『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』はじめに+第1章・無料全文公開
7月23日発売の書籍『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』から、はじめに+第1章「1on1の基本と現状」を全文公開!
はじめに
会社から「やってください!」といわれ、実践せざるを得ない1on1。
実際は時間もなく、「忙しいなかで、どうやってできるんだ!」と声を大にしていいたくなる。しかも部下からは、「また1on1か?」と聞こえてきそうで、イヤがっている様子。
新たに導入されたタレントマネジメントシステムや1on1シートには面談結果を入力する必要があり、労力と時間が余計に取られる。「やったことにしている場合もある」と耳にすることも……。
そして幹部や1on1推進部から、「成果は出てますか?」と聞かれる。
「やっても意味がない」「効果なんかない」「時間のムダ……」
本書を手にとっていただいた読者のなかには、このように思われている方も一定数いることと思います。
このような現状の企業もあるなか、「現場の管理職が会社の方針により1on1に取り組んだところ、こんな高い成果につながった!」という具体的な事例を、あまり目にしません。効果が見えにくいものなのです。
本書はこのような現状に対し、いまの企業によく見られる1on1の実践に迫られている管理職(=私)が高い成果につなげた事例をもとにして書きました。
企業側の方針や要請により、受け身で1on1に取り組まざるを得なかった現場の管理職の立場で著した内容です。私自身の1万時間に渡る1on1の実体験をベースにしています。なかなか進まない1on1の現状に一石を投じる内容です。
私がまかされた営業所は、赴任当時は全国で下から11番目でした。
3年4か月後には全国約120営業所あるなかで1位となり、トップを2年間独走し続けます。その後も数年に渡り、全国トップクラスのハイパフォーマンス営業所であり続けました。つまり「チームビルディング」「人材育成」にも成功していたのです。
別の営業所に異動後、全国ワースト5位だった営業所をコンテストで全国1位に三度導き、再現性も確認できました。
当初から1on1に注力しようとしたわけではありません。
管理職を続けながら成果を出すには、「自分がうるさくいうだけでは部下は動いてくれないな」「上司が指示するよりも、部下自身が自主的に動くようにならないとダメだ!」「部下がフランクに話せる職場にふだんからしておかないとダメだな!」などと、なんとなく思うようになっていきました。
その思いは徐々に強くなっていき、やがて1on1に注力する会社の方針のもと、自身の1on1の実践経験から次のことにこだわるようになりました。
1.自分よりも部下に多く話してもらおう。
2.「次に実践する行動=アクション」を部下が自身で語るまで待ってみよう。
3.ワイワイガヤガヤ、ジョークが飛び交う明るい職場にしよう。
以上を目指し、実践した結果、高い成果につながったのです。
ここで私の自己紹介を少しさせてください。
外資系メガファーマに新卒で入社。MR(製薬企業の営業担当者)経験からリーダーを経て管理職となった、ごくふつうの営業畑の管理職です。
ところが転勤後に妻に先立たれ、ワンオペの父子家庭となります。家事と子育てをしながらの営業所長という厳しい状況になり、時間がまったく足りず、仕事にも人生にももがき苦しんだ末、「どうせダメなら、自分で選択したものをダメもとでやってみよう!」と居直って実践し続けたのが1on1でした。
「時間がないなかで成果につなげるためには、どうしたらよいか?」
そのような都合のいい答えなど、簡単に見つかるわけがありません。ふつうの管理職も「成果につなげるためにどうしようか?」と日々考え悩み、試行錯誤しているのです。
1on1に特化した最大の理由は極めて単純で、「成果を出しているのは管理職の自分よりも部下だ」ということでした。
もうひとつは、時間がないゆえに、日ごろのコミュニケーションに1on1を加えるのではなく(それだと時間がますます足りなくなるため)、1on1のなかで部下とコミュニケーションを取ろうと考えたのです。いわば苦肉の策です。
1on1を実践した時間は、のべ1万時間以上に及びます。あらためてその時間を振り返ると、中身は「経験学習」が約6割を占めていました。
1on1の目的のひとつは「部下の経験学習」ということを裏付けています。
1on1を効果的に進める方法として、一般的には上司の傾聴や質問スキルについてのノウハウが多くフォーカスされているでしょう。しかし私の印象は少し違います。経験学習は、部下自身の語りの量と質に相関して向上していく印象を強くもつのです。
そこで本書では、部下にとって話しやすい場にするため、部下に語ってもらうことと、語りを引き出す仕組化として「定性評価の見える化(=数値化)」が重要な点をお伝えしています。ここを重視している点は、おそらくこれまでにない新たな視点だと思います。
また、1on1の効果を高めるためには「職場環境」が重要です。1on1の場で傾聴や受け止め、承認を実践していても、ふだんの職場でも同じ態度や接し方をしないとその効果が半減することにも気づきました。当たり前ですが、「1on1もふだんの職場のひとつ」と考えたのです。部下にとって「安全安心な職場」と認識できるようにチームを運営していくことで、1on1の効果が加速していくことでしょう。
もう一点、新たな視点と思われることをお示しします。
人事や研修業務を経験したことがある方はご承知と思いますが、グループやチームには「形成期」「混乱期」「規範形成期」「展開期」と発達成長していくタックマンモデルがあります(諸説あり)。
1on1を長年実践・継続していると、4つの発達過程と似通った成長経緯をたどるのではないか、という印象を強くもつようになるでしょう。
「1on1も成長発達する」ことに気づいていない方も多いのではないでしょうか。それゆえ、あえて継続が重要である点を本書で強調しています。見方を変えると、「継続するための1on1」ともいえるでしょう。継続することで、「キャリア自律」や「エンゲージメント」につながることも強調しています。
現在1on1で悩まれている多くの企業では、発達段階の規範形成期にまで至っていないのが比較的多いのではないでしょうか。
形成期や混乱期でストップしてしまっているのです。
「実践する頻度も落ちている場合がある」と聞きます。ぜひ継続してください。継続すれば多くの1on1で規範形成期に至ることができるでしょう。
問題は、規範形成期に至るまでどうやって継続するか、その方法です。
本書ではその方法について具体的に解説しています。とくに「部下に語ってもらう」ことを重要視しています。
「そんなの当たり前です。部下が話してくれないから、苦労しているんじゃないですか」という方も多いでしょう。それには少しの工夫がいるのです。その点こそ本書の核心部分ではないかと思います。参考になる点は積極的に取り入れチャレンジしていただければ、御社の1on1はよい方向に進むでしょう。
現代社会において、Z世代とそれ以前の世代が深い話をする機会はふつうありません。
会社などの組織に在籍しているときくらいしかないでしょう。しかもコロナ禍の影響で、若い人たちは直接のコミュニケーションを学ぶ機会を3年間失っています。
1on1は、上司にとっても、部下にとっても、人生においてある意味貴重な機会です。上手に活用することで、コミュニケーション力がつき、上司・部下双方の成長とキャリア自律を通じて、人生100年時代のライフシフトへの学習機会ともなります。
1on1に悩む多くの管理職や1on1推進部門の皆さまにとって、少しは参考になるのではないかと思い執筆いたしました。
十分な内容ではないかもしれませんが、本書が手詰まりを感じている方たちのお役に立てますと幸いです。
第1章 1on1の基本と現状
■1on1の基本の「キ」
筋トレと同じでまずは続けよう!
