恋の重量はバーベル級!
平日のジム。シャワー室からは演歌、筋トレルームからは悲鳴。そんな中、ベンチプレス台を占領しているのは、ジム名物・恋愛筋肉男子こと、井上イサムだ。
タンクトップの胸元からはみ出す胸筋が、まるでバウムクーヘン。握るバーベルは100キロ。「恋も筋トレも負荷が命!」が彼の持論である。
だが今日のイサムには、異変があった。眉間にしわ。唇にはピンクのグロス。そして、鏡越しに見つめているのは——女性専用ヨガクラスでストレッチ中のインストラクター・マドカ先生。
「恋の負荷、重てぇ……」
イサムの独り言が、バーベルよりも重苦しく響く。
彼は、恋をしていた。そう、恋愛という重量が、今日もイサムの上腕二頭筋にのしかかっていた。
「告白するしかねぇ。……ただし、筋トレ的に!」
ここからが、イサム劇場の開幕である。
彼はまず、トレーニングノートを開いた。ページには「告白までの筋トレメニュー」がぎっしり。
1日目:片手ダンベルで「君に夢中」。
2日目:ケトルベルで「この想い、落とせない」。
3日目:自重スクワットで「重いけど、逃げない愛」。
そして——最終日は、投げキッス×100回。
「インターバル30秒、唇筋が死ぬな……でも、やるっきゃない!」
その日の午後。ジムの中央で、イサムは両腕を大きく開いた。客たちが固唾をのむ中、彼は突如、ポーズをとり——
「マドカ先生ーーーッッッ!!!」
そして、唇をすぼめ、派手に——
投げキッスッ!!!
右手から左手へ、クロスして、斜め下からすくい上げるようにキッスを飛ばすその姿は、もはや舞踏。ジムのBGMが偶然「ラブ・イズ・オーバー」に変わったのは、誰の仕業か。
「ひぃっ……な、なにあれ!?」
ヨガマットの女性たちがざわつく。
しかし、マドカ先生だけは違った。彼女は微笑みながら、ゆっくりと近づいてきた。
「イサムさん……」
——来たか!? キッスが通じたか!?
「その投げキッス……。肘の角度、90度キープできてないですね」
「え?」
「あと、リストの返しも甘いし、唇のフォルムもまだ鍛えが足りない。私、ボクササイズの経験あるので、パンチとキッスはフォームが命です」
マドカはプロだった。恋愛ではなく、フィジカルに。
「でも……その根性、嫌いじゃないです」
——来たァァァ!! 褒められたァァァ!!
イサムは感激で、胸筋を震わせながらバーベルを掲げた。「これが俺の愛の証!」と叫びながら。バーベルは天井にぶつかり、照明が落ちてジムは停電した。
薄暗い中、ひとつだけ輝くのは、鏡に映るイサムの顔。その顔から、光速でキッスが放たれる。
「俺の人生、ずっと負荷だったけど、今日の君で“解放”された……!」
そして彼は、キッスとともに、ヨガマットの上でプロポーズするポーズをとった——“ダンベルを片手にひざまずく”という特殊フォームで。
もちろん、マドカ先生は言った。
「まずは、その姿勢で30秒ホールドできるようになってからね」
——こうして、イサムの恋のトレーニングは、次のフェーズへと進むのだった。
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