第一章 「影」 黒鳥の影を追う
知っていても動けなかった。確信が持てなかった。備えられていなかった。
序章で書いた通りだ。リーマンショックの時、私には知識があった。クレイマーの一行も頭にあった。しかし動けなかった。手法がなかった。バイアスに縛られていた。
第一節 黒鳥とリスク

黒鳥とは何か。リスクとは何か。
その認識不足が動けない理由の一つだ。
この節でその答えを出す。
タレブの定義
2007年、レバノン系アメリカ人の統計学者ナシーム・ニコラス・タレブは「ブラック・スワン」を著した。
ブラックスワンとは三つの条件を満たす出来事だ。第一に、予測不能であること。過去のいかなるデータからも、その発生を予見できない。第二に、巨大な衝撃をもたらすこと。経済・社会・歴史を一変させる規模の影響を持つ。第三に、事後に合理化されること。起きた後になって「あれは必然だった」と人々は語り始める。しかし予測はできなかった。
タレブはこの概念で世界に警鐘を鳴らした。人間は過去のパターンに過度に依存する。「今まで起きなかったから、これからも起きない」という思い込みの危険性を、彼は鋭く指摘した。リーマンショック直前に出版されたこの書籍は、その後の世界によって皮肉にも証明された。
タレブの功績は大きい。しかし投資家の立場に立つと、一つの問いが残る。
「では、どうすればいいのか」
予測不能なら備えられない。合理化は事後にしかできない。タレブの定義は現象を鮮やかに描写するが、投資家に具体的な行動指針を与えない。
当研究所はここから先へ進む。
当研究所の提唱:風船・影・針
30年間のデータを分析した結果、黒鳥を構成する三つの要素を特定した。風船、影、そして針だ。
風船はリスクの蓄積だ。影は針の気配、すなわち予兆だ。そして針が黒鳥の本体だ。
しかしこの三つを理解する前に、まず一つの原則を頭に刻んでほしい。
備えは、影が見えてから始めるものではない。
これがこの節の核心だ。順を追って説明する。
赤い風船

ここから先は
この記事は noteマネー にピックアップされました
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?

