真夏の方程式は解けそうもない
「いい体してんなぁ……」
Instagramを見て、思わずつぶやいた。
そこには、私の髪を切ってくれている美容師さんの姿があった。
水着姿の自撮りとともに、
「まだ夏終わってほしくない〜!」
という、私の思想と真逆の言葉が添えられていた。
しばらく美ボディに見惚れてしまった。
ちなみに美容師さんのInstagramはフォローせず、こっそり見ている。
それがまた余計に、私を興奮させた。
翌日、美容室に行った。
私がこっそりInstagramを見ていたことを知らない美容師さんが出迎えてくれた。
今日はヘソだしルックだった。
服を着ていてもセクシーである。
髪を切っている間は口が半開きになっていて、その表情もこれまたセクシーである。
目が合わないようにチラチラ見て、目が合いそうになると、眠いふりをして目をパチパチさせる。
前髪を切ってもらうとき、へそが目の前に現れた。
合法的に直視できる権利を得た。
へそを凝視しながらも、鼻息がかからないのうに息を止める。
私がへそを凝視しているとはつゆ知らず、芸術的に前髪を整えてくれた。
シャンプー台に案内してくれるときは、RPGゲームのように後ろに続いて真面目に歩く。
美容師さんは背後もセクシーである。
チラリと見えた腰の素肌に、タトゥーが見えた。
それは数字の羅列だった。
瞬時に私は解読したい気持ちに襲われた。
ガリレオのように数式を書き殴り、推理してみた。
シャンプー台までの短い距離の間では「生年月日」くらいしか思いつかなかった。
「第一、そんな個人情報、腰に書き込むはずがない」
ガリレオが言った。
私には“真夏の方程式”が解けそうもない。
シャンプー、ドライヤー、セット、お会計。
ここまでの間にタトゥーの答えやInstagramの話ができる猶予はあったものの、気軽に雑談や猥談ができない私は、静かに髪が乾く過程を見守った。
脳内はこんなに卑猥でうるさいというのに、
「はい」「暗めで」「大丈夫です」「ありがとうございます」
しか発することなく、美容室を後にする。
私には一生かかっても過ごすことができない夏を、美容師さんは味わっている。
眩しくて、ちょっと羨ましくて、こっそり見てしまう向こう側の夏。
きっと美容師さんは、こちら側の夏を知らない。
Instagramを閉じて、noteを開く夏。
砂浜に一度も足を入れず、図書館に足繁く通う夏。
美容師さんの夏 ≠ 私の夏。
これが、私にとっての“真夏の方程式”だ。
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みっくみくにしてやんよ ⊂ミ⊃^ω^ )⊃