「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 8
第3章 第2話 第2捜査会議室
私たち4人は例の個室に集まった。佐々木刑事がドアを閉めるなり、島尾刑事の件を謝ってくる。
「気になさらないで下さい」と言い、島尾刑事が言われるのもごもっともですと言いながら続ける。
「私のほうこそ我が儘でした。次の捜査会議に出た時にでも謝ります」と話した。
ところで、先程、言葉を遮られる前に言おうとした質問を聞かれた。
「さすが佐々木刑事ですね、伊藤もそこが気になります」と、伊藤さんが感心しながら聞いてきた。
それは、食事をしながらと言い、注文の為に店の方を呼んだ。
「今日は初ガツオが入りました。お刺身に加えます」と、部屋に入ってくるなり話してきた。
それを聞いた佐々木刑事が船盛でと頼む。
佐々木刑事のお母さんは高知県出身で、初ガツオを一匹買ってきてさばいていたらしい。
しばらくして食事を持って来たあと、ドアが閉まると同時に話し出した。
「ですがの続きですが、今の防犯カメラはネットワーク式とアナログ式があります。被害者宅のブロック内から、国道までの東西南北の範囲について、その二つの様式の防犯カメラを調べて頂きたいんです。
これにはお二人ではかなりの労力が必要になります。私もお手伝いさせていただきたいのですが、警察官ではない私には捜査権がありません。一般人が聞き込みをすれば通報されるかもしれません」
「何故、その二種類を調べるのですか」と、加藤刑事が尋ねる。
伊藤さんが、閃いたかのように言葉を発する。
「分かりました。アナログ式の防犯カメラはネットワーク式と違いハッキングすることが困難だからですね」
「その通り」
「それがどうかしたのですか。私には違いだけしか分からないのですが?」と、加藤刑事が疑問を投げてきた。
伊藤さんが、説明したいと言ってきたので、お願いすることにした。
伊藤さんは、意気揚々と話し始める。
「何故、二種類の防犯カメラを調べるかというと、その二種類を被害者の家の周辺地図に書き止めます。すると、ネットワーク式の防犯カメラの前を通れば、被害者の家から二丁目のブロック外に出ることができます」
「そうですね」と話しかけて、その後はと聞くと「その後は・・・」とエコーイング後に先が話せなくなったので、私が続けることにした。
「その後は、これで犯人の逃走経路が判明します。犯行の前日から一週間ぐらい前までに、怪しい車を見かけた人を探してほしいんです。防犯カメラがネットワーク式かアナログ式かの違いを聞く時にお願いします」
「怪しいとは、どのような」
「捜査会議での報告がヒントになったのですが、極端にゆっくり走っている車や、数分おきに発進と停止をしている車です」
「そうか、ネットワーク式ならば、ハッキングができるかどうかを確認しているからですか」
「そのとおりです。そして、当日の朝6時半頃に奥青梅ダムであれば、ゆっくり走っても3時間あれば十分でしょう。そして睡眠導入剤が効いて家への侵入等を換算すると、誘拐は午後10時から少し幅を持たせて午前4時までではないでしょうか。その時間帯を踏まえ、地図上で逃げだせる道路と二丁目のブロックから出る四方の外側のアナログ式防犯カメラを調べれば、奥青梅ダムで見かけた怪しい車と照合できる車が見つかると思います」
「一歩前進ですね。ここまで熟慮されている教授の実力がわからないのが歯痒いです」
「いいえこれは、島尾刑事たちの頑張りがあったからこそ分かったことです。やはり、刑事さんは足で稼ぐという教えを重んじておられるので、それはそれで素晴らしいことだと思います。求めるところは同じなので、うまくミックスできれば良いのですが。犯人を捕まえることが最優先ですから」
「教授にそう言っていただければ少しは気が楽になります。どうだ、加藤。さっきの血液の件と言い、逃走経路の発想と言い、一日目の考えが変わったか」
あとで佐々木刑事に聞いたが、加藤さんに私の謎解きのプロセスを理解したかと、暗に言ったとのことであった。
「私は、みなさんの補助的な役割ができればいいだけですから」と、ニコッと笑って注文した料理を頬張った。
「このカツオ、美味しい!」と叫んでしまった。
その後、まだ見ぬ犯人を想像して話は尽きなかったが、いつもの時間になりお開きとなった。
私たちは、会議に大きな動きがなければ参加しなくても良いと言われているので、今後は、教授室が私達の作戦会議室となることをお願いされ、了承した後に店を出た。今日も二人ずつで帰ることになった。
今日は、昨日のお礼の為に一旦ご挨拶だけしますと、伊藤さんに伝えてタクシーに乗った。
伊藤さんを送り届け、昨日のお礼を言ったあと自宅へ戻る。
遅くなったこともあり、百合が帰っているのだろう、灯りが点いていた。
コロナが流行って以来実家には帰っていなかったので、ドアの鍵を開け、二年振りのただいまを言った。
リビングのドアが開いて、百合がお帰りと返してきた。ソフアから誰かが立ち上がった。彼氏の葵光一(あおい こういち)君だ。今日は、私の帰りが遅いということで心配だから、帰るまで待っていたらしい。
私が、食事は取ったのかと尋ねると、まだであったので、食べていくようにと言って百合に用意させた。百合は上機嫌である。彼のことはそれほど知らないが、百合には殊のほか優しいので気に入っている。
「まあ、私がいうのも何だが、そろそろどうなんだ」
「その件だけど、もうプロポーズを受けて承諾したの」と、横から百合が話しに入ってくる。
二人は、目と目を合わせ俯(うつむ)いた。百合の性格上、はしゃいでもいいのだが、その無意識の仕草ですぐに理由が分かった。そして、家出した一連の事情も。
「それは、おめでとう。そして、百合の仕草で家出した理由も分かった。父に挨拶に行ったら追い返されたのか」
「そうなの。玄関で酷い言葉をかけて追い返したのよ」
「光一君、父の無礼を謝ります」
「いいえ、嫌われているのは分かっておりましたので。ただ、百合ちゃんの為にも必ず許して頂こうとは思っております。だから、何回でも伺うつもりです」
「応援するよ。私にも責任の一旦はあるからな。私さえ父の跡を継いでいれば、君たちにこんな思いをさせないで済んだはずだから」
「いいえ、私のことがお気に召さないだけだと思います。ただ、お兄さんに応援していただいているので勇気百倍です」
そのあとは、二人の結婚への決意やら父への説得やらの話をした。
時計は11時を回っていたので、今日は帰るようにと言い、彼を玄関先まで送る。
二人で見送りながら、父さんには私からも説得してみるからと百合を見つめて呟いた。
「ありがとう。でも無理しなくていいよ。お兄ちゃんが怒られるのを見るのは嫌だし」
妹の幸せのためだから仕方ないと言いながら家に入った。