筋トレの場合、月1〜2回だけだと効果は出ませんが、週2回以上実施すれば効果があるといった報告があります。*1
1on1も同じで、月1~2回の頻度が必要です(職種によっては少ない場合も考えられます)。
*1 Arazi, H., Asadi, A., Gentil, P., Ramírez-Campillo, R., Jahangiri, P., Ghorbani, A., Hackney, A. C., & Zouhal, H. (2021). Effects of different resistance training frequencies on body composition and muscular performance adaptations in men. PeerJ, 9, e10537. https://doi.org/10.7717/peerj.10537
私の場合は月2~3回実施しました。一定以上の適性頻度(企業・職種により違いはあります)で実施すれば、コミュニケーションの改善、離職率の低下につながり、高い成果につなげることもできます。このことを実感されていない企業や上司が多いことが残念でなりません。
最初にお伝えしたいことは、「まずは続けましょう!」ということです。多くの有名企業でも粛々と継続していますから、あなたのところでもきっとよい方向に進むでしょう!
1on1では、雑談、会社の話題、経験学習の促進、プライベート情報、キャリアなどが話されています。経験学習の促進が主な目的ですが、なんでも話題にできるため、このような話題になっているのでしょう。
ここ数年ではとりわけキャリアの話が重要視されてきています。その理由のひとつは、働き方改革の影響で、働く環境が大きく変わっていることです。質の高い1on1を実施するためには、キャリア関連の知識が重要になっていくでしょう。
もうひとつの理由は、人的資本情報の開示義務化です。経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 人材版伊藤レポート2.0」でも、さまざまな課題克服の基本にコミュニケーション力が位置づけられています。
1on1は相手のみならず、あなた自身の成長も後押ししてくれることでしょう。会社のMVVP(ミッション、ビジョン、バリュー、パーパス)が明確になってきている昨今では、1on1を必須にしている企業が増えています。先の見えない時代に、その重要性は今後ますます高まるでしょう。
1on1「9つの心得」
ここで基本中の基本となる「9つの心得」をお示しします。
著書などにより多少の表現は違っていても、次の9点は基本中の基本です。これさえ実践できれば1on1はある程度成功する、といっても過言ではありません。それほど重要ですが、1on1に苦労している企業が多いことは、基本の「9つの心得」が十分できていないことを示しているのではないでしょうか。
1.ふたりきりになれる静かな部屋を確保する(習慣化後はカフェでもどこでもOK)。
2.時間が少し延長してもいいように、ゆとりをもって臨むこと。
3.座る位置は部下に対して90度から120度くらい、斜めになるように座る。
4.やや前のめりの姿勢をとる。
5.少し柔和な笑顔をする。
6.顔を部下のほうに向け、目を見る。
7.うなずき、あいづちを必ずする。
8.時々オウム返しをして、部下の話を確認する。
9.部下の話すペースにあわせ、ややゆっくりめに話す。
1〜3は事前準備です。多くの方はすでに実践済みでしょう。
では、4〜9はいかがでしょう? 自信がない方も多いのではないでしょうか。
とくに4「やや前のめりの姿勢」を実践していますか?
イスに浅く腰かけ、背に体重をかけていませんか?
足を組んだり、腕を組んだりしていませんか?
実はこうした態度や姿勢は、「部下への関心の裏返し」と相手は感じてしまいます。
部下が「自分には関心がないんだな」と感じていたら、どうでしょうか?
あなたが部下の立場なら、自分に関心を示さない上司をどう思いますか?
前のめりの姿勢は意外と重要なのです。
また、忙しそうな態度や顔つきになっていませんか?
これも要注意です。自分では気づかずこのような態度になってしまっている場合があります。再度セルフチェックをお願いします。
うなずき、あいづちはどうでしょうか?
1on1研修では、「必ずうなずきをしましょう」と教わっていると思います。
データでの裏付けも論文で出ています。静止したCGよりもうなずきのあるCGのほうが好ましさ、近づきやすさで30~40%アップした、というものでした。*2
また、1回1秒程度のうなずきが親近感を与える報告もあります。*3
科学的にも、うなずきをおろそかにしてはいけないのが明白になっているのです。
*2 「うなずき・首振り動作が人物の好ましさと近づきやすさに及ぼす影響」
*3 「CGキャラクタを用いた多様なうなずき動作に対する印象評価」
第3章で詳説しますが、4~9は傾聴の基本でもあります。
よって、「1on1の9つの心得」ができれば半分以上の成功、といえるのは決して過ぎた表現ではないのです。
意識しないとできないのが4〜9です。1on1の成果に悩まれている方は、まずはここを毎回意識し、実践してください。1年ほどで上達すると思います。
「9つの心得」がすべてできていれば、1on1のレベルはもう中級クラスといっていいでしょう。なかなかのレベルなのです。自信をもって引き続き部下と対話してください。
私は9項目を意識して徹底したところ、部下の反応が1年ほどで少しずつ変わっていくのを実感しました。その変化は、やがて大きな成果につながることになります。
「わかる」と「できる」は違う
1on1は上司・部下における対話や面談のひとつの形態です。
1対1の対話ですから、何もむずかしいことをしようとしているわけではありません。「部下とよりコミュニケーションを取る」といった、社会人にとってごくふつうのことです。
ところが、わざわざ場所と時間を設定して1対1でコミュニケーションを取ろうとするため、また、会社からの要請もあるため、特別なことに考えすぎている側面もあります。
実際に「9つの心得」が身についている多くの上司の方にとっては、1on1は大きな負担になっていません。IT関連企業や新たなサービスを展開している新興企業の多くの管理職は、日々粛々と1on1を実践・継続されています。過大な負担となっていないのです。その理由のひとつは「9つの心得」が自然と身についているからでしょう。
私も当たり前のこと、つまり「9つの心得」を実施し、継続してみたのです。
いろいろな失敗を経験しながらも、あたまでわかっていたことを、とにかく実践・継続しました。すると、「わかる」から「できる」になったのです。できた理由は実際にやってみて継続したにすぎません。
多くの上司の方は、さまざまな研修を受講し、1on1を理解されています。しかし、「できる」までなっていなかったり、実施したことにしていたりする場合も散見されます。まずは実践・継続しましょう。
1on1の定義は種々ありますが、「部下の成長支援を目的に、上司と部下が1対1で定期的におこなう対話」です。
上司のための対話ではないことに留意する必要があります。
あなたが実施した直近の1on1を思い出してみましょう。
「1on1の9つの心得」はできていたでしょうか?
