第150章 沼津市:ヌマヅノカミの水と火のありがた迷惑
沼津の朝は、海と富士山の間から始まる。
潮風に乗って魚の香りが漂い、空には富士山が堂々と構える。自然が見事なバランスでそこにある──はずなのだが。
「バランスって難しいよねぇ……」
そうつぶやきながら港で浮かんでいたのが、ヌマヅノカミである。
海と火山、すなわち“水と火”の調和を守る神様。性格は穏やかで優しい……のだが、時折その優しさが“余計なひと手間”になってしまうことがある。
この日も、海上でコーヒーを淹れていると、ふわっと一枚の祈願札が漂ってきた。
【願い】
「魚がうまく焼けません。表は焦げて、中が生です……(港町食堂・店主)」
「おお……これは……“火”のご加護じゃな!」
ヌマヅノカミ、思わず立ち上がった(いま海の上だけど)。
午前10時、沼津港の老舗食堂「浜のめし処」。
ヌマヅノカミは無言で厨房に降臨した。店主の早川さんが鮭を焼いている真っ最中だった。
「こげるなこげるな……うわっ、こげた!」
「ふふふ……焼き加減、整えに来たぞ」
「だれ!?」
神様は手に“神通火加減調整うちわ”を持っていた。あおげば遠赤外線、止めれば瞬時に鎮火。なぜうちわ。
「うむ、これで焼く!」
結果、鮭の皮が奇跡的なパリパリ、中はふっくらに。
「すごい……!魚焼きの神技か!」
「……神だよ」
ただし、他の料理にも勝手に介入した結果──
・天ぷらがふっくらしすぎてケーキになる
・煮魚が蒸発し、残ったのは“魚エキス風湯気”だけ
「や、やりすぎたかも……」
店主、黙ってメニューに「神がかり定食」を加えた。
午後、次の願いが届く。
【願い】
「うちの温泉、最近ぬるいって言われます(旅館・源泉温度安定せず)」
「よし、次は“火”じゃ。温度を調和せねばな」
神は温泉地へ出向き、源泉口に手をかざす。
「ふむ、火山のぬくもりを、ちょっとだけ……」
──結果、温泉が快適な41.5度に。
客「おお〜、今日は理想の湯加減だぁ〜〜」
女将「すごい……まるで“神の調整”……」
「……実際そうなんだけど、言いにくい……」
だがその裏で、なぜか隣接する足湯が45度になっていた。
「アツッ!足から煮えるわ!」
「火、伝導しすぎた……ごめんね……」
神、しょんぼり。
午後3時。港の干物屋からも願いが届く。
【願い】
「天日干し中のサバ、カモメにやられる率高いです」
「ふむ……ここは“水”の出番!」
神、港の上空に“微細ミストの結界”を展開。
その範囲内、魚の匂いがミストに包まれ、空気が「やたら湿った図書館」みたいになる。
カモメ「……ぬれるのヤだからやーめよ」
──願い、達成。副作用:干し加減が1.5倍遅くなった。
「……でも味、しっとりして良くない?」
「まあ、そういう感想もある……」
夕方、神通庁から通知が届いた。
《ヌマヅノカミ様
本日の“微過剰ご加護”報告が3件。
火と水のバランス、日々ちょっとだけお控えください。》
「……ちょっとだけか……それなら、なんとか……」
その頃、神が去った後の食堂では「皮パリ鮭の再現方法」を巡って3人が議論していた。
「たぶん、風。うちわの風」
「いや違う、これは“神風”やった」
「それや!」
夜、ヌマヅノカミは波打ち際に座って、今日のまとめを書いていた。
《本日達成:
・焼き魚 → 8割成功(副産物:天ぷらスフレ)
・温泉調整 → 成功(足湯やや熱すぎ)
・干物守護 → 成功(時間延長)》
「うん……“まぁまぁ成功”ってとこだなぁ……」
優しさと水気に包まれた神様は、そっと自分にも“神通うちわ”をあおぎ、ちょうどいい眠気に包まれていった。
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