存在しないのに月170万円を稼ぐ。スペインで生まれたAIモデル「アイタナ」の稼ぎ方を丸ごと分解する
インフルエンサーに広告を頼むと、費用は年々上がり、当日ドタキャンされたり、素行が原因で炎上に巻き込まれたりと、思わぬトラブルがつきものです。この面倒に嫌気がさして、いっそ自分たちで理想のインフルエンサーをAIで作ってしまった人たちがいます。しかもその架空の人物が、実在の人間さながらにブランドから広告料を受け取り、月に最大170万円を稼いでいます。今回はこの一つの事例だけを深く掘り下げて、なぜ成立しているのか、そして日本の私たちがどう応用できるのかを考えていきます。
なお、本文中の金額はユーロ建ての数字を1ユーロ170円で換算した目安です。為替によって前後する点はご了承ください。
取り上げる事例:AIモデル「アイタナ・ロペス」
主役はスペインのバルセロナにある小さなクリエイティブ会社、ザ・クルーレスです。創業者のルベン・クルス氏は、当時クライアントが少なく苦しい時期を過ごしていました。仕事が動かない原因を振り返ると、デザインの問題ではなく、起用したモデルやインフルエンサー側の都合でプロジェクトが延期や中止になるケースが多いことに気づきます。共同創業者のディアナ・ヌニェス氏も、インフルエンサー費用が高騰し続けていることに強い違和感を持っていました。そこで二人は、いっそ理想の人物を自分たちで生み出そうと考えます。
こうして2023年に誕生したのが、ピンク髪の25歳という設定を持つ架空の女性、アイタナ・ロペスです。バルセロナ在住のライフスタイルモデルという人物像で、実在しないにもかかわらず、Instagramのフォロワーは1年半ほどで34万人を超えました。生成には敵対的生成ネットワークと呼ばれるAIの手法が使われ、毎回同じ顔立ちを保ちながら、旅行先やジム、カフェなど無数のシチュエーションの写真が作られていきます。
収益の柱は、実在のインフルエンサーとまったく同じです。彼女はブランドの広告塔として起用され、投稿1本あたりおよそ1000ユーロ、日本円で17万円ほどを受け取ります。実際にヘアケアブランドのオラプレックスや、スペインのアパレルであるブランディー・メルビル、下着ブランドのインティミッシミといった実在企業とタイアップしてきました。スポーツサプリメントのブランドの広告に起用されたこともあります。さらにFanvueというサブスクリプション型のプラットフォームでも有料コンテンツを配信しており、こうした収入を合わせると、月の稼ぎは平均でおよそ3000ユーロ、日本円で50万円前後、調子の良い月には最大1万ユーロ、170万円ほどに達するといいます。存在しない人物が、実在の人間の何倍もの効率でお金を生んでいるわけです。
補足しておくと、バーチャルインフルエンサーというジャンル自体は新しいものではありません。数年前から活動するリル・ミケーラのような先行例は、年間で数百万ドル規模を稼ぐとされてきました。ただし従来は制作に大がかりなチームとCGの技術が必要でした。アイタナの事例が衝撃的なのは、生成AIの登場によって、小さな会社が短期間で、しかも実写と見分けがつかない品質のキャラクターを立ち上げられるようになったことを証明した点にあります。かつては一部のプロだけの領域だったものが、個人の手の届く副業の射程に入ってきたわけです。
この分野の作り方については、海外の動画でも詳しく解説されています。たとえばYouTubeの「How to create an AI Influencer in 2026」という動画では、キャラクターの顔を毎回一貫させるためのデータセットの作り方や、LoRAと呼ばれる追加学習の手法まで踏み込んで説明されています。テキストの記事だけでは伝わりにくい制作の実際が、動画だと一気に具体的に見えてきます。参考リンクにURLを載せておきます。
なぜこの事業は成立しているのか
華々しい数字の裏側にある本質的な仕組みを掘り下げてみます。
第一に、この事業は写真や美しさを売っているのではなく、人間を起用することの面倒の消滅を売っています。ブランド側が本当に困っているのは、モデルの当日キャンセル、ギャラ交渉、スケジュール調整、そして起用した人物のスキャンダルで広告ごと炎上するリスクです。アイタナにはこれらが一切ありません。二十四時間いつでも撮影でき、文句も言わず、値上げ交渉もせず、私生活で問題を起こすこともない。ブランドがお金を払うのは、きれいな画像そのものにではなく、この安心と手間の削減に対してです。ここを正確に射抜いているからこそ成立しています。
第二に、キャラクターという資産を自分たちで完全に所有している点です。実在のインフルエンサーを起用する場合、その人気も評判も本人のものであり、契約が切れれば関係は終わります。一方でアイタナは、顔も人格も投稿の権利もすべて制作会社の手の内にあります。人気が育てば育つほど、その価値はまるごと自社の資産として積み上がっていきます。他人の影響力を借りるのではなく、影響力そのものを保有するという発想の転換が、この事業の中核にあります。
第三に、制作コストが一度きりで、あとは限りなく軽い点です。専用のAIモデルさえ用意すれば、追加の写真は電気代程度のコストでいくらでも生成できます。撮影スタジオも、モデルへの日当も、移動費もかかりません。一人でも運用でき、投稿を増やすほど露出が増えて広告の引き合いも増えるという、利益率の高い構造になっています。
第四に、物語性のあるキャラクター設定が、単なる画像を人格へと引き上げている点も見逃せません。アイタナには年齢や出身地、性格や趣味といった設定が丁寧に作り込まれており、フォロワーはその人物像に親しみを感じて日々の投稿を追いかけます。人がフォローするのは整った顔立ちだけではなく、そこに感じる人格や物語です。さらに皮肉なことに、実在しない人物だという事実が世界的なニュースになったことで、かえって知名度が跳ね上がりました。話題性そのものが宣伝として働いたわけです。キャラクターに背景と物語を持たせる設計は、広告費をかけずに注目を集めるうえで、個人でも再現しやすい部分だといえます。
