見出し画像

「トップが全社一律のビジョンを掲げよ」と「現場の自律分散に委ねよ」――矛盾点シリーズ・第17回

前回は「常識を捨てると不易を守る」を並べた。今回は、組織の動かし方をめぐる矛盾に進みたい。

号令は、上から下ろすべきか。それとも、現場から湧き上がらせるべきか。

強いビジョンをトップが掲げるべきか、現場の自律と創発に委ねるべきか。経営の名著は、ここでも逆を向いている。

■ テーゼ:トップが、ビジョンを掲げよ

松下さんも、『ビジョナリー・カンパニー2』も、トップが旗を立てることを重んじる。

会社が、どこへ向かうのか。その大きな方向は、経営者が、全社に向けて、はっきりと掲げなければならない。みんなが同じ北極星を見ているからこそ、力が一つにそろう。ビジョンが曖昧な組織は、一人ひとりがどれだけ優秀でも、バラバラの方向に進んでしまう。だから、トップが一律のビジョンを示せ。

これがテーゼだ。私もコンサルティングの現場で、これを痛感してきた。経営者が明確な方向を示せない会社は、現場がいくら頑張っても、力が分散してしまう。「うちはどこを目指すのか」が共有されているだけで、組織の動きは見違える。方向を示すのは、トップにしかできない仕事だ。

■ アンチテーゼ:現場の自律と創発に、委ねよ

ところが、『学習する組織』や複雑系の知見は、逆を指さす。

答えは、現場から創発する。トップが全部を決めて下ろす仕組みでは、変化に追いつけない。現場の一人ひとりが、自分で考え、自律的に動き、互いに学び合う。その相互作用の中から、誰も予想しなかった解が生まれてくる。中央集権では、現場の知恵も、変化への速さも、殺してしまう。

これがアンチテーゼだ。これも、現実が証明している。

私は、トップが何もかも決めようとして、現場が指示待ちになってしまった会社を見てきた。社長は優秀だが、その分、誰も自分の頭で考えなくなる。一方で、現場に裁量を委ねた会社は、驚くほど柔軟に、自律的に動いていた。変化の激しい時代に、すべてを上から下ろすのは、もう無理がある。現場の創発を殺せば、組織は硬直する。

■ 矛盾の正体:「方向」と「手段」を混ぜている

では、トップ主導と、現場創発は、どちらが正しいのか。今回も、勝敗はつけない。並べて、ほどく。

ほどくと、二つが「組織の別のレイヤー」を語っていることに気づく。

松下さんやビジョナリー・カンパニーが「トップが掲げよ」と言っているのは、方向だ。どこへ向かうのか、何のために存在するのか。会社全体の北極星。これは、一つにそろっていないと、力が分散する。

学習する組織が「現場に委ねよ」と言っているのは、手段だ。その方向へ、どうやって進むのか。日々の打ち手、現場の工夫。これは、上から細かく縛ると、現場の知恵と速さが死ぬ。

つまり、片方は「方向は一つに」と言い、もう片方は「手段は現場に」と言っている。方向と手段。レイヤーが違うのだ。これを混ぜるから、矛盾に見える。

■ 止揚:方向は集権、実行は分権

並べ替えると、こうなる。

方向は、集権で。会社がどこを目指すか、何のために在るかという北極星は、トップがはっきり掲げ、全社で一つにそろえる。ここを現場任せにすると、力が四方に散る。松下さんの言うとおりだ。

実行は、分権で。その北極星に向かって、どう進むかという手段は、現場の自律と創発に委ねる。ここを上から細かく縛ると、現場の知恵と速さが死ぬ。学習する組織の言うとおりだ。

方向は集権、実行は分権。北極星は一つ、そこへの道は無数に。この設計なら、「トップが掲げよ」と「現場に委ねよ」は、見事に両立する。むしろ、両方そろって初めて、強い組織になる。

ここに、絶妙なバランスがある。方向だけ示して、手段まで縛れば、現場は指示待ちになる。逆に、手段を委ねるだけで、方向を示さなければ、現場はバラバラに迷走する。トップの仕事は、方向を studyして示し、そして手段は手放すこと。「ここを目指す。どう行くかは、君たちが決めていい」――この一言が、集権と分権を、同時に成り立たせる。

連載で何度も出てきた集中経営の言葉で言えば、これは「経営者の軸」と「現場の実行」の関係だ。経営者は、軸――何のために、どこへ――を一本通す。その軸さえ共有されていれば、現場は安心して、自分の頭で動ける。軸が曖昧だから、現場は委ねられても動けず、トップは不安で手放せない。集権すべきは軸であって、手段ではない。

■ あなたは、何を集め、何を手放しているか

最後に、問いを置きたい。

あなたの組織で、トップが握っているもの――それは、方向だろうか。それとも、手段まで握ってはいないだろうか。

よくある失敗は、逆になっていることだ。方向(なぜ・どこへ)は曖昧なまま現場に丸投げし、手段(どうやる)は細かく口を出す。これでは、現場は北極星を見失ったまま、一挙手一投足を縛られる。いちばん動きにくい組織のかたちだ。

握るべきは方向、手放すべきは手段。この一点を入れ替えるだけで、組織はずっと自律的に、そして一つの方向へ、動き始める。

次回は、第十八の矛盾――「全顧客の満足を高めよ」と「顧客を選び、捨てよ」を並べてみたい。

#経営戦略 #学習する組織 #ビジョン #リーダーシップ #自律分散 #アウフヘーベン #中小企業経営 #経営 #note毎日更新 #知的生産

いいなと思ったら応援しよう!