クラウドワークス5,000円案件、気づけば私は「調査員」になっていた(宮崎駿似のクライアント編)
正直に言う。
この案件をやっている間、私はnoteを一度も開けなかった。。。
「今日も書こう」と思うたびに、駿(仮名)の顔がちらついて、
パソコンを閉じた。
そのくらい、濃い5,000円だった。
始まりは、静かに終わったはずの案件
クラウドワークスで、
とある資料作成支援の募集を見つけた。
居住地域が応募条件に含まれており、
珍しく私にも当てはまりそうだったので応募してみた。
しかし、先方が求めていたのは
Adobeのソフトが使える人だったらしい。
私はAdobeが使えない。
返信もなく、案件は静かに終わった。
……と思っていた。
2か月後、突然届いたメッセージ
応募したことさえ忘れかけていた約2か月後、
突然クラウドワークスをとおしてメッセージが届いた。
「よろしければ、
PowerPointでの資料作成をお願いすることは
可能でしょうか?」
パワポなら使える。
会議資料も、プレゼン資料も作ってきた。
「これなら、私にもできそうやな」
一度閉じたはずの扉が、
2か月後にもう一度開いた。
私はわりと勢いよく、その扉に入った。
その向こうに、大量の資料と、
終わりの見えない
「あれ、どうなった?」が待っているとも知らずに。
面談に現れたのは、宮崎駿監督風の人だった
仕事前にオンライン面談をしたいと言われた。
資料作成だけならメッセージで
完結すると思っていたが、
初回だし仕方ないかと参加した。
画面に現れたのは、白髪の男性。
宮崎駿監督を、
ほんの少し思わせる風貌…
ここから先、心の中でこの人を
「駿」と呼ぶことにする。

悪いけれど、駿が画面に現れた瞬間、
私はちょっとホッとした。
今まで面談と言えば、30代前後の方ばかりだったから。
話し方も怖くない。
このときの私は、まだ何も知らなかった。
駿、めちゃくちゃ盛り上がる(2時間半)
初回面談の駿は、
ものすごく楽しそうだった。
仕事の説明から始まったはずが、
話題は業界の話、
制度の話、政治の話、過去の出来事、
そして駿なりの考察へとどんどん広がっていく。
私は
「へぇ、そうなんですね…」
「なるほど」と、
一応笑って返事をしていた。
内容は、私がこれまで関わったことのない分野である。
駿の熱量は上がる。
私の理解は追いつかない。
駿のうんちくは終わらない…
ふと時計を見ると、
開始から約2時間半が経過していた。
映画なら、
そろそろエンドロールが流れている時間である。
「最初やし、いろいろ教えてもらったし、
有意義な時間だったと思うことにしよ…」
そうでも思わないと、
失った2時間半を受け止められなかった。
前任者へのダメ出しに、少し引っかかった
面談中、以前別の方が作った資料を見ながら、
駿が何度か「これ、こうだと思うんだよねー」
「ここ、ちょっと違うんじゃないかなー」と言っていた。
「本人には言えなかったのかな。」
と少しだけ引っかかった。
このときの私は、
まだ知らなかった。
そのうち自分も、
画面の向こうでダメ出しされる
資料作成者になることを…
PowerPointの仕事だと思ったら、
調査から始まった
実際に始めてみると、
内容は一度も関わったことのない専門分野だった。
似たような言葉が並んでいるのに意味が違う。
年度で数字も条件も変わる。
PowerPointを作る以前に、
まず内容を理解する必要があった。
「PowerPointが使える人」
として仕事を受けたはずが、
気づけば複数の公開資料を開き、
過去のデータを探し、数字の根拠を確認していた。
採用された職種:資料作成者。
実際に働いていた職種:調査員。
たぶん、契約のどこかで職種が
勝手に変わったのだと思う。
2回目の面談で、駿の顔が違った
初稿を共有すると、
再び面談することになった。
前回はうんちくで楽しそうに盛り上がっていた駿が、
今回は画面を見ながら急に仕事の顔になっている。
「このグラフ、何の数字?」
「これは、どこから持ってきた情報?」
参考になりそうなデータを
一度表にしていたところ、駿は言った。
駿「これは必要じゃないかもしれないねぇ」
私「では、削除しておきますね」
駿「いや、逆に何の数字なのか知りたい。
そこを調べて僕に教えてほしいんだよね」
え。(まるなげ?)