この点を意識するだけでも変わっていきます。ぜひ意識して臨んでみましょう。
オンライン形式の「4つの心得」
1on1はコロナ禍の影響でオンライン形式でも実施されています。
オンライン形式での留意点として、次のことが挙げられます。
1.顔は明るく大きめに映っていますか?
2.カメラ位置は目と同じ高さですか?
3.3〜4割程度カメラを見ていますか?
4.リアクションやジェスチャーは、対面時より3割オーバーにしていますか?
リアルの面談と違い、オンライン形式では画面越しに相手を見ることになります。
相手も同様です。画面越しの場合、細かなアクションや微妙な表情に気づきにくくなります。4つの留意点を意識することで、相手の微妙な変化に気づきやすくなるでしょう。
■1on1の基本ステップ
1on1の基本的な対話の流れ
1on1の進め方として、通常は次の順序で実施します。
必ずしもこのとおり進める必要はありませんが、基本はこの順序である点を把握しておいてください。
1.雑談する。
2.部下の体調を気づかう。
3.感謝を示す。
4.テーマに入る
5.次回1on1までに実行する部下の具体的な行動を聞く。
この順に従うと次のような会話例が考えられます。セリフは上司の言葉です。
1.「大谷翔平、先週5本も打ったね。見た?」
2.「花粉と黄砂が飛んでいるみたいだけど、体調はどう?」
3.「きのうは頼んでいた会議資料ありがとう」
4.「今期の重要施策の○○商事のプレゼンテーション、日時決まった?」
5.「きょうはここまでだね。最後に、次の1on1までに実行することを教えてもらえるかな?」
このように、まずは「雑談」で部下の緊張をほぐし、次に「部下の体調を気づかい」「感謝を示す」ことで、部下への関心が高いことを示しましょう。そうして本題へスムーズに入れるようにします。4と5が1on1の肝となるところです。主に経験学習の促進、キャリア、プライベートなどの話になります。1~5について見ていきましょう。
①雑談
「木戸に立てかけし衣食住」と一般的にいわれているのはご承知のとおりです。*4
よく使われているのは、「休みはゆっくりできた?」「日曜日は天気よかったね。そうそう、大谷選手また打ったね!」など、気候や誰もが知っている話題だとスムーズに会話に入りやすいようです。
昨今は趣味も多様化しているため、共通の話題とまではいきませんが、相手が興味のあるスポーツや音楽でしたら、その魅力を教えてもらうのもいいですね。家事や子育て関連も話題にできます。ポイントは、リラックスしてテーマの話をはじめられるようにすること。もちろん最初は雑談だけでおわっても問題ありません。ただし、部下にたくさん話してもらいましょう。
*4 木戸に立てかけし衣食住:「き」は気候、「ど」は道楽=趣味、「に」はニュース、「た」は旅、「ち」は知人、「か」は家庭、「け」は健康、「し」は仕事、「衣」はファッション、「食」は食べ物、「住」は住まいや地域のことを指す。雑談や導入で活用されています。
②体調を気づかう
「先週は花粉も黄砂も飛んでいたみたいだけど、体調はどう?」
このようにして部下の体調を気づかいましょう。本人が気にしているようなことがあれば、言葉だけではなくノンバーバルな態度に出ることもあります。*5
そのため上司は部下の言葉だけでなく、表情やしぐさなどもしっかり観察しましょう。
*5 ノンバーバル:ここでは言語以外の反応(表情、態度、話すスピード、話し方など)のこと。
③感謝を示す
上司は部下に関心を示す必要があります。
「先週はプレゼン資料ありがとね」とひとことお礼をいいましょう。
とりわけよい報告などがあった場合は、その内容を覚えておき、1on1の場であらためて褒めたり、感謝を示したりして、必ず言葉に出して部下の行動をねぎらいましょう。部下は承認欲求が満たされ、本題に入りやすくなります。
④テーマに入る
ここで本題に入ります。本題の多くは「経験学習」です。
次に「会社の話題」と「キャリアの話」。近年では、キャリア支援の質が1on1の質の高さにつながってきているようです。
一方、部下のライフステージに大きな出来事が生じたときは、それがテーマになるのはもちろんです。本人や家族の病気・結婚・離婚・出産・育児・介護・災害・事故など、人生のイベントごとがテーマになることもあります。
⑤次回1on1までに実行する部下の具体的な行動を聞く
前回の1on1で約束した2つの行動結果を確認し、次回の1on1までに部下が実践する行動(アクション)を2つ、本人の言葉で語ってもらいます。
行動は定性評価やKPIに沿った重要な業務活動であると、より効果的です(詳しくは第4章にて)。
これが行動約束(コミットメント=アクション)となり、次回の1on1で結果を確認しましょう。
基本的にはこのようなサイクルをまわして1on1を継続していきます。基本ステップは時と場合により変化することがあります。部下にあわせて臨機応変に対応しましょう。
■1on1の実態
1on1の実施頻度
株式会社リクルートマネジメントソリューションズが実施した「1on1ミーティングに関する実態調査」(2022年4月)によると、約70%の企業で実施されています。
ただ残念なことに、実施頻度や効果は不十分なようです。
1on1には適切な頻度があり、職種などによって異なりますが、一定頻度で実施しないと効果は見られないでしょう。私の場合は月2~3回で、多くは1回20~30分でした。一般的には月1~2回の企業が多いようです。
なお、本書では「1on1」と「1on1ミーティング」は同じ意味としています。
また、株式会社ビズヒントが実施した「組織の1on1に関する調査レポート」(2022年11月)によると、1on1の実施頻度は、不定期が32・0%、2〜3か月に1回程度が23・2%、という結果でした。これは1on1を導入した企業の約半数が現実的な活動状態にない状況と考えられます。
その背景を考えますと、時間がない、一般的な面談と混同している、1on1のスキルがない、テーマがない、何を話していいかわからないなど、さまざまなことがあるのではないでしょうか。
2〜3か月に1回程度だと、期首面談や中間面談と同程度の頻度です。
また、実施したことにしている場合も見られるようです。1on1が抱える、もうひとつの側面が見えてきます。後述する1on1支援ツールもこういった背景をもとに必要とされているのかもしれません。
コロナ禍の上司・部下コミュニケーションへの影響
前述の株式会社リクルートマネジメントソリューションズが実施した「1on1ミーティングに関する実態調査」(2022年4月)によると、1on1の導入企業の約6割が3年以内に導入した、という結果になっています。
