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情報は、集めるほど動けなくなる

「対象別・学びの階段」、第10回。

前回の『具体と抽象』で、考える力の話をした。今日は、その考える力を、実際の「成果」に変える話をしたい。取り上げるのは、内田和成さんの『アウトプット思考』。副題は「1の情報から10の答えを導き出すプロの技術」だ。

まず、多くの人が信じている思い込みを、一つ、崩したい。「情報は、多ければ多いほどいい」――これだ。

私たちは、何かを任されると、つい、まず情報を集めようとする。資料を読みあさり、ネットで検索し、きれいに整理する。たくさん集めて、たくさん知っている人が、できる人だ、と。かつての内田さんも、そうだったという。でも、あるとき気づく。せっかく集めた情報の、ほとんどは、使われずに終わる、と。

内田さんは、これを「網羅思考のワナ」と呼ぶ。使える時間が100あるとして、90を情報集めに、9を整理にあて、最後の1でしか、肝心の「考える」をやっていない。順番が、完全に、逆なのだ。

そこで内田さんが提案するのは、シンプルな逆転だ。「インプット→アウトプット」ではなく、「アウトプット→インプット」。つまり、先に「どんな答え(アウトプット)を出したいのか」を決めて、そこから逆算して、必要な情報だけを、最小限、取りに行く。

この本に、忘れられない話が出てくる。内田さんが、ある大先輩の堀紘一さんに、どうすれば確実に儲かるかと聞くと、こう返されたという。「レースが終わってから、勝った馬に賭ければいい」。もちろん、そんなことはできない。でも、完璧な情報が出そろうまで決めない人は、じつは、これと同じことをしている。情報を待っているうちに、勝負は、とっくに終わっているのだ。

この本には、社員のあなたに、ぜひ知っておいてほしい区別が、もう一つある。「仕事」と「作業」の違いだ。

内田さんは言う。「ある目的を達成すること」が仕事で、「その目的を達成するための手段」が作業だ、と。そして、特に若いうちは、この二つを取り違えて、作業を仕事だと思い込んでしまいがちだ、と。資料を百ページ作った。データをきれいにまとめた。たしかに、大変な労力だ。でも、それは「作業」であって、「その資料で、上司やお客さんに、どんな判断をしてもらいたいのか」という目的=アウトプットを見失っていたら、ただの自己満足で終わってしまう。

だから、若いあなたに伝えたい。何か任されたら、手を動かす前に、一度だけ、立ち止まってほしい。「この仕事の、本当のアウトプットは何だろう?」「これを受け取った人に、結局、どうなってほしいんだろう?」と。それを決めてから、情報を集める。たったこれだけで、集める情報も、作る資料も、驚くほど絞られて、鋭くなる。

じつは、私のコンサルティングも、この「アウトプット→インプット」でできている。お客さんが本当にほしいのは、分厚い分析資料ではない。「で、うちは、どうすればいいのか」という答えのほうだ。だから私は、対話で得たことから、先に「答えの仮説」を、ビジョンマトリクスのような一枚のアウトプットにしてしまう。そして、それを見ながら、また対話する。完璧な情報を待っていたら、いつまでたっても、お客さんの役には立てない。

そして、これはAIの時代に、ますます効いてくる。情報を集めて、まとめるだけなら、もう、AIのほうが速い。人に残る価値は、「どんな問いを立て、どんなアウトプットを出すか」のほうへ、移っていく。前に別のシリーズでも書いたけれど、AIの時代に最後に残るのは、「自分なりの答え」を出せる力だと思う。

最後に、少し個人的なことを。私が、この連載を毎回書いているのも、じつは「アウトプット思考」そのものだ。本を、ただ読むだけなら、内容は右から左へ抜けていく。でも、「誰かに手渡す一記事」というアウトプットを決めて読むと、同じ本から拾えるものが、まるで変わってくる。書くために読むと、いちばん深く学べるのだ。

アウトプットは、誰かのためであると同時に、たぶん、いちばんの自分への投資でもある。あなたも何か一つ、「出すこと」を先に決めてから、学びはじめてみませんか。

――「対象別・学びの階段」第10回。次回は、人との関わりの中で、自分の心を少し軽くする一冊、「課題を分ける」という考え方を取り上げます。

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