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美輪明宏さんと握手した日

美輪明宏さんが亡くなった。

訃報を聞いて、真っ先に思い出したのは、「銀巴里」最後のライブの日のことだった。

まだ携帯電話もなく、誰もが気軽に写真を撮る時代ではなかった。

だから写真は一枚も残っていない。

けれど、あの日の記憶だけは今も心の中に残っている。

当時21歳だった私は、
銀座の銀巴里へ美輪さんのシャンソンを聴きに行った。

不思議なことに、その日は美輪さんの目の前の席だった。

どうしてあの席に座れたのか、
全く覚えていない。

予約が早かったのか、
それとも偶然だったのか。

今思うと、周りの大人たちが若い私に譲ってくれたのかもしれない。

理由はわからない。

ただ、人生で一度きりの特別な席だったことだけは確かだ。

あの日の美輪さんはショートヘアで、ゴージャスなドレスを着ていたような気がするが、自信はない。

顔や衣装の記憶は、長い年月の中で少しずつ薄れてしまった。

それなのに、不思議なことに声だけは残っている。

銀巴里の空間を満たしていた、
あの圧倒的な歌声。

人生そのものを歌い上げるような
力強さ。

そして最後に歌ったのは、
「愛の讃歌」だった。

会場全体が、その歌に包まれていた。

終演後、美輪さんと握手をする機会があった。

私は手を差し出した瞬間、
なぜか涙があふれてきた。

感動していたのか。

銀巴里が終わってしまう寂しさだったのか。

今でもよくわからない。

すると美輪さんは、泣いている私を見て笑いながら言った。

「私が死ぬわけじゃないし。」

そして、

「渋谷のジァンジァンにいるから来てね!」

その言葉に、私は思わず笑ってしまった。

会場の空気もふっと和らいだことを覚えている。

あれから30年以上経った。

写真はない。

サインもない。

けれど、「愛の讃歌」の歌声と、
握手した時の温もりは
今も残っている。

21歳だった私が受け取った感動も、あの日の優しさも、
消えることはなかった。

顔や衣装は思い出せなくても、
声は残っている。

それはきっと、
美輪さんが、歌で人の心に生き続ける人だったからだろう。

美輪明宏さん、
ありがとうございました。

心から、ご冥福をお祈りします。

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