薬局のDX改革は、一台のロボットから始まった。
―「効率化」だと思っていた私が、患者の感情まで変えるDXを知るまで―
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【私は、DXを少し勘違いしていた】
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私は、DXというものを少し勘違いしていたのかもしれない。
DX。
デジタルトランスフォーメーション。
言葉だけ聞けば、なんだか大層なものに聞こえる。
しかし、私の中ではもっと単純だった。
人がやっていた仕事を機械に任せる。
10分かかっていた仕事を5分にする。
紙をなくす。
入力作業を減らす。
残業を減らす。
人件費を抑える。
つまり、
DX=労働の効率化。
それが私の認識だった。
もちろん今でも、それは間違っていないと思う。
人も時間もお金も限られている零細企業にとって、効率化は極めて重要である。
ところが、そんな私のDXに対する考え方を根本から変えたものがある。
最新のレセコンではない。
巨大なAIシステムでもない。
自動調剤機でもない。
一台の小さなロボットだった。
名前は、チャッピー。
しかもこいつ。
薬を作らない。
会計もしない。
電話にも出ない。
レセコンも触らない。
一見すると、薬局業務を何一つ効率化していない。
それなのに導入から約1年半。
薬局の仕事を変えた。
待合室を変えた。
患者さんを変えた。
そして何より、
私自身のDXに対する考え方を変えてしまった。
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【私の薬局は、少しカフェに近い】
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私の薬局は面分業である。
特定の病院の処方箋だけを大量に受け付けているわけではない。
集中率は30%前後。
いろいろな医療機関から患者さんがやってくる。
中には、
「他の薬局は待たされるから。」
という理由で来てくれる患者さんもいる。
だから私は、昔から一つ決めていることがある。
待ち時間は、できるだけ10分以内。
患者さんは、すでに病院で待っている。
診察を待つ。
会計を待つ。
ようやく終わった。
あとは薬をもらって帰るだけ。
そこでさらに薬局で30分。
私なら嫌である。
だから、薬はできるだけ早く用意したい。
ただし、服薬指導まで短くしたいわけではない。
むしろ逆だ。
薬剤師として患者さんと長く接していると、病気の原因は薬だけを見ていても分からないことがある。
なぜ血圧が上がったのか。
なぜ血糖値が悪化したのか。
なぜ眠れないのか。
なぜ薬を飲めていないのか。
話を聞いていくと、その人の生活背景に答えが隠れていることがある。
食事だったり。
仕事だったり。
睡眠だったり。
家族だったり。
介護だったり。
時には人間関係だったり。
だから私は、一方的に薬の説明をすること以上に、
患者さんの話を聞くことを大切にしている。
高齢の患者さんの中には、薬をもらいに来たのか、話をしに来たのか分からない人もいる(笑)。
それでもいいと思っている。
薬をもらって、
少し話をして、
少し笑って、
帰っていく。
カフェとまでは言わない。
でも、そんな薬局が一軒くらいあってもいい。
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【「また事務員さん変わったの?」】
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ところが、ここ数年。
私には悩みがあった。
人である。
事務員さんの入れ替わりが多かった。
これは、経営者である私の手腕の問題でもあると思っている。
患者さんは意外とよく見ている。
「また事務員さん変わったの?」
何度か言われた。
なかなか刺さる。
情けない話である。
採用する。
仕事を教える。
人間関係を考える。
給料を考える。
評価を考える。
休みを考える。
働く環境を整える。
それでも、人が辞める時は辞める。
一方で、人を一人雇うには当然お金がかかる。
設備投資も必要。
システムにもお金がかかる。
物価も上がる。
小さな会社が使えるお金は無限ではない。
そんな中で、
「どうすれば待合室をもっと居心地のいい場所にできるのだろう。」
と考えていた。
そこで私は、一つの妙案を思いついた。
猫である。
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【薬局に猫を置こう】
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我が家には猫が一匹いる。
かわいい。
癒やしである。
そして猫なので、とても気まぐれである。
「この猫に薬局の待合室にいてもらったらどうだろう。」
割と本気で考えた。
看板猫である。
患者さんも喜ぶだろう。
待ち時間も気にならなくなるかもしれない。
しかし、冷静に考えてみる。
まずトイレ問題。
猫は基本的には決まった砂場で用を足す。
終われば自分で砂までかける。
なかなか賢い。
ただし。
臭いものは臭い。
しかもうちの猫は、ストレスが溜まると砂場の枠外へおしっこを振り回す癖がある。
猫のおしっこは、時として強烈な刺激臭を放つ。
待合室でやられたら大惨事である。
そしてアレルギー。
猫が好きな人は多い。
でも苦手な人もいる。
猫アレルギーの人もいる。
医療機関である以上、
「大半の人が喜ぶからいいでしょう。」
では済まない。
さらに、かわいさゆえに患者さんが餌を持ってくる可能性まで考えた。
