「ロダン早乙女の事件簿 SECOND・CONTACT」怨嗟の鎖 第三十五話
父のスマホにメールが来た。そこに早乙女教授はいるかと。居れば電話を取れと。
父の携帯が鳴った。
「私だ。早乙女だ。百合を返せ。」
(早乙女教授、初めまして。)
ボイスチェンジャーを使っているようだ。
「初めましてなのに、なぜ妹を誘拐した。」
(あなたにとっては不幸だったかも知れませんね。)
「それはどういうことだ。」
(言葉通りですよ。)
「何が目的だ。」
(もう分かっているでしょ。)
「あなたは心三神〈コミノカミ〉さんですね。別名、三神順子さん」
ボイスチェンジャーが切れて生の声になった。
(やはり分かっていましたか。)
「会ったこともない私の家族を狙うのはなぜだ。」
(あなたの腕を見込んで探してほしい人がいます。その人を探し当てれば妹さんは無事に解放しましょう。)
「誰を探せというのか。」
(集落にいた森二神と会いましたよね。既にあの人が自殺したとされる森二神の娘のサヨだと気づいているのでしょう。サヨおばあちゃんは裏切り者だけでなく、自殺した愚か者の娘と言われ続けた。だから森二神家はひっそりと身を隠して暮らしていた。
サヨの子供は母方の親戚に養子に行き、今は山形で普通に暮らしている。しかし、サヨおばあちゃんは父の死に場所を眺めながら静かに死にたいということで、今もあの集落に残っている。
ところが、去年神崎という男がダムを眺めていた。右手に缶ビールを持ち少し酔っていたようだ。そこにたまたま、サヨおばあちゃんが昔あった神木のあたりを眺めていたそうだ。年齢も近いことから昔話に花が咲いたらしい。
神崎はサヨおばあちゃんが森二神とは知らずに、新人の職員だったとき、あることをきっかけに出世していったことを白状した。それが森二神の自殺の真相だった。
直接手を下した訳ではないし、それを見たわけではないが、何で揉めていたかを知っていながら、そのことを内緒にするかわりに出世していった。その時こいつが話していてくれればと思ったそうだ。)
「その内容はどのような。」
(それは自殺ではないということだ。森二神のじいちゃんは東京都が提示した書面の内容が少し違うのではないかと弥刀井に話をした。戦後のどさくさに紛れて契約の内容をいいように書き換えた。
まず太田のアパートに引っ越すための権利金を法外な値段に書き換えた。その他に田畑を代替する案を悉く勝手に弥刀井の自分名義にしたらしい。)
「しかし、証拠がある訳ではないし、想像の域からは出ないだろう。何か根拠でもあるのか。」
(ある。神崎の今際の際(いまわのきわ)の言葉だ。それがこれだ。(私は神崎圭佑、元都庁の職員だった。当時は新人で辞令により西青梅分所にやってきた。その時ダム建設の話が出て二つの村のうち、美登神村は村を二分する騒ぎになった。
しかし、森二神さんの働きで何とか建設できることになったにも関わらず、一人の議員が不正をして蓄財をしていた。それを知った森二神さんが問いただしたそうだ。すると次の日に自殺していた。その時私は森二神さんが弥刀井議員と太田と揉めていたことを知っていた。
それを言わない変わりにこの二人から後押しをしてもらう約束をして、その通り私は出世していった。自分は手を下していないし、殺すところを見たわけではないからと自分に言い聞かせてきた。
やはりこのまま死ねないと思い、今、告白する。)この録音は強迫して取ったものではない。ダムに連れて来た時に、自白すると言って車の中で録音したものだ。)
「それがあるのに私にどうしろというのだ。」
(所詮は昔のことだから、とっくに時効になっている。神崎が改心しようとも何も変わることはない。そしてあの弥刀井家はそのようなスキャンダルなど気にすることはないのが現実だ。そこで復習する以外に方法がないと悟った。そうしたら、お前のさしがねで弥刀井白朗と緑朗を匿(かくま)った。)
「それがどうした。」
(その場所をパソコンに送ったアドレスにメールしろ。)
「警視庁が匿っているのに私が分かるはずがない。それに分かったとして、言える訳がないだろう。」
(その時は、妹の命はない。)
母が叫んだ、