1on1が広く知られるようになったのは、2017年に発売された書籍『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(著・本間浩輔、ダイヤモンド社)の影響もあるようです。以降、導入を検討し、その結果、導入に至った企業が多いため、3年以内に導入した企業が多くなっていることが考えられます。
つまり、1on1を導入して1〜2年経たないうちにコロナ禍に突入してしまった、という現状です。上司・部下のコミュニケーションを改善しようと導入したものが、コロナ禍の影響でリモートワークが多くなり、コミュニケーションはさらにむずかしくなったのです。今後はリモートワークや在宅勤務も一定の割合で実施されると見込まれるため、オンライン形式での1on1のポイントも把握しておく必要があるでしょう。
1on1を粛々と継続している企業
1on1を粛々と継続している企業が日本にも多くあります。IT系企業や新しいサービスを展開している新興企業、経営層や社員が若い企業などに多い傾向があります。それらの企業では1on1が社内の文化として定着していて、「必要か不要か」の議論にはなっていないようです。当たり前のごとく、ふつうにコミュニケーションの手段のひとつとなっています。
このような企業では転職者が多く、社員の背景も多様です。せっかく採用したのに、すぐ辞めてしまう可能性もあります。離職を未然に防ぐ必要から、社員の状況を上司が把握しておく必要があります。1on1の発祥がアメリカのIT企業による離職防止がきっかけだったことを考えても当然のことですね。
1on1が定着している企業・定着しにくい企業
1on1が定着している企業の傾向として、以下が挙げられます。
1.社員の構成年齢が若い。
2.転職者が多く、多種多様な人が集まっている。
3.離職リスクを低減したい。
4.コロナ禍の影響で、コミュニケーションを直接取る機会が減った。
こういった企業では、いわゆる空気を読む必要性が低く、自分の気持ちを比較的率直に表現できるのでしょう。
一方、従来の日本の有力企業では、一流大学の体育会系出身者が比較的活躍されているようです。空気を読む感覚に優れた人たちや、配慮や気配りができる人たちが幹部に多い傾向があります。できないと評価され難い企業風土のようです。
世代の変遷とともに今後徐々に変わっていくと思われますが、1on1といった切り口で見ると、定着するスピードは遅い傾向があります。
「1on1が定着しない」とお困りの企業も、まずは継続しましょう。
すると、不満・課題がいろいろと明らかになっていきます。関係している人にはつらい話も出てきますが、それも含めて1on1と捉え、ひとつずつ改善しながら粛々と継続し、克服していきましょう。
現場の上司・部下の1on1のむずかしさ
1on1は一般的に上司・部下の2名による対話です。実際には上司・部下以外によるものも実施されています。先輩・後輩、社内外のプロコーチなどとの1on1、自分が所属する課以外の上司とのナナメ1on1などいろいろです。
本書では上司・部下、つまり評価者と被評価者によるものに限定しています。その理由は、難易度が高いからです。日本人の場合、上意下達で上司に本音をなかなかいわないからこそ難易度が高くなります。
1on1実施者の関係性と企業形態によって考えられる1on1の難易度について、図1のように考えてみました。

もちろん、すべてがこのとおりあてはまるわけではありません。上司・部下による1on1だけは、やや質が違い、難易度も高いと考えてもよいでしょう。
また、1on1の目的に成果を求める割合が高くなると、むずかしいと感じることが多くなります。
ポイントは、会社によって1on1導入の目的が微妙に違うこと。主に「コミュニケーション改善」と「経験学習促進」の2つです。コミュニケーション改善を目的に導入して定着してくると、経験学習促進を目指す場合もあります。
本書では、「部下の経験学習促進」を目的とした1on1を取り上げています。
全社導入前の試験的1on1との違い
1on1を導入する際、2つのステップが考えられます。
「全社導入前の段階」と「全社導入後の段階」です。
この2つのステップで1on1に違いがあるのを実感されている方もなかにはいるでしょう。その違い4点を次に示します。
1.1on1実施者の関係性の違い
会社導入前は1on1推進部社員とコンサルタント会社や研修会社のプロコーチとの1on1も多いでしょう。対話のプロによるお手本に近いロールプレイも経験されるのでは? 話題に困ったり、ずっと沈黙されたり、反抗されたりといった経験は少ないでしょう。
2.上司側の理解度やスキルの違い
導入前はプロのコーチとの1on1多く、巧みなスキルで進めてくれるでしょう。
3.目的の違い
全社導入前1on1の目的は、実際に経験して全体像を学び、全社に導入することです。
全社導入後の目的は前述のとおり、「コミュニケーション改善」か「経験学習促進」がほとんどです。
4.準備期間の違い
全社導入前は企業により違いがあるものの、3か月~1年程度の学ぶ時間があるのでは? 一方、全社導入後の現場の上司は2~3回の研修を経て、いきなり実践します。準備のための学ぶ時間がかなり違います。
全社導入後の1on1では、研修のロールプレイのようにうまくいくことがあまりないでしょう。慣れない上司が一方的に話してしまうことも多いです。なかには関係性が良好ではない部下の非協力的な対応に遭遇する上司もいます。多くはありませんが、上司にはかなりの負担でしょう。
いずれにせよ1on1推進部とそれ以外の部門とでは、関係性、理解度、スキル、目的、準備期間に違いがあります。この違いを過小評価してしまうと、会社全体に定着するのに時間がかかってしまうようです。1on1推進部のあたまの痛いところでしょう。
上司・部下の1on1 導入初期のむずかしさ
企業により違いはありますが、1on1を営業部門・開発部門・総務部門など一般部門に広げると、1on1推進部ほど十分に理解しないまま実施することがふつうです。
すぐにうまくできないのは無理からぬことでしょう。乱暴な言い方かもしれませんが、パス、トラップ、ドリブルと、練習の仕方を教えられた直後に「じゃあ、サッカーの試合して!」といきなりいわれているようなものです。だからこそ1on1推進部は、「試合を多くこなして学び成長してほしい」と願いつつ、悩みながら支援を継続されていることでしょう。
もうひとりの当事者である部下はどうでしょうか。上司に比べ、部下の1on1導入研修はさらに短いのが一般的です。1on1に対する知識・理解は上司よりもさらに低いでしょう。ふだんからコミュニケーションが不十分な上司とふたりきりの場になってしまうと、部下はかなり緊張してしまいます。
上司に対する不満が強い場合は、この機会とばかりにいいたいことをいうこともあります。もともと人間も動物も本能的に1対1のときにいちばんストレスがかかるのですから。
1on1のブラックボックス化
