急がば、インサイドの充実から 7つの習慣のすすめ
「対象別・学びの階段」、第8回。ここから「応用編」に入る。
前回までの土台編で、感謝・不安・成長・強み・関心・傾聴・意見と、「自分を整え、人とつながる足場」を積んできた。応用編は、その足場の上で、「自分の仕事で、どう価値を出すか」。その最初の一冊に、どうしてもこれを置きたかった。スティーブン・R・コヴィーさんの『完訳 7つの習慣』だ。
ビジネス書の古典中の古典で、いまさら紹介するのも、少し気が引ける。でも、この本を「有名だから、たぶん知っている」で通り過ぎてしまうのは、本当にもったいない。だから、社員として一歩を踏み出すあなたに、あらためて渡したい。
まず、いちばん大事なところから。この本の副題は、「人格主義の回復」だ。
コヴィーさんは、成功に関する古今の文献を、二つに分ける。一つは「個性主義」。感じのいい態度や、話し方、テクニックで、うまくやろうとする考え方。もう一つは「人格主義」。誠実さ、謙虚さ、勇気といった、内面の人格を土台にする考え方だ。そしてコヴィーさんは、はっきり言い切る。テクニックは、人格という土台の上にあって、はじめて生きる、と。
――この連載を最初から読んでくれている人は、「あれ?」と思うかもしれない。そう、これは、私がこの連載でずっと言ってきたことと、同じなのだ。感謝も、傾聴も、小手先ではなく、まず心が先。順番を逆にすると、ただの操作術になってしまう。コヴィーさんは、それを「人格が先、テクニックは後」と、体系立てて言い切ってくれている。
コヴィーさんは、印象的なたとえを使う。「農場の法則」だ。農場に、一夜漬けは通用しない。春に種をまくのを忘れ、夏は遊びほうけ、秋になって一夜漬けで収穫――そんなことは、ありえない。まいた種の分しか、刈り取れない。近道はないのだ。そして、人の成長も、人間関係も、じつは同じ「農場のシステム」で動いている、と。
これは、なかなか耳が痛い。私たちはつい、信頼や人間関係にまで、近道を探してしまう。でも、信頼という果実は、地道に種をまいた分しか、実らない。
この本には、七つの習慣がある。細かい中身は、ぜひ本を読んでほしい。でも、いちばんの背骨を一つだけ挙げるなら、「インサイド・アウト」――内から外へ、という順番だ。
まわりを変えたい、状況を変えたい、と思ったとき、私たちはつい、外側から手をつけたくなる。あの人が悪い、環境が悪い、と。でもコヴィーさんは、まず自分の内側(=人格、ものの見方)を変えることから始めよ、と言う。七つの習慣も、前半の三つは「私的成功」――自分を律すること。後半の三つは「公的成功」――人と協力すること。そして、私的成功は、公的成功に、必ず先立つ。
だから、タイトルにこう書いた。「急がば、私的成功から」。人と信頼関係を築きたいなら、まず、自分が信頼に足る人間であること。この順番だけは、飛ばせない。
じつは私は、この考え方に、ずいぶん影響を受けている。自分の仕事の柱を、「集中経営とインサイド・アウト」と名づけているくらいだ。会社をよくするのも、まず経営者自身の内面(軸)から。外側の戦略や仕組みは、その次にくる。順番を間違えると、どんな立派な計画も、根づかない。これは、若いころに自分の価値観を後回しにして、ずいぶん遠回りをした、私自身の痛い実感でもある。
社員のあなたに、明日からの実践を、一つだけ挙げたい。第一の習慣「主体的である」を、思い出してほしい。
コヴィーさんは、自分の関心事を「関心の輪」と「影響の輪」に分ける。天気や、上司の性格や、会社の方針は、気になるけれど、自分では動かせない(関心の輪)。一方、自分の態度、自分の準備、自分の返事は、自分で動かせる(影響の輪)。エネルギーを、動かせないほうにばかり注いでいると、人は不満と無力感でいっぱいになる。逆に、動かせる「自分の一歩」に集中する人は、少しずつ、その影響の輪を広げていく。
これは、第2回の『道は開ける』とも、地続きだ。動かせない未来を心配するより、今日、動かせる一手に手をつける。主体的であるとは、つまり、そういうことだ。
訳も丁寧で、ぶ厚い本だけれど、一気に読まなくていい。一つの習慣を、一年かけて自分のものにするくらいのつもりで、ちょうどいいと思う。
最後に、農場の法則を、もう一度。あなたのキャリアも、人間関係も、一夜漬けはきかない。焦って、うまく見せる技術を仕入れる前に、まず、いい種をまくこと。地味だし、時間もかかる。でも、まいた種は、必ず、あなたの分だけ実る。急がば、私的成功から。私も、そう自分に言い聞かせながら、いまも、まだ種をまいている途中だ。
――「対象別・学びの階段」第8回。次回は、その"考える力"の土台になる一冊、「具体」と「抽象」を行き来する技術を取り上げます。
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