第四章『心の成長』(02)
【言えなかった少女が、初めて手を挙げる】
一方、図工室ではピッコロを担当する藤井田彩由美が、仲間の輪から少し離れて机に向かっていた。慎重に部品を磨きながらも、目はたびたび他の班の議論に向けられる。
「このパーツ、そっちのクラリネットにも応用できないかなぁ……」
誰かがそう言うと、彩由美の手が止まった。
「……あの……たぶん、できると思います」
一瞬、教室内が静まった。普段はめったに声を上げない彼女が、顔を上げて言葉を発したからだ。
「このリードの形……ピッコロの頭部管と近い形状で、圧力を分散させる構造が似てるんです。データあります」
驚いた表情を浮かべていたのは、周囲だけではなかった。彩由美自身も、自分の声に驚いていた。でも、胸の奥がじんわりと温かい。
「それ、試してみたい!」と即座に反応したのは宮原集睦だった。
「ありがとう。彩由美さん、すごく詳しいんだね」
彩由美は照れくさそうに小さく頷きながら、そっと手元のノートを差し出した。そこには、リード形状の種類と音響変化に関する詳細なメモがぎっしり詰まっていた。
この日、誰かの修理が完成したわけではない。
だが、小さな成長の兆しが、確かにいくつも芽吹いていた。
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