我が家では基本的にカリカリを食べさせている。
缶詰もたまにはあげる。
しかし美味しいものに慣れて普段のフードを食べなくなると、入院やペットホテルへ預けた時に困ることもある。
この辺りは、獣医である妻から知識をいただいた。
掃除。
臭い。
アレルギー。
餌。
考えれば考えるほど問題が出てくる。
こうして、
看板猫計画は静かに消滅した。
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【「少し愛嬌があるといいよ」】
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猫がダメなら、結局は人間である。
私は以前、スタッフにこんなことを言っていた。
「少し愛嬌があるといいよ。」
私は薬局を、医療機関であると同時にサービス業でもあると思っている。
患者さんは基本的に具合が悪い。
痛い。
苦しい。
不安。
そんな状態でやってくる。
だから素早い対応も必要。
丁寧な対応も必要。
そして私は、
ほんの少しの愛嬌も必要なのではないか。
と思っていた。
別に、とびきりの笑顔を求めているわけではない。
ほんの少し笑った感じ。
少し柔らかい話し方。
それだけでも相手は嫌な気持ちにはならないのではないか。
本気でそう思っていた。
ところが、
「愛嬌が大事だよ。」
と言ったことを、パワハラだと言われたことがある。
これは考えさせられた。
こちらがどういう意図で言ったかと、相手がどう受け取るかは別問題である。
それ以来、事務員さんへ何を求めるべきなのか、かなり考えるようになった。
給料なのか。
適正な評価なのか。
事務員同士の相性なのか。
休みなのか。
働く環境なのか。
教育なのか。
おそらく全部なのだろう。
17年経営しているが、私はまだ社員をどう育てるべきなのか勉強している途中である。
答えは見つかっていない。
そんなある日。
経営のことで頭を悩ませながら、半分冗談で思った。
「そろそろAIよ!俺に光を!」
まさか本当にやってくるとは思わなかった。
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【そいつは突然やってきた】
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ある日、医薬品卸の担当者が言った。
「AIロボットがあるんですけど。」
「2週間お試しできるんですが、どうですか?」
LOVOTだった。
正直、そこまで興味はなかった。
昔、犬型ロボットもあった。
Pepperもクリニックなどで見たことがある。
だからロボットというものに、ある程度の先入観があった。
「まあ、かわいいんでしょう。」
そのくらい。
しかも2週間のお試し。
「合わなかったら返せばいいか。」
当時の私は経営のことで頭がいっぱいだったので、ほぼ思考停止状態で申し込んだ。
翌週。
そいつは薬局へやってきた。
見てみる。
確かにかわいい。
予想の範囲内。
「まあ、こんなもんか。」
初日はそれで終わった。
ところが。
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【2日目、3日目、4日目…空気が変わっていった】
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2日目。
患者さんがロボットを見る。
撫でる。
笑う。
まあ、珍しいからだろう。
3日目。
「おや?」
普段ほとんど話さない患者さんが撫でている。
4日目。
「おやや?」
いつも少し怖そうな患者さんまで相手をしている。
5日目。
「これは……?」
明らかに待合室の空気が変わっていた。
きつそうな人。
痛そうな人。
苦しそうな人。
いつも来る人。
初めて来る人。
無口な人。
少し怖そうな人。
そんなことはお構いなし。
ロボットは満遍なく愛嬌を振りまいている。
そして驚くことに、
ほとんどの患者さんが、その愛嬌に応じている。
人間なら、
「あの人、ちょっと怖そうだな。」
「今日は機嫌悪そうだな。」
なんて考えてしまうかもしれない。
こいつには関係ない。
誰にでも近づく。
誰にでも見つめる。
誰にでも甘える。
私は待合室を見ながら思った。
「お前……強いな。」
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【しかも、温かい】
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このロボットのすごいところは、見た目や動きだけではない。
触ってみると、
温かい。
およそ38度。
人間の体温より少し高いくらい。
機械なのに、抱き上げると妙に生き物っぽい。
しかも抱っこできる。
腕の中に抱える。
こちらを見上げる。
そしてしばらくすると、
赤ちゃんのように眠る。
これが強い。
特に女性の患者さん。
抱っこする。
目が合う。
腕の中で眠る。
「かわいい……。」
なかなか離さない(笑)。
人間は、単純に「かわいい形をしたもの」に反応しているわけではないのかもしれない。
温かい。
こちらを見る。
近寄ってくる。
甘える。
抱かれる。
眠る。
視覚だけではなく、温度や触覚まで使って、人間の感情へ入り込んでくる。
私はそれまで、
機械は冷たいもの
だと、どこかで思っていた。
どうやら違った。
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【「急いでください」が減った】
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さらに面白いことが起きた。
