全部やろうとするから、うまくいかない
「対象別・学びの階段」、第12回。
前回の『嫌われる勇気』で、自分のものではない荷物を下ろす、という話をした。両手が空いたら、今度は、その空いた手とエネルギーを、どこに注ぐか。今日は「選択と集中」の一冊。リチャード・コッチさんの『人生を変える80対20の法則』だ。
聞いたことのある人も、多いと思う。パレートの法則、とも呼ばれる。「結果の80%は、原因の20%から生まれる」というものだ。
コッチさんは、これを、もっと日常の言葉に言い直す。「あなたが成し遂げる仕事の80%は、費やした時間の20%から生まれる」。裏を返せば、私たちが使っている時間の80%は、たった20%の成果しか、生んでいない。
これは、なかなか受け入れがたい。私たちは、どの仕事も、どのお客さんも、等しく大事だと思いたい。頑張った時間の分だけ、報われてほしいと願う。でも、現実は、そうなっていない。コッチさんは、はっきり書く。「努力と報酬は、釣り合わない。懸命に汗を流しても、働く場所を間違えると、その汗は報われない」と。
大事なのは、頑張る「量」ではなく、頑張る「場所」だ。成果の大半を生む、あの2割――コッチさんは"少数の重要なもの"と呼ぶ――を、見極める。そして、そこに、資源を集中させる。残りの、たいして成果を生まない8割は、思いきって、減らすか、手放す。
この本を読んで、少し救われた告白がある。コッチさん自身、この法則を知っていながら、長いあいだ活かせなかった、というのだ。「働きすぎていたし、罪悪感にさいなまれ、周りに合わせろという圧力もあった」と。
これは、私にも、痛いほどわかる。若いころの私は、とにかく、目の前のこと全部を、真面目に、等しく抱え込もうとしていた。手を抜くのは悪いことだ、全部やりきるのが誠実さだ、と思い込んでいた。でも、そうやって全部を平らに頑張っているうちは、じつは、何ひとつ尖らなかった。いま振り返れば、あれは、自分の「効く2割」が、見えていなかっただけなのだと思う。
社員として、少し仕事に慣れてきたあなたに、伝えたい。忙しさは、しばしば「うまくいっている」ように錯覚させる。でも、時間がぎっしり埋まっていることと、成果が出ていることは、まったく別の話だ。
一度、立ち止まって、自問してほしい。「自分の成果の大半を生んでいる、あの2割の仕事は、何だろう」。そして、その逆も。「時間ばかり食っているのに、たいして成果につながっていない8割は、何だろう」と。それが見えたら、あとは、勇気の問題だ。効かない8割を、減らす。断る。人にゆだねる。そうして空けた時間を、効く2割に、ぶつける。
じつは、私が自分の仕事の柱を「集中経営」と名づけているのも、根っこは、ここにある。会社の資源も、経営者の時間も、限られている。だからこそ、あれもこれもと薄く広げるのではなく、「本当に効く一点」に、集中する。私は投資もするのだけれど、そこでもコッチさんは、面白いことを言っている。卵を一つの籠に、慎重に選んで入れ、あとは鷹のように見守れ、と。ただの分散ではなく、選び抜いた一点への集中。これは、仕事にも、人生にも、そのまま効く。
一つだけ、念のため。80対20は、「手を抜け」という話ではない。むしろ、逆だ。どうでもいい8割から手を引くのは、本当に大事な2割に、全力を注ぐためだ。全部を50点でこなすより、一点を120点にする。そのための、引き算なのだ。
成果は、足し算だけでは、伸びていかない。むしろ、「何をやらないか」を決める――その引き算の勇気のほうが、ずっと難しく、そして、ずっと効く。
だから、明日、あなたのやることリストを、一度、眺めてみてほしい。そして、一つでいい。「これは、やめてもいいかもしれない」というものに、そっと線を引いてみる。その一本の線が空けた、小さな余白が、あなたの、いちばん効く2割を、少しずつ育てていく。かつて、全部を抱えて空回りしていた私からの、心からのおすすめだ。
――「対象別・学びの階段」第12回。次回は、その集中した経験を、きちんと"次の力"に変えるための一冊、「振り返る技術」を取り上げます。
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