上司のなかには、1on1をうまく実施できないことが続いたり、部下が話さない時間が増えたりすると、やがては忙しさも手伝い、実施したことにしてしまうことがあるようです。研修のようにうまく進められず、1on1推進部や上位職に報告するにも気が引け、うまくいかなかったことを共有して学ぶ場もないため、上司はひとりで悩みを抱えることに……。これが「ブラックボックス化」のきっかけになります。
本当に実施したのか、本当にこの話をしたのかなどが上司・部下以外わからない状態です。
いずれにせよ、上司側にとってはむずかしい場面に遭遇していることは一定の割合で起こっているのが現状です。
1on1と従来の面談との違い
1on1が日本企業で定着するのがむずかしい理由のひとつは、「日本とアメリカのコミュニケーションの取り方の違い」と理解されているようですが、その原因は社会や歴史などが深くかかわっています。
この点を受け止めたうえで次のことを意識すると、1on1と従来の面談(評価面談、フィードバック面談、目標設定面談、期末面談など)を明確に区別できます。
それは、業績や営業数字の話をしてはいけない、という点です。
たとえば営業部の場合、販売数字の話を一切してはいけません。つまり、KGIの話をしてはいけないのです。これを守るだけでも1on1とほかの面談の違いを徐々に実感できるでしょう。
では、なんの話をするかというとプロセス、つまり部下の行動やアクションレベルの話をするのです。これが経験学習です。
部下の話を遮らず最後まで聞き取れたら、1on1は部下も上司も成長させてくれることでしょう(詳しくは第2・3・4章にて)。
■1on1で高業績につなげた事例
製薬企業の営業所の事例
私は製薬会社の営業所長として在籍し、1on1を特化したことにより、業績、チームビルディング、人材育成において成果につなげられました。そして再現性も確認できました。ビジネス活動ですので、個別性が高く、同じことをすれば同じように結果が出るとは限りませんが、少なくとも参考にできることやヒントはあるかと思います。
その具体的な成果とは次のとおりです。
1.下から11番目のA営業所が3年4か月で約120営業所中1位に → 高い業績の成果
2.その後2年間トップを独走 → チームビルディングの成果
3.さらにその後5年以上にわたり、全国トップクラスの高い業績を出し続ける → 人材育成の成果
4.異動後も下から5番目のB営業所をコンペで日本一に3度導く → 再現性
1万時間をどう使ったか?
では、どのようなことを話題にしたかを振り返ります。推定値ですが、その内容は次にあるグラフのとおりです。主な話題は「部下の経験学習」で、全体の約58%の時間を費やしていました。1on1の目的からいっても妥当ではないかと思います。
これらの振り返りより、成果と部下育成につながったポイントは次の5つに集約されます。
1.部下に語ってもらう、次のアクションも →第2章
2.傾聴する → 第3章
3.部下の定性評価を見える化する(経験学習促進の準備)→ 第4章
4.真摯に部下のキャリアを支援する → 第5章
5.1on1の場とふだんの職場、上司は態度や接し方を変えてはいけない(一貫性) → 第6章
「部下に語ってもらう、次のアクションも」と「傾聴する」については、卵と鶏の関係です。どちらが先でどちらが後、というわけではありません。2つは相互に補完しあい、同時に進行させていくものです。

上司の聞きたいことだけの質問
「語ってもらうは、質問することと同じではないか?」と思う方もいるかもしれません。私も当初は「質問しなければ」と強く意識していました。ところが、質問すればするほど部下が答えに難渋していることが多くなってきたのです。
質問の仕方をいろいろ変えてみても、返事が同じになったり、何度もする深堀りの質問に答えが堂々巡りになったりしました。表情にあからさまに出るわけではありませんが、部下は仕方なく、イヤイヤ答えているのではと感じました。もはや部下には「詰問」だったのでしょう。私の質問のスキルも低かったのでしょう。
このとき私は、「自分が聞きたいことを質問しているだけではないか?」と考えました。そして「このような1on1で部下の行動変容につながるだろうか?」と思ったのです。
ある日、営業でお客さまと接するとき常に念頭に置いていた、「お客さまに語ってもらう」ことを思い出しました。
同時に、管理職研修で学んだある言葉を思い出しました。それは「今後、管理職の皆さんのお客さまは部下になります」というもの。
そこで、部下をお客さまに置き換え「部下が話したそうなことを話してもらおう」と考え実践したのです。すると、徐々にですが部下の話す時間が増え、上司(私)・部下ともに1on1への抵抗感が少しずつ軽減されていきました。「部下に語ってもらう」が有効な対応となったのです(詳しくは第2章にて)。
経験学習と脳
1on1の目的の多くが「部下の経験学習の促進」です。
「ロミンガーの法則」*6でも学びの7割が経験学習からとされています。
*6 ロミンガーの法則:人が成長する7割は業務経験、2割が薫陶、1割は研修
私の場合も経験学習に最も時間を取っていたのは前述のとおりです。成果につながった点では、「部下に語ってもらう、次のアクションも」が経験学習の肝になります。
少し話は変わりますが、脳科学的には、人は自分のことを話しているときに快感を得て脳が活性化しているといわれています。これはおいしいものを食べているときと同じ快感だそうです。
また、人は他人に認められるのが大好きな生きものです。他人に承認されると、「幸せホルモン」といわれているドーパミンとオキシトシンが同時に活性化され、金銭報酬を得たときと同じ反応が脳で起きるといわれています。
つまり「自分のことを話し、それが他人に認められた」となると、「最高の報酬を得ている」と脳が判断し、最高の充実を感じているようになるわけです。
私は奇しくもこのことを1on1で実践するようになっていました。
まずは部下に、顧客に実施したアクションを話してもらいます。そのアクションがうまくいったときは行動と成果を認め、うまくいかなかったときでも行動に移したことを承認しました。この部下の行動は上司からの指示命令ではなく、部下自らが「こういう行動をしていきます」と語ったうえでのものです。
経験学習では、アドバイスや指示をできる限りしないことが重要です(新人などの例外はあり)。部下自身で問題の所在や解決方法を考えるクセをつけてもらい、解決策を自ら考え語ってもらいます。これをくりかえすうち、指示待ち姿勢が徐々に少なくなっていくのです。
加えて、部下の行動が定性評価にもつながるよう工夫しました。すると、納得度、モチベーションが上がり、さらに自ら考えるようになったのです。
このように自身の具体的行動を部下から話してもらうことが「部下に語ってもらう、次のアクションも」です(詳しくは第2章にて)。
ティーチングするのは人事評価制度だけ?
