感じた瞬間に、日時・場所・そのときの感情(HALTのどれに当てはまるか)を簡単にメモしておく方法です。続けていくと、自分がどんな状況で危うくなりやすいかパターンが見えてきます。

2. HALTごとの代替行動リストを事前に用意する 「空腹のときは何か軽く食べる」「怒りを感じたときは信頼できる人に電話する」「孤独を感じたときはあえて外に出る」など、感情ごとに"次の一手"を事前に決めておきます。渇望を感じているその瞬間に新しい行動を考えるのは難しいため、あらかじめ決めておくことが鍵になります。

3. 「もし打ってしまったら」のプランを先に作っておく 理想論を言えば「二度と打たない」ですが、現実的にはスリップが起こる可能性を織り込んでおくことも回復には有効です。「もし一度打ってしまっても、その日のうちに信頼できる人に連絡する」という約束を自分の中で決めておくと、恥や罪悪感で孤立し、そのまま本格的な再発に進んでしまう事態を防ぎやすくなります。

私が再発しかけた時にやったこと

車がホールの方向に向かっていることに気づいたとき、私はまず車を停めました。そして、あらかじめ決めていた「打ちたくなったら電話する」という約束を思い出し、家族に連絡をしました。

正直、そのときは「情けない」という気持ちが強くありました。3ヶ月も頑張ってきたのに、こんな状態になっている自分を認めたくなかったからです。それでも、事前に決めていたルールに従って行動したことで、その日は打たずに済みました。

意志の強さでその場を乗り切ったわけではありません。事前に用意していた「仕組み」に助けられただけです。この経験から、再発防止において一番大切なのは強い意志ではなく、弱くなる瞬間を想定した準備なのだと実感しました。

おわりに

やめ始めた頃の苦しさを乗り越えた先には、「順調に過ごせている自分」への油断という、また別の壁があります。この壁は、渦中にいるときには気づきにくいものです。

もし今、「最近は落ち着いている」と感じている方がいたら、それは決して悪いことではありません。ただ、その落ち着きを"完治"と捉えず、"今は波が穏やかな時期"と捉え直してみてください。そして、空腹・怒り・孤独・疲労を感じたときこそ、少し立ち止まる習慣を持ってみてください。

次回は、本人ではなく、パチンコをやめようとしている人を支える家族やパートナーに向けた記事をお届けする予定です。「どう声をかければいいかわからない」「つい責めてしまう」と感じている方は、ぜひそちらも読んでみてください。

一人で抱え込まず、少しずつでいいので、今日という日を積み重ねていきましょう。

イラスト提案

  1. 順調に見える右肩下がりのグラフが、ある地点で急に落ち込む様子(インキュベーション効果のイメージ)

  2. HALT(空腹・怒り・孤独・疲労)を表す4象限のシンプルなアイコン図

  3. 手帳やノートにトリガーログを書き込んでいる手元のイラスト

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