【読書録】諸橋轍次『孔子・老子・釈迦「三聖対談」』、川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

校正の仕事に就いて辞書類に興味を持ち始めてから知った、憧れの大修館書店『大漢和辞典』(全15巻セット264,000円)。その著者である諸橋轍次の人生をWikipediaで知って、興味が湧いたので手軽そうな著作を読んだ。Wikipedia情報だが本書刊行(1982年9月)の3ヶ月後に亡くなっているみたい。
儒教・道教・仏教の各教祖に架空の対談をさせるその形式から空海の『三教指帰』や中江兆民の『三酔人経綸問答』っぽい感じかなと思っていたけど、特に対談で議論を深めるというわけではなく(漢籍などから諸橋が学んだであろう)各教祖の故事や豆知識を順に語っていくといった内容。
儒教と仏教はわりと身近なので目新しくもなかったが、あまり知らない道教の考え方は新鮮で興味深かった。道観(道教の宗教施設。仏教でいう寺)行ってみたい。丸山眞男の「自然」と「作為」という対立軸はさまざまな物事を見通すのに優れたものだと思うが、道教の「無為」は作為の反対ではあるんだけど自然とはまた違った姿勢/状態である気がした。
それぞれの教祖が「共通するところがあるねー」って基本的に同調する姿勢なのは、ジョン・ヒックの宗教多元主義の影響もあるのだろうか。ジョン・ヒックが注目されるようになった遠藤周作の『深い河』が1993年だからちょっと違うか。

著名な校正者である牟田都子さんがどこかでおすすめしていた、主人公が校正者の小説。川上未映子さんの作品は初めて読んだ。
主人公である校正者の女性と、ひょんなことから知り合いになる年上の男性の、有り体に言えばラブストーリー。ちょうどこの前読んだハン・ガンの『ギリシャ語の時間』も(たぶん)似たような年齢設定で、原著が2011年発行だったので自然と比較してしまった。
日本の小説を読むときは脳内で勝手に俳優をキャスティングして読むことが多い。今回は主人公の入江冬子(34歳)を黒木華さん、三束さん(58歳)を田中哲司さんで読み進めた。(執筆時点で2人とも年齢がどんぴしゃ)
最後まで引き込まれ続けたしものすごくグッとくる結末の物語だったんだけど、近年の純文学に比べるとどうしても主人公の人物造形が古臭く感じた。書店で人文書を担当していたから心理学一般の棚の変遷も見てきたはずなんだけど、いわゆる「繊細さん」「HSP」みたいなのが一般的になったのっていつ頃からだっただろうか。
比べやすそうな芥川賞受賞作でいうと(本来なら2008年受賞の川上未映子『乳と卵』と並べるべきなんだろうけど)、村田紗耶香『コンビニ人間』が2016年、今村夏子『紫のスカートの女』が2019年、高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』が2022年、九段理江『東京都同情塔』が2023年。
と、こう並べると弱者やマイノリティの描き方ひとつ取ってもこの十数年で随分変わったんだなと思った。都合よくリストアップした上で牽強付会ではあるけれど、以前よりも「弱者の加害者性」や「加害者の弱者性」がフォーカスされた作品が多いように感じる。
「生きることにこつというものがもしあるというなら、それはやっぱり全面的には深刻にならないことよね」
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