「1on1では上司がすぐにティーチングに入ってしまう」といったこともよく聞き、これを「アドバイス病」「説明病」などと呼んでいます。
ティーチングは評価制度の説明だけにしたほうがよいと考えます。入社後3年以内の部下には、人事評価制度がどのようなものであるかを把握してもらうため、定量評価や定性評価について理解してもらうことに注力していました。
また、全社的な目標が決まっているため、全社の目標を達成するために個人の目標が方向づけられている仕組みを理解してもらうことにも注力しました。
「上司が部下にティーチングしてよいのは評価制度だけ」といっても過言ではありません。人事評価制度だけは、しっかり説明するとよいでしょう。このことが「第4章の定性評価を見える化する」につながり、部下の経験学習の促進と自律につながっていきます。
定性評価では行動を評価する数値化で納得度が高まります。私の場合は営業職のため、定性評価は具体的なアクションと連動しやすく、KPIとの相関性も高いため、比較的見える化しやすいものでした。企業・部門・職種によっては定性評価を見える化しにくい場合があるため、それぞれで工夫が必要です(詳しくは第4章にて)。
働き方改革で高まるキャリア支援の重要性
働き方改革の流れからキャリア自律の重要性が増しています。
上司はキャリアに対する知識を最低限理解する必要が出てきました。これは以前にはなかったことです。それほど働き方改革の影響は大きいのですね。
それに輪をかけているのが企業の人的資本経営の推進です。少子高齢化や多様化により、育休、リスキリング、ライフシフト、ポータブルスキルなどの新しい言葉をよく見かけるようになりました。定年延長によるミドルシニアのキャリア選択や一般社員のキャリア支援は、あなたにも少しずつ重くのしかかってきているのではないでしょうか?
上司はキャリアコンサルタントのような専門的な知識までは必要ありませんが、最低限の知識はもっていたほうがよい時代になりました。
企業内でもキャリア研修を実施する機会が増えるでしょう。
第5章では、部下のキャリア支援に必要な最低限の知識や知っておくと役に立つ理論を解説しています。どれも知っておいて損のない知識です。同時に、あなた自身のキャリア自律のきっかけにもなります。ぜひ一読願えればと思います。
■1on1の効果と課題
1on1の効果
本章3節「1on1の実態」で紹介した2つの調査レポートから、次のような成果が見られています。
●上司・部下の関係改善に役立っている。
●上司・部下のコミュニケーションの機会が増えた。
●部下のコンディションの把握ができている。
●上司・部下が本音で話せる関係になっている。
●部下のモチベーションが上がった。
さらなる成果につなげられるか否かは、今後の私たちの努力にかかっているのです。
一方、課題としては次のことが挙げられます。
●求める頻度で実施されているか不明(ブラックボックス化)。
●効果がわかりにくい。
●1on1支援ツールが使いこなせていない。
●上司まかせになっている。
1on1の現場での問題点が、よりいっそうクリアに見えてくるのではないでしょうか。
少なくとも「離職者の減少」と「コミュニケーション改善」には効果が出ています。前向きに取り組み、ぜひとも成果にまでつなげていただきたいです。まずは腹をくくって続けましょう。
効果が高い上司の自己開示
2021年10月に、内閣官房内閣人事局から「国家公務員のためのマネジメントテキスト」が公開されました。このようなものが国から公にされること自体が驚きです。ここで紹介したいのは、「管理職による良質なコミュニケーションの実践方法」において次の文です。
〝業務に関する話をするとき、成功体験ばかりでなく、失敗体験も話してみましょう。部下はあなたの失敗体験を聞くことで、「上司(あなた)は自分のことを信頼してくれている」、「上司(あなた)も失敗しながら成功・経験を積んでいる。」ということを感じるはずです。〟
このとおり上司が失敗談を自己開示することは、上意下達のコミュニケーションから脱却する有効な方法ではないでしょうか。
いまや官僚も、このような上司・部下の関係を目指しているのです。1on1を活用し、良質なコミュニケーションを部下と取りたいものですね。
1on1支援ツールの導入効果
1on1支援ツールを導入し、上手に活用している企業では、1on1が改善されている場合もあるようです。苦手意識をもっていた上司でも、支援ツールの活用でスキルがはやく向上する可能性があります。
ここでの注意点として、1on1ではプライベートなことも話します。上司はプライベート情報の秘密保持が必須で、個人情報の入力に注意が必要です。データには残したくない部下もいるからです。閲覧権限も設定されているとはいえ、不安に感じる社員はいます。個人情報の入力は部下に必ず確認しましょう。
もう一点あります。それは、入力するためにPC画面に向きすぎるのはよくないことです。「1on1の9つの心得」を思い出してください。「顔を部下のほうに向け、目を見る」でしたね。入力は1on1の終了後でもできます。部下のほうを向き、相手の目を3~4割見ながら進めることを最優先しましょう。
また、いわゆる「コスパ」と「タイパ」の問題もあります。コスト面では、大企業にとって1on1支援ツールの導入障壁は大きくないかもしれません。
昨今このようなHRテクノロジー関連のソフトが日々増えています。仕事への負荷を総合的に考慮したうえで導入されていると思いますが、現場の声が届きにくい企業風土ですと注意が必要です。
一方、中小企業にとっての導入コストは小さくありません。コスパとタイパを総合的に判断したうえで、無理のない範囲で活用してください。
今後の課題「上司の忙しさ」
多くの企業で「上司・部下のコミュニケーション改善が課題」としているにもかかわらず、プレイングマネージャーが増えているのは課題のひとつかもしれません。
忙しそうな上司を見て、部下が「私もあんな上司になりたい」と思う人は多くないでしょう。「あんなに忙しそうなら、マネージャーにはなりたくないなぁ……」と考えてもおかしくはありません。
「上司になりたくない」といった意識がほどほどの業務遂行につながっている場合も考えられます。つまり、モチベーションやエンゲージメントに影響を与えているのです。
