経験は、そのままでは学びにならない
「対象別・学びの階段」、第13回。
応用編も、残りわずかになった。ここまで、自己管理・思考・アウトプット・課題の分離・集中と、仕事の武器を渡してきた。今日は、それらすべての"効きを、何倍にもする"一冊。熊平美香さんの『リフレクション(REFLECTION)』。副題は「自分とチームの成長を加速させる内省の技術」だ。
いきなりだけれど、少し厳しいことを言う。経験は、そのままでは、学びにならない。
同じ三年間を過ごしても、ぐんぐん伸びる人と、あまり変わらない人がいる。その差は、才能でも、経験の量でもない。経験を、ちゃんと「振り返って」、教訓に変えているかどうか、だ。熊平さんの言葉を借りれば、「過去を反省するのではなく、リフレクションで、経験を知恵に変える」。振り返る人だけが、経験を、次の力に変えていける。
ここで、大事な区別がある。リフレクション(内省)は、「反省」とは違う。反省は、うまくいかなかった自分を、責めること。内省は、起きたことを、いったん客観的に、そして少しだけ優しく、眺め直すことだ。「自分はダメだ」と落ち込むのではなく、「あのとき、何が起きていて、そこから何が学べるか」と、一歩引いて見る。これは特に、自分を責めがちな人にこそ、知っておいてほしい区別だ。
この本のいちばんの道具が、「認知の4点セット」だ。何かを振り返るとき、それを四つに分けて見る。【意見】自分はどう思ったか。【経験】その意見は、どんな経験から来ているか。【感情】そのとき、どんな気持ちだったか。【価値観】そこから見える、自分が大事にしているものは何か。
自分の「意見」だけを見ていると、それが絶対の正解のように思えてしまう。でも、その裏の、経験・感情・価値観まで掘ってみると、「ああ、自分は、こういう体験があるから、こう感じるんだな」と、自分を客観視できる。これが、メタ認知――自分のものの見方を、上から眺める力だ。
じつは、この「内省」は、私にとって、特別な言葉だ。
第4回で、自分のストレングスファインダーの話をした。私の資質の、いちばん上に並んでいたのが、「内省」だった。ずっと一人で、あれこれ考えこんでしまう性質を、若いころは、暗くて、めんどうな欠点だと思っていた。でも、それは、リフレクションという、立派な"技術の素質"でもあったのだ。この連載を書いているのも、突き詰めれば、読んだ本と、自分の経験を、ひたすら振り返って、言葉にしている――リフレクションそのものなのだと思う。
少し仕事に慣れて、後輩もできてくるあなたに、伝えたい。リフレクションは、これから、あなたの"軸"をつくっていく。熊平さんは、「自分に正直な(オーセンティックな)リーダー」の話をする。ぶれない軸を持つ人は、まわりを、主体的に動かしていく。そして、その軸をつくるのが、ほかでもない、リフレクションなのだ。「自分は、どこから来て、いま、どこに向かっているのか」。それを知っている人は、強い。
だから、明日から、一日の終わりに、三分でいい。今日、心が動いた出来事を一つ選んで、四つ、自分に問いかけてみてほしい。「自分は、どう思った?(意見)」「それは、どんな経験から?」「どんな気持ちだった?(感情)」「自分は、何を大事にしているんだろう?(価値観)」。
たったこれだけで、ただ流れていくだけだった一日が、明日への学びに変わる。
そして、もしあなたが、私のように、内向的で、考えこみがちなタイプなら――どうか、それを、欠点だと思わないでほしい。その性質は、うまく使えば、いちばんの「学ぶ力」になる。振り返る人だけが、伸びていく。あなたは、たぶん、その素質を、はじめから持っている。
――「対象別・学びの階段」第13回。次回は、いよいよ応用編の締めくくり。走り続けるための、いちばん大事な"土台"――「幸福」そのものを扱う一冊を取り上げます。
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