(掌編小説)くろねこ春子の日常#013 もしかして彼?
黒沢小春35歳。満月の夜に黒猫の春子に変身する女の物語。
新人看護師の指導かあ…。苦手だな。
「井上君!さっさと動いて!」
「はいっ!」
私が夜勤の出勤でナースステーションに行くと、新人の井上君がまた叱られていた。いつもは私が指導係なんだけど、明日は満月でお休みさせていただくのでシフトが違って、今日は私の先輩の指導。先輩きついからなあ。でもまあ、仕方ないか。
「井上君、おはよ!」
「おはようございます!」
病棟の隅っこ、倉庫の前で挨拶したら、井上君は立ち止まって90度のおじぎ。彼のポケットからボールペンとお守りが床に落っこち、私は拾ってあげて、差し出す彼の手のひらにそっと置いた。
「すみません。ありがとうございます」
井上君は体が大きくて顔も丸々としているので、私は心の中でパンダ君と呼んでいた。パンダ君、顔が疲れてるなあ。
「お守り持ち歩いてるんだね」
「はい。心細いんで」
井上君はひきつった笑顔を見せながら病室に向かって行ったけど、病室に入ったかと思えばすぐに出てきて病室の番号を確認、あわてて隣の病室に入っていった。あわてんぼうさんだなあ。がんばれ!パンダ君!

満月の夜、いつものように黒猫の春子に変身した私は夜のお散歩。ちょっと前まで寒い夜もあったのに、今日はとっても心地よい。夏が近いのかなあ。なんだか楽しくなって普段より遠くまで来ちゃったにゃん。月明かりに照らされた川面がとっても綺麗。ぼんやり川面を見つめていると何やら怪しげな物音。
「お前、どこから来たにゃん?ここは俺たちの縄張りにゃん!」
振り向くと大きなキジトラと牛猫。私は怖くなって後ずさりしたものの後ろは川。水は苦手にゃん!
「おい!何とか言えにゃ!」
「ひぃー!」

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