「調べて」の一言には
資料を探す・読む・数字を確認する・
出典を照合する・整理する・パワポに作り直す、
これらが全部含まれている。
駿は簡単に言う。私は簡単には終わらない。
「今回は完璧にしてやる」と燃えた私
そこから調べた。関連資料、
過去の資料、
年度ごとの数字、
日程、実績、
条件の変化、
今後の流れ。
数字にはできる限り根拠をつけ、
説明が必要な内容には補足ページまで作った。
半分は仕事への責任感。
もう半分は意地である。
2回目の提出と面談に挑んだ。
私が調査結果を説明すると、駿は言った。
「ふーん。これ、あんまり必要じゃない内容だったね」
……ほとんどスルーだった。
何時間もかけて調べた内容は、
駿の「ふーん」に包まれ、
静かに旅立っていった。
いらないと言われた内容が、突然よみがえる
別のページを説明していると、
駿が言った。
「あー、あれどうなった?」
(上司か。。。)
“あれ”とは、前回「いらないと思う」と
言われた内容だった。
「前回、こちらは必要ないとおっしゃっていませんでしたか?」
思い切って確認すると、駿は言った。
「え? 前回、それにフィーチャーしてなかったっけ?」
…フィーチャー。
してない。むしろ、駿自身の手で退場させられたやん。
心の中の私は
「この前、いらんって言うてたやん」と全力で訴えていた。
しかし画面の中の私は大人である。
「そうでしたっけ。では、追加しておきますね」
社会人としての私と、心の中の私が、
別々の人生を歩み始めた瞬間だった。
「次でいいので」は、軽くない
面談の最後に、さらに希望が追加された。
「あれも入れてほしい」
「これも確認してほしい」
「次でいいので、項目ごとの区切りの見出しも作ってほしいんだよね」
「次回のために、この50ページほどの資料も読んでおいてほしい」
“次でいいので”は一見ありがたい言葉に聞こえる。
そう、継続案件ということだ。
駿は最初の面談から、次回もお願いしたいと何度も言っていた。
それはありがたい。
ただし、50ページの資料は、急がなくても50ページである。
今回の報酬は5,000円。(15ページ作成)
クラウドワークスの案件としては比較的高いほうだと思って応募した。
しかし、打ち合わせ、調査、データ確認、資料作成、追加ページ、修正、
再共有の作業まで含めると、話は変わってくる。
時給を計算しようとして、途中で電卓を閉じた。。。
知らないほうが幸せな数字も、この世にはある。
正直、次回は、私の中にはない。
面談後、追加4ページを半日で作った
面談後、即座に修正と追加ページの作成に取りかかった。
関連情報が更新されていたため、
最新内容を確認し既存ページにも反映した。
合計4ページ。
数字と日付を何度も確認し、
参考資料へのリンクも設定した。
半日ほどかかった。
その日のうちに
共有フォルダへアップロードし、
駿にメールを送った。
「ご依頼いただいた内容を反映し、資料を更新いたしました」
「最新情報をもとに、内容を整理しました」
「認識の相違や修正箇所がないか、ご確認いただけますでしょうか」
どこから見ても、
冷静なビジネスパーソンである。
一方、送信直後の私は
「また、あーだこーだ言われるんやろか」
と机の前でぐったりしていた。
同一人物とは思えない。
同じ「フィードバック」でも、こんなに違う
実はその日の面談後、
デザインスクールのコミュニティで、
講師でメンターももさんから課題LPのフィードバックを受けた。
こちらは、とても気持ちのいい時間だった。
改善点は理由と一緒に的確に教えてくれる。
ダメな点だけでなく
「ここまでしっかり作り込めている」と、
できている部分も伝えてくれる。
指摘を受けても「直したい」
「もっと良くしたい」と思える。
同じフィードバックなのに、
受け取ったあとの気持ちが全然違うもんだ。
一方は前へ進みたくなる。
もう一方は「前回いらないって言うてたやん」が
頭の中を周回する。
私は一刻も早く、
デザインの勉強に戻りたかった。
noteを開く元気すら残っていなかったのは、
たぶんこのせいだと思う。。。
案件を受けたことを後悔しているのか
正直、一瞬だけ思った。
「あのとき、2か月後のメッセージに返信しなければよかったかな」
幸いにもPowerPointは使える。
情報整理も調査もできる。
だから自分に向いている仕事だと思ったし、
実際、今回の仕事で得た経験は多かった。
知らない分野を調べ、
数字の根拠を確認し、
複雑な情報をスライドにまとめる力は、
確実に鍛えられたと思う。
共有フォルダへのアップロード、
リンクの設定、修正内容の記録、
クライアントへの説明
——実務でなければ経験できなかったことばかりだ。
ただし、「できる仕事」と
「続けたい仕事」は、同じではない。
今回学んだこと
オンライン面談の時間も、立派な作業時間である
「一応これも読んでおいてください」は、軽いお願いではない
重要なやり取りは、クラウドワークス上に記録として残す
55歳、またひとつ社会勉強をした。
まだ検収は終わっていない。
駿からの返信も、まだ来ていない。
私がデザインの勉強へ無事に戻れるのか。
それとも、再び「あれ、どうなった?」が飛んでくるのか。
この物語のエンドロールは、まだ流れていない。。。
