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幸せには、順番がある

「対象別・学びの階段」、第14回。応用編の、最後の一冊になる。

ここまでの応用編で、私は、あなたに、たくさんの"武器"を渡してきた。自己管理の背骨、考える力、アウトプット、課題の分離、選択と集中、振り返る技術。どれも、仕事で成果を出すための、大事な道具だ。

でも、最後に、どうしても、この一冊を置きたかった。なぜなら、これらの武器は、ある"土台"の上でしか、生きないからだ。樺沢紫苑さんの『精神科医が見つけた 3つの幸福』。

樺沢さんは、私たちの幸福を、三つの脳内物質で説明する。少しだけ、お付き合いください。

一つめは、セロトニン。心と体の健康、安らぎの幸福。体調がよくて、気分が爽やかな、あの感じだ。 二つめは、オキシトシン。人やペットとの、つながりや愛情の幸福。誰かと一緒にいて、ほっとする、あの感じ。 三つめは、ドーパミン。お金や成功、達成の幸福。目標を達成して、ドキドキ高揚する、あの感じだ。

そして、この本のいちばんの核心は、ここからだ。この三つには、「正しい順番」がある、と樺沢さんは言う。セロトニン(健康)→ オキシトシン(つながり)→ ドーパミン(成功)。この順番だ。そして、ほとんどの人が、この順番を、間違えている。

多くの人は、いちばん最後のはずのドーパミン――成功、お金、達成――を、いちばん最初に、追いかける。健康を削り、人とのつながりを後回しにして、我武者羅に成果を目指す。でも、その先に、幸せは待っていない。樺沢さんは、精神科医として、そういう人を「山ほど見てきた」と書く。健康という土台を失えば、どれだけ成功しても、いつか崩れてしまうのだ。

じつは、この話は、私にとって、まったくの他人事ではない。

この連載で何度か触れてきたけれど、私は、社会人になりたてのころ、税理士事務所の仕事がどうしても合わず、ミスを重ねて、心が、だんだん萎えていった。いま思えば、あれは、心の元気が底をついて、うつの一歩手前まで行っていた状態だったのだと思う。朝、起きるのがつらくて、何をしても不安が消えない。成果を出すどころの話では、まったくなかった。

土台が崩れると、人は、こんなにも動けなくなるのか――そのことを、私は、身をもって知っている。だからこそ、成果の話をさんざんしてきた最後に、どうしても、この順番を伝えたかった。

少し仕事に慣れて、成果を出したい気持ちが強くなってくるあなたに、伝えたい。「頑張る」には、健康という基盤が、絶対に必要だ。睡眠を削り、体を痛めつけて出した成果は、長くは続かない。そして、家族や友人とのつながりを犠牲にして手にした成功は、たどり着いてみると、驚くほど、寂しいものだ。

樺沢さんは、これを「幸せの三段重理論」と呼ぶ。セロトニン(健康)とオキシトシン(つながり)という土台が、しっかり固まっていれば、その上に、ドーパミン(成功)は、高層ビルのように、いくらでも積み上げていける、と。逆に、土台がなければ、どんなに高く積んでも、いつか、傾く。

だから、明日からの一歩は、これにしたい。今日、成果のための"やること"を考える前に、まず、二つだけ、確かめてほしい。「昨日、ちゃんと眠れたか」。「最近、大切な人と、ちゃんと話したか」。この二つが満たされていない日は、成果を焦る前に、まず、そこを、整える。遠回りに見えて、それが、いちばんの近道だ。

私自身、いまは、意識して、走るようにしている。朝、日を浴びて走ると、それだけで、心が少し整う(じつは、朝日と運動は、セロトニンを増やすのだと、樺沢さんも書いている)。仕事も、家族も、健康も、どれか一つに、全部は賭けない。いくつかの柱で、自分を支える。遠回りをして、心を一度こわしかけたからこそ、この"土台の順番"だけは、もう、間違えたくないのだ。

これで、応用編――「社員として、自分の仕事で価値を出す」ための一冊たちは、おしまいだ。土台編で「自分と人との付き合い方」を整え、応用編で「成果を出す武器」と、「その武器を支える土台」を渡した。ここまでが、一人のビジネスパーソンとしての、足腰だと思う。

次からは、いよいよ、視点が変わる。自分一人ではなく、「チームで成果を出す」側――経営幹部の一冊へと、階段を上っていく。人を率いるというのは、また、少し違う景色だ。

でも、どんなに高く上っても、いちばん下の土台は、ずっと同じ。健康と、つながりと、感謝。その上に、すべては、積み上がっていく。

――「対象別・学びの階段」第14回(応用編・完)。次回から、経営幹部編に入ります。

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