一方で、この事例には見落としてはいけないリスクもあります。まず、架空の人物であることを隠して人を欺いているという批判が根強くあり、実際にこの事例も世界的な議論を呼びました。現在では多くのプラットフォームでAI生成であることの明示が求められる流れが強まっており、隠して運用するやり方はもはや通用しません。加えて、実在の人物に似せすぎれば肖像権の問題が生じますし、非現実的な容姿が美の基準をゆがめるという倫理的な指摘もあります。さらに、収益の一部が成人向けに近いサブスク配信に依存している点は、ブランド価値との両立が難しく、扱いを誤ると本業のタイアップを失いかねません。人物を模したAIサービスは、稼げるかどうかだけでなく、こうした配慮まで含めて設計する必要がある点は、冷静に受け止めておきたいところです。
同じ考え方を別の場所に応用できないか
大事なのは、水着のAI美女を作って稼ぐことではありません。この事例が体現している「人間を起用する面倒をAIで消し、影響力そのものを自社資産として所有する」という考え方を、別の商材や日本の市場に移し替えられないかを考えることです。応用アイデアを三つ挙げてみます。
一つ目は、地方の中小企業や店舗のためのバーチャル広報担当です。地方の企業がタレントやモデルを起用するのは費用の面で現実的ではなく、社員が顔出しするのも負担が大きいのが実情です。その会社専用のAIキャラクターを一体作り、商品紹介やSNS投稿、キャンペーン告知をすべて任せる。炎上リスクも出演料もなく、一度作れば長く使える広報資産になります。人手も広告費も限られる地方企業ほど、この面倒の削減が刺さるはずです。
二つ目は、専門分野に特化したバーチャル解説者です。医療、法律、金融、教育といった硬い分野では、実在の専門家を継続的に露出させるのは時間もコストもかかります。そこで、正確な情報発信に徹する信頼感のあるAIキャラクターを立て、監修は人間の専門家がつくという形にする。顔出しをためらう専門家の知見を、親しみやすいキャラクターの姿で届けられます。美しさで勝負しない分、炎上や倫理面のリスクも抑えやすいのが利点です。
三つ目は、ECサイト向けの着用モデルの置き換えです。アパレルや雑貨のネットショップにとって、モデル撮影は毎シーズン発生する重い固定費です。自社ブランド専用のAIモデルを用意すれば、新商品を着せた画像を撮影なしで量産でき、サイズ違いや色違いの見え方も柔軟に作れます。ここでも、成果物である画像の裏にある撮影の面倒と費用を丸ごと消しているという構造は同じです。実際、海外ではこうしたAI着用モデルを月額で提供するサービスがすでに複数立ち上がっており、個人が特定のジャンルに絞ってこの制作を請け負うだけでも、立派な副業の入口になります。撮影スタジオを持たなくても、パソコン一台で小さなブランドの悩みを解けるところに、この波の面白さがあります。
三つに共通するのは、AI美女そのものが価値なのではなく、誰のどんな起用の面倒を消し、その影響力を自社に残せるかがはっきりしているという点です。応用を考えるときは、流行のツールから発想するのではなく、身の回りで人を起用するときの面倒から逆算するのが近道です。
まとめ:日本の読者が今日からできる一歩
この事例から持ち帰りたいのは、たった一人の会社でも、人間を起用する面倒を的確に消し、影響力を自社資産として所有すれば、大きな収益が成り立つという事実です。そして鍵は最新のAIそのものよりも、誰のどんな手間や不安を消すのかという着眼点にあります。
今日からできる最初の一歩は、身の回りで「人に頼むのが面倒だな」「出演料や撮影費が重いな」と感じている場面を三つ書き出してみることです。そのうえで、その役割はキャラクターで代替できるか、AI生成であることを堂々と明示しても価値が残るか、そしてその影響力は自分の資産として積み上がるか、という三つの問いを当ててみてください。この検証を紙の上で回すだけでも、ふわっとしたAI副業という言葉が、具体的な一歩に変わっていきます。稼げるかどうかと同じくらい、隠さず誠実に運用できるかを最初に考えておくことが、長く続けるための土台になります。
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参考リンク
Euronews「Meet the Spanish AI model earning up to €10,000 a month」 https://www.euronews.com/next/2024/12/27/meet-the-first-spanish-ai-model-earning-up-to-10000-per-month
Fortune「The Clueless agency made AI model Aitana after becoming sick of influencers」 https://fortune.com/europe/2023/11/23/spanish-influencer-agency-earned-11000-ai-model-posers/
Entrepreneur「This AI Fitness Model Makes $11,000 a Month」 https://www.entrepreneur.com/business-news/this-ai-fitness-model-makes-11000-a-month/465975
Wikipedia「Aitana López」 https://en.wikipedia.org/wiki/Aitana_L%C3%B3pez
動画:「How to create an AI Influencer in 2026 | Make Money with AI」(YouTube、制作手法の解説) https://www.youtube.com/watch?v=omeRlOxIcoQ
動画:「EXACTLY How to Start Making AI Influencers」(YouTube、収益化の実際) https://www.youtube.com/watch?v=UTcTcgum1-U