「百合は何の関係もないのだから返して。その代わり私が身代わりになるわ。」
(素晴らしい親子愛だね、残念だけど、そのつもりはないし、このペースで血が抜かれていけば、約十時間で死んでしまうでしょう。早くしてくださいね。早・乙・女・教・授。)
電話が切れた。
私は父と母に、今から伊藤さんの家に行き説明をしてくる。父さんと母さんは佐々木刑事達の指示を仰ぐように。それまでパソコンは常に蓋をして欲しいと頼んだ。
必ず助けると言った。すぐにコーヒーショップに行き車に乗った。マスターが車の横に来たので窓を開けた。そして二人だけの合図のグータッチをしテ、エンジンをかけ窓を閉めた。口元を見ると頑張れと言っているようだ。車を出し、伊藤さんの家に向かった。
伊藤さんの家の前に来ると結衣の車があった。家のインターフォンを押すとお母さんが出てきたので、そのまま入り玄関の中で頭を下げた。リビングからお父さんと百合と光一君が揃って出てきた。
犯人の要求を伝えるとお父さんが傍まできて、私の両肩を持ち教授が悪いのではなく悪いのは犯人です。人質がいるからといって犯人の要求を飲んではいけません。
百合と光一君も玄関に降りてきて必ず助け出します。と言って頭を下げた。
必死な様子のご両親が、
「百合さんが誘拐されなくてよかったです。だからあとは、真奈美を助けた下さい。教授を信じています。お願いします。」とご両親に懇願された。
そして三人は玄関の中で挨拶し、そのまま扉を閉めて表に出た。
百合が車の助手席に立つので何をしているのかと言うと、光一君にあとはよろしくと言って先に帰らせようとしたから、お前も帰れと言った。すると私と間違えられたのよ、このまま帰れるわけがないでしょう。お兄ちゃん、一緒に助けに行くわよと言って乗り込んだ。
光一君は実家に、そして私たちは、
「まず、どこへ行くの。」と百合が聞いた。
「心当たりがある人がいる。津野神さんと言う女性だ。」
携帯にかけた。
はい津野神ですと出られた。今どこにおられますかというと渋谷でグルメ取材ですと言われた。すぐに会っていただきたいというと、三神のことですかと言われた。そうですと答えたが、その物言いはご存知なのですね。すぐに行きますと伝えた。
高ぶる気持ちが抑えきれず、ブボボオンとアクセルをふかした。
その興奮する気持ちが分かったのか百合が、
「お兄ちゃん焦りは禁物よ。これはパトカーじゃないんだから。違反して止められたら終わりよ、いいわね。冷静に制限スピードで。」
「分かった。」と一言だけ言った。
渋谷の駅前に着いた。場所はここのはずだ。すると津野神さんが駅の方から小走りに駆け寄って来た。
「先ほども言いましたが三神のことですね。」
「本名は、心三神〈コミノカミ〉さんですよね。」
「もうご存知なのですか。」
「ええ、知っています。二人を殺し、あと一人殺そうとしていることも。」
「じゃ、なぜ殺そうとしているかもご存知ですよね。」
「知っています。神崎さんの最後の肉声を聞きました。」
「であれば、あなたは大学の教授であって刑事さんじゃないでしょ。放っておいてあげて下さい。サヨおばあちゃんの天国への手土産です。」
「それはできません。」
「なぜです。犯人が分かったのだから、あとは警察に任せればいいじゃないですか。」
「それができない事情があるのです。」
後ろから百合が、
「私は刑事の加藤と申します。今、早乙女教授の妹さんがその人に誘拐され、血を抜かれています。そして早乙女教授に三人目のターゲットの居場所を教えろと、もし教えられないのであれば、あと9時間程で亡くなってしまいます。お願いです。居場所を知っているのであれば教えて下さい。」
「教授それは本当ですか。」
「これが誘拐の写真です。」
スマホの写真を見せると、こんなことをと、両手で口を塞いだ。
「教授今から奥青梅ダムに行って下さい。」と言われ、三人は車に乗って、一路奥青梅ダムへ向かった。
車中で津野神さんが、行き先はサヨおばあちゃんのところです。そこもご存知ですよねと聞いてきたので、ええ、二度程行きましたと答えた。
津野神さんはしっかりとした口調で、
「心三神の居場所を知るのはサヨおばあちゃんしかおりません。」