種々のアンケートでも、マネージャーになりたいと思っている人は多くて3割、という結果が多いようです。
管理職にとって自分の権限のなかでの対応が可能ならば、プレイングマネージャーの「プレイング」に相当する業務の何割かを勇気をもって部下に引き継ぐことも考慮してみましょう。
■1on1の対話例
製薬企業の営業所長の事例
下記にあるのは、上司と部下における1on1の1シーンです。
部下のAさんは転職して1年目で、ふだんのコミュニケーションでも自分から人に話しかけない極めて口数の少ないタイプ。営業担当のなかでも100人中1人か2人しかいないほど無口な人です。そのような印象がある部下と対話している、といった視点で読み進めてください。
1on1の難易度としては非常に高い部下になります。Aさんは自分からほとんど話さないため、上司が彼に話させようと苦慮しています。なお、例文はテーマに入ってからの対話です。
上司「どう最近? 特約店でもあいさつするようになった?」
部下「あっ、はい、なんとか……」
上司「そうみたいだね」
部下「はい、けっこうふつうに話せていると思います」
上司「……」 → 上司は部下の次の言葉を待っている
部下「……」
20秒ほどの沈黙
上司「うううんと、まず説明会だね」 → 上司は話題を変えた
部下「あっ、はい」
上司「今期の目標、何回だったっけ?」
部下「えーっと……」
しばらく沈黙
上司「どう?」
部下「えーっと、あのー、4回でしたっけ?」
上司「おっ、いい線いってるね(笑)! 惜しいねー」 → 上司はあえて話しやすい雰囲気にしている
部下「すいません」
上司「忘れた? じゃあ、いおうか?」
部下「はい、すいません」
上司「Aさんは5回だよ」
部下「あっ、はい……」
しばしの沈黙
上司「今期は何回できてる?」
部下「えーっと……たしか2回です」
上司「どことどこの医院だっけ?」
部下「えっと、長友医院と吉田医院です」
上司「そうか……今後の見込みはどう?」
部下「久保医院は予約が取れてます」
上司「えっ? いい感じだね。どうやったの?」 → 成功例を言語化してもらっている
部下「特約店さんの依頼で…… 特約店のBさんが今月はうちの○○製品の対策月ということで……Bさんとお願いしてきました」
上司「よくやったね。すごいね」
部下「いえ……Bさんのおかげです……」
上司「というと?」
部下「……」
上司「久保先生は○○製品について詳しく知りたかったってことかな?」
部下「えっ? ……多分そうじゃないかと思います」
上司「う、うん? ……」 → 上司は部下が話すのを待っている
20秒ほどの沈黙
部下「あのう……Bさんが久保先生に貸しをつくってたからなのか、久保先生が○○製品に興味があったからなのか、よくわからないんです」
上司「ふうん。なるほどね……けっこう冷静に見てるね」 → 上司は感心した表情
部下「あっ、はい」
上司「……で?」
部下「……先生への貸しと○○製品への興味と両方ではないかと……」
上司「うん」
部下「特約店さんの意向もあったと思います」
上司「というと?」
部下「うちの特約店担当者のCさんのおかげかと……特約店の支店長にもお願いされてましたから……」
上司「Aさんは謙虚だね。Cさんの力と○○製品の製品力を、この際上手に活用していくのも、きみの力だと思うよ。我が社の営業は日本中どこでも、Cさんのような存在がいるよ。条件は同じ。同期もみんな同じ土俵のなかだよ」 → 上司はAさんに自信をつけさせようとしている
部下「はい……ありがとうございます……」
上司「Bさんは多くのメーカーや競合製品があるにもかかわらず、Aさんと○○製品を選択したってことだよね」
部下「まあ……はい」
上司「Bさんなりの理由があったんじゃないのかなあ?」
部下「……」
20秒ほどの沈黙
上司「まっ、よかったね! 説明会が取れて、どんな気分?」
部下「はい! ……えーっと、あのう、よかったです」
上司「うん」
部下「あのう、説明会の回数は、あと2回ですよね」
上司「あっ、うん」
部下「あのー、いま2軒交渉中です」
上司「いいねえ。がんばってるね!」
部下「いえ、まだお願いしたばかりで、……まだ決まったわけではないので……」
上司「どう今後の見込みは?」
部下「はい、なんとか……あと3か月ありますので、5回できるようにがんばります」
上司「6回やったら、どうなるか覚えてる?」
部下「はい……その項目で行動評価が4点になったと思います」
上司「よく覚えてるね!」
以上、対話シーンを見ていただきました。
沈黙の活用
上記の対話で上司はAさんから話を引き出そうと、いろいろと工夫しています。
意図的に沈黙し、Aさんから言葉が出るのを待っているのです。同時に定性評価をティーチングしています。
1on1の経験が浅い時期は、上司も沈黙を避けたくなるのがふつうです。しかし一般的には、部下は上司以上に沈黙を避けたいと考えていることでしょう。
上司があえて沈黙することで、部下の経験学習や内省がさらに深まる場合もあります。上司に沈黙するスキルが身につくと強力な武器となるのです。まずは沈黙に慣れ、できれば活用しましょう。
部下の語りが最優先
もし、あなたが「部下に語らせようとしてないなぁ……」と感じた場合は、いま一度「語ってもらう」を意識して1on1を見直してください。
結論をいいますと、部下が話せば話すほど部下育成につながります。同時に、上司が話せば話すほど部下の成長にはつながりません。この点を強くお伝えしたいです。
ポイントは、部下に「話させよう、語らせよう」とする意識と工夫です。
部下が語りはじめるのを待ち、傾聴する。これは慣れるまで、上司にとっては高いハードルです。最初は忍耐と場数しかありません。上司側が話す場面をできるだけ少なくするためにも、我慢すべきところは我慢しましょう。そのひとつが沈黙です。忍耐と場数は継続することでしか解決しません。ここはしっかり受け止めましょう。
上司側は我慢することも、いずれ慣れます。なぜなら、上司は部下の人数分1on1を実践し経験するからです。その分、上達もはやくなります。回数を重ねるほどうまくなるものです。安心して継続してください。
上司がかかる2大疾患
上司が陥る2大疾患があります。沈黙の対極にある上司の疾患です。
それは「アドバイス病」と「説明病」です。心当たりはありませんか?