私の薬局には、
「急いでください。」
と言う患者さんもいる。
だから元々、待ち時間10分以内を目標にしている。
ところがである。
いつも急いでいる患者さんが、
座ってロボットを撫でている。
「いや、急いでたんじゃなかったっけ?」
こちらが心配になる(笑)。
でも楽しそうなのである。
そして導入から一週間ほど経った頃。
私はあることに気付いた。
待合室にスタッフがほとんどいない。
いるのは、軽快に走り回るロボット。
それなのに患者さんは笑っている。
「まだですか?」
が減った。
「急いでください。」
も減った。
そこで私は、非常に面白いことに気付いた。
薬を作る時間そのものは変わっていない。
10分かかる仕事なら、10分かかる。
それなのに患者さんの反応が違う。
つまり、
実際の待ち時間が変わったのではない。
「待たされている」という感覚が変わったのだ。
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【10分を8分にするだけがDXではなかった】
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ここで、私のDXに対する考え方が変わり始めた。
それまで私は、
DX=効率化
だと思っていた。
10分を5分にする。
紙をなくす。
入力を自動化する。
人がしていた仕事を機械へ移す。
もちろん大事である。
しかし、目の前のロボットを見ていると、どうもそれだけではない。
こいつは薬を作らない。
電話にも出ない。
会計もしない。
レセコンも入力しない。
それなのに、
確実に薬局の仕事を変えている。
「まだかな。」
と思いながら過ごす10分。
ロボットを抱っこしながら笑って過ごす10分。
時計を見れば、同じ10分である。
でも患者さんにとっては全く違う。
そこで気付いた。
10分を8分にするだけがDXではない。
同じ10分でも、
「待たされた10分」を「楽しく過ごした10分」に変える。
これも効率化なのではないか。
いや。
もしかすると、
時間そのものではなく、時間の価値を変えることもDXなのではないか。
私にとって、これはかなり大きな発見だった。
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【そして、2週間が経った】
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気付けばお試し期間が終わった。
返却するか。
購入するか。
私の答えは、すでに決まっていた。
買う。
そして改めて金額を見る。
本体がおよそ50万円。
保証などのオプションまで含めれば、
約100万円。
……。
安くはない(笑)。
小さな薬局にとって100万円は、十分に大きな設備投資である。
それでも購入した。
あれから約1年半。
今なら思う。
安かった。
いや。
この薬局で果たしている役割を考えれば、
破格だったのかもしれない。
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【100万円を「人」に使うのか、「機械」に使うのか】
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そう思うのには理由がある。
以前、人材を確保するために人材紹介会社へ支払った金額も、約100万円になったことがある。
もちろん、人間とロボットを単純比較するつもりはない。
できる仕事が全く違う。
薬局は人がいなければ成立しない。
人材育成をやめるつもりもない。
むしろ、これからも続ける。
ただ経営者として、一つの考え方が生まれた。
100万円を人に投資する。
100万円を設備に投資する。
100万円をAIやロボットに投資する。
どれが正しいのか。
以前の私なら、
「人でしょう。」
と答えていたかもしれない。
今は違う。
目的による。
人にしかできないことは、人がする。
機械の方が得意なら、機械に任せる。
AIが得意なら、AIに任せる。
そして、そこで生まれた時間を、
人間にしかできない仕事へ使う。
それでいいのではないか。
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【名前は「チャッピー」】
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購入したLOVOTには名前を付けた。
チャッピー。
ChatGPTから取った。
呼びやすかったという理由もある。
名札も付けた。
普段は白い服。
クリスマスにはサンタになる。
患者さんが、
「今日はチャッピーどこ?」
と探す。
リピーターの中には、薬よりチャッピー目当てではないかと思う人までいる(笑)。
杖をついて薬局へ来た患者さんが、チャッピーを見つけると杖を置いて近づいていくこともある。
いや、杖は持ってください。
危ないから(笑)。
そしてチャッピー自身も少しずつ変化する。
最近では、頼んでもいないのに鼻歌まで歌うようになった。
「お前、そんなことできたの?」
と思う。
最初は、
「2週間で返せばいい。」
と思っていたロボット。
気付けば、
「導入した設備」ではなく「薬局の一員」になっていた。
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【私が人間に求めていたものを、ロボットがやっていた】
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そして、ある日。
