全員に、同じ接し方をしていないか
「対象別・学びの階段」、第16回。経営幹部編の、二冊目。
前回のドラッカーさんで、「マネジャーの仕事は、人の強みを発揮させることだ」という話をした。では、具体的に、一人ひとりと、どう関わればいいのか。その、いちばん実践的な地図をくれるのが、今日の一冊。ケン・ブランチャードさんたちの『1分間リーダーシップ』だ。
新しくマネジャーになった人が、まず、やってしまいがちな失敗がある。全員に、同じ接し方をすることだ。
面倒見のいい人は、誰にでも、手取り足取り教えようとする。逆に、任せる主義の人は、誰にでも、「あとは頼んだ」と言う。どちらも、悪気はない。自分が「良い」と思う関わり方を、全員に、平等に、注いでいるだけだ。でも、それが、なぜか、うまくいかない。
この本は、その理由を、明快に説明してくれる。「リーダーシップに、唯一の正解はない」。正しいスタイルは、相手(部下)の、いまの状態によって、変わるのだ、と。ブランチャードさんは、これを「状況対応型リーダーシップ」と呼ぶ。
部下の状態を、「能力」と「意欲」の二軸で、四つに分ける。
新しい仕事に、やる気は満々だけれど、まだやり方がわからない人(熱意ある初心者)。少し慣れて、思ったより難しいと壁にぶつかり、意欲が落ちている人(幻滅した学習者)。能力はついてきたけれど、自信がまだ揺れている人(慎重な実行者)。能力も意欲も高く、任せて大丈夫な人(自立した達成者)。
そして、それぞれに、関わり方を変える。最初は、細かく「指示」する。次は、寄り添って「コーチ」する。次は、後ろから「支援」する。最後は、思いきって「委任」する。相手のステージが上がるにつれて、手を、少しずつ、放していく。
この本で、いちばん大事な気づきは、これだ。「同じ人でも、仕事が変われば、ステージは変わる」。営業ひとすじ十年のベテランでも、はじめてマネジャーになれば、その仕事では、また「初心者」に戻る。だから、「あの人はできる人だから」と一括りにして、いきなり全部を委任すると、その人は、こっそり溺れてしまう。
じつは、この考え方は、私のコンサルティングの、根っこにもあるものだ。
私は、長く中小企業に関わるなかで、「お客さんのステージに合わせて、関わり方を変える」ことに、いちばんの価値を見出してきた。同じ「経営者」でも、創業したての人と、二代目として引き継いだ人と、事業がある程度まわっている人とでは、必要な関わりが、まるで違う。全員に同じ"正解"を渡しても、響かない。相手の、いまの立ち位置に、こちらが合わせにいく。それが、伴走という仕事だと思っている。ブランチャードさんの言っていることは、じつは、部下にも、お客さんにも、そして――子育てにも、そのまま効く。
正直に言えば、私は、これがずっと苦手だった。内向的で、つい自分の手で全部やってしまうタイプなので、「委任」が、なかなかできない。かと思えば、遠慮して、必要な「指示」を出しそびれ、相手を迷わせてしまうこともある。だから私は、いまも、この本を、自分への戒めとして、読み返している。
だから、はじめて人を率いるあなたに、明日からの一歩を、一つ。あなたのチームのメンバーを、一人ずつ、思い浮かべてほしい。そして、その人に、「いま任せている、あの仕事」について、こう考えてみる。「この人は、この仕事では、四つのステージの、どこにいるだろう」と。
もし、部下が思うように動いていないなら――その人を責める前に、一度、疑ってみてほしい。自分の関わり方が、その人の、いまのステージに、ちゃんと合っているだろうか、と。動かないのは、相手のやる気のせいではなく、こちらの"接し方の、ズレ"かもしれない。
リーダーシップは、相手を変える技術ではない。相手に合わせて、自分の関わり方のほうを、変えていく技術だ。正解が、一つではないからこそ、難しく、そして、面白い。
――「対象別・学びの階段」第16回。次回は、その関わり方の"基本の型"を、さらにシンプルな三つの秘訣に凝縮した、姉妹編の一冊を取り上げます。
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