第65巻 岡崎市:オカザキノカミの願い
岡崎市の片隅に、「八丁味噌」と「武士道精神」を愛してやまない、ちょっとだけ願いを叶える神様が住んでいる。その名も――
オカザキノカミ。
神様であるにもかかわらず、なぜかいつも袴姿で木刀を握りしめている。そして、願いごとを“武士道的”に解釈してしまうという、極めてめんどくさいクセを持っている。
ある女子高生が「痩せたいです」と神社に願いを込めたら、翌朝から早朝5時の居合道稽古に毎日強制参加させられるという地獄が始まった。
「はっ、はっ、もう、ムリィ……」
「甘えるな。精神を鍛えれば、脂肪も逃げ出す」
そんな神対応である。
***
ある日、大学3年生の柚希は、岡崎城の近くのベンチでひとり、缶コーヒーを握りしめていた。
「就活……むずかしすぎる。私は、私でいたいだけなのに……」
彼女は理系の学生で、自分の研究に誇りを持っていた。でも、説明会ではいつも“コミュ力が足りませんね”とにべもなく言われる。
「……誰か、私をそのまま受け入れてくれる場所……ないかな」
そのとき、風がふわりと吹いた。どこからともなく、香ばしい味噌の香りとともに、袴姿の男が現れた。
「その願い、確かに聞き届けた」
「えっ、誰!?武士!?岡崎で武士出るの!?」
「オカザキノカミ。願いを、“武士的就職活動”として、叶えてしんぜよう」
「いや、武士的って何!?」
***
数日後。
柚希は、なぜか和室で“面接斬り”という試練に臨んでいた。
「第一関門。自己PRを、刀を抜かずに語れ」
「は、はい……研究室では熱力学を……って、刀いる!?」
「第二関門。無礼な質問には、無言で睨み返せ」
「それダメなやつ!!普通落とされる!!」
しかしその後、神様が案内した先にあったのは――
地元企業の技術開発部だった。しかも、少数精鋭の研究チームで、柚希の論文が偶然そこで読まれていたのだ。
「君、武士みたいにブレないねぇ。うち、そういう人ほしかったんだよ」
面接官は笑った。
柚希は驚いた。そして、こっそり涙ぐんだ。
(……神様。いや、オカザキノカミ。ズレてたけど、ありがとう)
***
一方、神様はといえば、八丁味噌工場の見学コースで勝手にガイド役を務めていた。
「この味噌樽は、まさに城である。発酵という戦が、ここで静かに繰り広げられておる!」
「……だ、誰この人……?」
***
願いは完璧じゃなくても、少しズレて、少し笑えて、でも心に残る。
そんな岡崎の街で、今日もまた――
オカザキノカミは、木刀を片手に、誰かの願いを武士道でねじ伏せている。
「さあ、次の願いは何じゃ? なお、心が折れる場合もあるから、覚悟しておけよ」
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