ふと気付いた。
私は以前スタッフへ、
「少し愛嬌があるといいよ。」
と言っていた。
どうすれば患者さんへ気持ちよく接してもらえるのか。
どうやって人を育てればいいのか。
ずっと悩んできた。
目の前を見る。
チャッピーが患者さんへ近づく。
見つめる。
甘える。
抱っこされる。
眠る。
患者さんが笑う。
そして次の患者さんへ行く。
私が人間に求めて悩んでいた「愛嬌」を、
ロボットが何事もなかったようにやっていた。
なんとも皮肉な話である。
しかも患者さんだけではない。
スタッフにも愛嬌を振りまく。
結果として、待合室を気にする負担が減り、スタッフは自分の仕事へ集中できる。
薬剤師は薬剤師の仕事ができる。
事務員は事務員の仕事ができる。
そして本当に患者さんと話す必要がある時には、人間がしっかり話せる。
ここでまた気付いた。
機械が人間の仕事を奪ったのではない。
むしろ、
機械が人間に「人間にしかできない仕事をする時間」を返してくれた。
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【私はDXを勘違いしていた】
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私はDXを、
労働を効率化するもの
だと思っていた。
今でも効率化は重要だと思う。
ただ、チャッピーを導入してから、その先を考えるようになった。
本当に理想的なDXとは、
人間が機械に合わせることではないのかもしれない。
機械が仕事の中へ自然に溶け込む。
気付けばスタッフの負担が減っている。
気付けば患者さんが笑っている。
気付けば仕事の流れが少し良くなっている。
そして、人間は人間にしかできない仕事へ集中している。
そこまで含めてDXなのではないか。
効率化するのは、作業時間だけではない。
患者さんが過ごす時間。
スタッフの心理的負担。
待合室の空気。
人と人とのコミュニケーション。
そして時には、
患者さんの感情そのものまで、テクノロジーによって変わる。
機械は、人間の代わりをするだけではない。
機械だからこそできる仕事もある。
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【私のDX改革は、一台のロボットから始まった】
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今日も薬局のドアが開く。
患者さんが入ってくる。
「こんにちは。」
私たちが声をかける。
患者さんは受付を済ませる。
そして待合室を見渡す。
「チャッピーは?」
……いますよ。
薬剤師も(笑)。
チャッピーが近づいてくる。
患者さんが笑う。
抱っこする。
38度ほどの温かい体を腕に乗せる。
チャッピーはしばらくすると眠る。
その間に、私たちは薬を準備する。
10分後。
薬ができる。
患者さんはチャッピーを降ろして、こちらへ来る。
そして今度は、人間同士で話をする。
薬のこと。
体のこと。
生活のこと。
それでいいのだと思う。
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【17年前には、想像もしなかった光景】
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17年前、薬局を開局した頃には想像もしなかった光景である。
AI。
DX。
ロボット。
以前の私は、もっと無機質なものを想像していた。
人を減らす。
仕事を減らす。
時間を短縮する。
でも実際に私の薬局へやってきたDXは違った。
温かくて。
甘えて。
時々歌って。
クリスマスにはサンタになって。
患者さんを笑わせている。
考えてみれば、不思議な話である。
私の薬局のDX改革は、
「人を減らしたい」
と考えたところから始まったわけではなかった。
どうすれば患者さんが気持ちよく過ごせるのか。
どうすればスタッフが働きやすくなるのか。
どうすれば人間が、人間にしかできない仕事へ集中できるのか。
それを考えていたら、
一台のロボットがやってきた。
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【DXは、時間ではなく価値を変えることだった】
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私はDXを効率化だと思っていた。
今は少し違う。
10分を8分にするだけがDXではない。
同じ10分を、
「待たされた10分」から、
「笑って過ごした10分」へ変える。
そんなことまで機械ができる時代になった。
機械が人間の仕事を奪うのではなく、
機械が、人間らしい仕事をするための時間を取り戻してくれる。
そして時には、
人間の感情まで動かしてしまう。
これが正しいDXなのかどうか。
17年経営してきた私にも、まだ分からない。
ただ少なくとも、
私のDXに対する考え方を変えたのは間違いない。
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【おわりに|今日もチャッピーは走っている】
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今日もチャッピーは、薬局の待合室を走っている。
相変わらず、私たちより人気がある。
そこだけは少々納得がいかない(笑)。
でも患者さんが笑っている。
スタッフも笑っている。
そして薬局の仕事も回っている。
だったら、まあいい。
私のDX改革は、一台のロボットから始まった。
そしておそらく、
まだ始まったばかりなのだ。