2つの疾患は傾聴の大敵。なぜなら、上司が話してしまっているからです。ということは、部下が話を聞く側にまわっていますよね。注意しましょう。
なお、営業部門ではびこる「数字詰め病」にも注意が必要です。
あなた自身がこれらの疾患にかかっていないか、自己点検しましょう。チェック式簡易判定表でもある程度把握することも可能です。
第1章のまとめ
《基本の「キ」を徹底する。「1on1の9つの心得」は常にセルフチェック!》
1.静かな部屋を確保する(習慣化後はどこでもOK)。
2.時間にゆとりをもって臨む。
3.座る位置は部下に対して90度から120度くらい、斜めになるように座る。
4.やや前のめりの姿勢をとる。
5.少し柔和な笑顔をする。
6.顔を部下のほうに向け、目を見る。
7.うなずき、あいづちを必ずする。
8.時々オウム返しをして、部下の話を確認する。
9.部下の話すペースにあわせ、ややゆっくりめに話す。
《成果が出る1on1 5つのルール!》
1.部下に語ってもらう、次のアクションも → 第2章へ
2.傾聴する → 第3章へ
3.部下の定性評価を見える化する(経験学習促進の準備)→ 第4章へ
4.真摯に部下のキャリアを支援する → 第5章へ
5.1on1の場とふだんの職場、上司は態度・接し方を変えてはいけない(一貫性)→ 第6章へ
《かかってはいけない上司の疾患に注意》
1.説明病
2.アドバイス病
3.数字詰め病
* * *
第1章はここまで!
続きを読みたい方は、各電子ストアにて7月23日より随時発売になります。ぜひお買い求めください。
下記リンクはAmazonストアでの商品ページになります。書籍の詳細と目次もこちらからご覧になれます。
書籍『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』
■ペーパーバック版(紙)
■Kindle版(電子書籍)
■書籍情報
1万時間の現場経験から得た、成果を出し、自律を高め、1on1を続ける極意!
多くの企業で導入されている1on1。しかし、現場では「時間がない」「効果が見えない」「テーマがない」などの声があふれています。
「忙しい業務の中で1on1にかける時間を捻出するのは難しい」
「成果が見えにくく、続ける意義を感じにくい」
「部下が1on1に対して消極的で、話が弾まない」
などとあなたも思ったことがありませんか?
効果がないと感じ、面倒に思っている管理職や部下も少なくありません。
信頼関係がある程度できている部下とは1on1がうまくできるでしょう。一方、信頼関係ができていない部下からは「話すことはありません」と言われ、質問にも協力的でない場合が多いでしょう。とはいえ、上司としては信頼関係改善と1on1を同時に進めるしかありません。そこで必要なのが、1on1の仕組化、行動の特化、行動に至る言語化なのです。
私はこのように工夫したことで、幸いにも高い成果につなげられました。この1on1の進め方をベースに著したのが本書です。仕組化、行動特化、言語化が成果と自律にどうつながるのか? 1on1を成功に導くための具体的アプローチを記載しています。
1on1の成果として何が重要か。それは「部下の成長」つまり「成果と自律」です。本書では、部下にとって話しやすく安全な場にするため、部下に語ってもらうことと語りを引き出す仕組化が重要な点をお伝えしています。今までにない視点と思います。
1on1を通じたチーム全体の成果の出し方や続け方、心理的安全な職場を築く方法など、1on1を成功に導くための具体的なアプローチもお伝えします。
1on1は上手に活用し続けることで、上司・部下双方の成長とキャリア自律などが望めます。人生100年時代のライフシフトへの学習機会ともなるのです。
【目次】
第1章 1on1の基本と現状
第2章 ルール① 部下に語ってもらう、次のアクションも
第3章 ルール② 傾聴する
第4章 ルール③ 部下の定性評価を見える化する
第5章 ルール④ 真摯に部下のキャリアを支援する
第6章 ルール⑤ 1on1の場とふだんの職場、上司は態度や接し方を変えてはいけない
■著者プロフィール
小川隆弘、
1on1面談コーチ
大卒後、外資系メガファーマの営業部門で全国屈指のハイパフォーマンスチームを育成するも妻の末期がん発覚。ワンオペ父子家庭となり、生活一変。その後営業所長となるも、父子家庭への無理解無支援で肉体的精神的に追い詰められた末、「成果を出すのは部下自身」と割り切り、1on1に特化し高い成果につなげる。1on1を延べ1万時間実施。低迷していた営業所を全国1位に押し上げ独走。営業部門の採用面接官も務める。
多様化が進む中、母子家庭、大病を抱える家族など、部下の個別事情への受容や共感が進み、安全安心な職場にこだわりチームビルディングにつなげる。1on1で良質なコミュニケーションを求め、部下自らの気づきと行動変容にこだわり、高い業績と人材育成につなげる。
外郭団体勤務後、現在キャリアコンサルタント、コーチ、研修講師。「50代からの新おひとりさまのライフハック(衣食住)」も啓蒙活動中。
* * *
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