『来たれ!青藍高校マン研部!!』第四話:自己紹介
隣の音楽室からは吹奏楽部の奏でる音が、体育館の向こうのグラウンドからは運動部の反復練習の声が聞こえている。
「じゃあ、面子めんつも揃ったことだし、私から自己紹介をするわね。
私の名前は、橘たちばな 明日香あすか。
青藍高校二年生の十七歳、クラスは二年一組。
166センチのAB型よ。
このマンガ研究会の部長を務めているわ。
趣味は習い事。好きな言葉は『成せば成る』よ。
よろしくね。」
十二坪程あるだだっ広い理科室の前の方には、一畳程ある実験用の大きな机が縦に六つ並べられている。
俺たち六人は一番前の列の窓側の席に陣取って、とりあえずの顔合わせーーもとい、俺の新入生歓迎会を開いている。
今しがたトップバッターとして自己紹介を終えた橘部長(以下、部長とする)は、椅子に腰掛ける際に両手を尻に添え、スカートのひだを揃える程には、品の良い教育を受けていることがうかがえる。
いや、もしかしたら誰に教わるでもなく、自発的にそのような身のこなしを身につける努力をする質たちなのかも知れないが、それにしたって良くも悪くも何らかの影響を受けていることは確かだが、知り合って間もない今の段階であれこれと想像するのは、とりあえずやめておくことにしよう。他にも部員は控えているから。
部長の見た目といえば、顔は若干のキツネ顔で、白い肌に程よく血色の良い唇が映え、その口がまた大きすぎず小さすぎもせず、鎖骨のあたりまで伸びた黒髪がシャープな印象をつくっている。
全体的に整っている点を見れば、おおよそモテなくはないだろう。
それこそ、全学年の生徒を対象として。
部長の自己紹介を受けて、顧問の八頭先生(俺の苗字も八頭でややこしいので、以下、乙女先生とする)を筆頭に「はーい」と明るい応答の声に拍手が湧く。
「じゃあ、次は私ね。」
そう言って片手を軽く挙げて席を立ったのは、すらりとした長身の女性だった。
ちなみに、この場に男は俺一人だ。
顧問である伯母の勧めで入部する身としては、別に構いはしない。
「由緒ゆいしょ 巴《ともえ》。
二年三組、十六歳。
身長は171cm、B型です。
部長の明日香とは、小学校の頃からの幼馴染です。
趣味はヲタ活で、好きな言葉は『風林火山に毘沙門天♪』。
副部長をやってます。
よろしくお願いします。」
由緒副部長(以下、副部長とする)は、長いであろう髪の毛を、適度に崩した感じで頭の上で形よくまとめており、それが彼女の長身を更に引き立たせているように思えた。
彼女は、長い手足を意識してか、話している間も体を右へ左へゆっくりと揺らしつつ、両手を大きく使い、自己紹介をやり終えた。
顔はフツー。
放課後の高校生の女子らしく、塗りたてであろうピンクのリップクリームが、唇の上でツヤツヤと光を反射している。
こちらはこちらで、大人系美人の枠で一定数のニーズがありそうに思われた。
しかし。
異様に白い肌はヲタ故か――。
もうしばらく副部長の第一印象について考察を深めたかったが、それを待たずに次の自己紹介が、勢いよく始まった。
「はいはーい!
私は、大門だいもん 綾花あやか!
二年六組、十六歳。
163cmのO型。
部長とは幼馴染でもなんでもねえ。ウケる。まじウケる。
趣味は、家業についての猛特訓。あ、ちな、家業ってのはお水みずね。これマジね。
好きな言葉は『この世は私のためにある』!
リンダかっつーの。いや、今時の子には通じないか。リンダっつーより、リンゴ?リンゴなら君、分かる?分かんなかったら、まじウケるんだけど。いやマジで。
以上でーす!よろぴく!」
見るからにギャルの大門先輩は、この面子の中にあって明らかに浮いているが、そんなことをもろともしない勢いで自己紹介を終えてそのままどすんと席に着いた。
「うえ~い」と言いながら、こちらに向けてフリフリしているライオンのぬいぐるみは、俺がこの理科室に入ろうとした時に顔面に押しつけられた代物しろものだ。
「かわいいっしょ、この子。ライ子ってゆーの。よろちくびっ♪」
それが、初めて顔を合わせた新入生に向けて、彼女が放った第一声だった。
そんな訳で、説明するまでもなく彼女はギャルで、茶髪の巻き毛、きれいに焼けた小麦色の肌、じゃらじゃらとうるさそうなカラフルな手首の腕輪と、スマホやカバンを飾る小物たち、誰がどこからどう見ても、ギャルなのだった。
いささか食傷気味の俺にとって、はからずもその後も通じて癒しの存在となり続けるのが、「じゃあ」とつぶやき席を立った次の女性だった。
「伊集院いじゅういん こなた。
2-7。
16歳。
150cm。
A型。
趣味はモノを描くこと。
好きな言葉は…よく分かんない。
以上です。」
「もー、コナ、相変わらずオトボケ。ウケる。」
自分の自己紹介が終わったからか、大門先輩は上機嫌でこなた先輩(以下、コナ先輩)をいじりにかかっている。
「オトボケ」と言われているにも関わらず、コナ先輩はウンともスンとも反応せず、目は半分閉じており、ぼんやりした表情を崩さない。
容姿といえば、顎あごのラインで切り揃えられた黒髪が、ただでさえ低身長の彼女の印象を更に幼く見せているが、それを前髪のセンター分けが、かろうじて年相応の域に留めてるようだった。
なんだか、周りの反応を見るに、この部のマスコット的存在のようだ。
そんな空気に便乗するではないが、先輩とはいえ、なんだか頭をなでたくなるような衝動に駆られる。しかし、フツーに失礼にあたりそうなので、この想いはそっと胸の内に秘めておくことにする。
「じゃあ、次は私ね。」
そう言って、すっくと立ちあがったのは、誰であろう、我が伯母だった。
「私の名前は、八頭やず 乙女おとめ。
二年生の国語教師です。
受け持ちのクラスは2-6。大門さんのクラスね。
163cmのB型で、趣味はカラオケ。
45歳の独身だけど、特に婚活とかはしてないわね。
三度の飯より本が好きかな。
以上です。」
「いえーい!」
ことのほかにぎやかな大門先輩の音頭で、今までで一番大きな拍手が起こる。
伯母は照れた様子で席に着いている。
ちなみに普通、新入生歓迎会などではそうだと思うが、普通は、一番初めに新入りが自己紹介をする。
「じゃあ、自己紹介も一通り終わったことだし、皆さんお待ちかね、おやつタイムに入りますか!」
伯母が両手を叩いて満面の笑みでこう発言した時は、どうしようかと思った。
「あのー、彼の自己紹介がまだですけど。」
ぼそりとつぶやかれたコナ先輩のこの一言が無ければ、この人達は一体、俺は一体、どうなっていたのだろうと思う。
『『来たれ!青藍高校マン研部!!』第一話:はじまりの、朝|くさかはる@五十音 (note.com)
『来たれ!青藍高校マン研部!!』第二話:いつもの、ランチ|くさかはる@五十音 (note.com)
『来たれ!青藍高校マン研部!!』第三話:いざ、マン研部へ!|くさかはる@五十音 (note.com)
『来たれ!青藍高校マン研部!!』第五話:俺の、自己紹介|くさかはる@五十音 (note.com)
