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「ワイルド農法」

「農業ってのはな、命を育てる神聖な仕事なんだぞ!」

 そう叫んで、祖父は朝5時に僕の布団をめくった。

 祖父・勇作(75)は、腕にムダに筋が浮き上がった元・自衛隊 現・農家。
 その日、僕・拓海(19)は“祖父の畑”を手伝うため、夏休み限定で田舎に帰省していた。

 ただし僕には、重大な誤算があった。

 それは、“祖父の畑”が、どう見ても畑ではないということだった。

「ここ、田んぼじゃなくて……ジャングル?」

「違う! これは“混作式ゾーン型超立体農法”じゃ!」

 目の前に広がっていたのは、白菜の上にトマトが生り、唐辛子の間からズッキーニが飛び出すカオス農園だった。
 しかも空中にはロープが張られ、そこをツルが渡っている。

「ジャングルジムにしか見えない」

「自然と戦ってはいかん。自然とじゃれ合うのがワシ流農業よ!」

 完全に独自路線。

 しかも、祖父は畑に名前をつけていた。

「ここが“根菜ワンダーランド”。こっちが“葉っぱゾーン”。で、ここが“メルヘンいも畑”な!」

「うん、命名センスがメルヘンすぎて逆に怖い」

 僕は言われるままに草取りを始めたが、秒で後悔した。

 なぜならそこに生えていたのは――

「なにこれ、キノコ? いや、帽子?」

「そいつは“謎しめじ”じゃ。食べちゃいかんぞ」

「そのレベルの謎は畑に置くな!」

 さらに、地中から妙に硬いものが出てきたので掘り出してみると、

「……これ、ゴルフクラブ?」

「おおっ、それは伝説の三番ウッドじゃ! ワシが昔、隣村の耕運機レースで優勝した記念品!」

「いや、なんで畑に刺すんスか!」

 すると、さらに信じられないものが現れた。

「ちょ、今、ナス動いた!?」

「おっ、それは“踊るナス”やな。たまに収穫を拒否して逃げる」

「野菜が自我持つなよ!」

 さらに祖父は畑の真ん中に突然スピーカーを置き、ボタンを押した。

「じゃ、成長曲線をチェックすっか」

「曲線?」

 ♪ 育てよ~ 伸びよ~ 太れ~ 根っこ~ ♪

 メロディ付きで野菜たちが歌いだした。

「え、なにこれ」

「“作物応援歌”。ワシが作詞作曲した」

「スピーカーから聞こえてるだけですよね?」

「いや、植物は音楽に反応する。特にサビの“根っこビヨーン”のとこがな」

 祖父は真顔だった。

 その日の夜、僕は疲労困憊で倒れた。

 翌朝、再び叩き起こされた僕は、今度は「収穫祭」なるものに連れて行かれる。

「これから“ベジタブル・パフォーマンス審査”を始める!」

「審査?」

 集まった近所の農家たちが、それぞれ自慢の野菜を持ち寄っていた。

「ウチのスイカはなんと『マリモ』型!」

「オレんとこのピーマンは、叩くと“ド”の音がする」

 祖父も満を持して発表する。

「我が“メルヘンいも畑”の代表作はこれだあっ!」

 取り出したのは――

「……でかすぎる!」

 全長1メートルの超巨大ごぼう。しかも名前が「ごぼキングZ」。

「畑の端から端まで貫いてた。軽く地殻変動起きてる」

 当然、会場は爆笑の渦に包まれ、祖父は優勝。

 トロフィーの代わりに、「でっかい根菜フェス出場権」が与えられた。

 その夜、祖父は缶ビール片手に満足げに言った。

「農業ってのはな……“遊び”がなきゃ続かん」

「まじめに育ててるんじゃなかったんですか」

「まじめに遊ぶんじゃ。これが“全力のふざけ”や」

 畑に吹く夜風が、どこか心地よく感じられた。

 都会に帰った僕は、ベランダにミニトマトの鉢を置いた。

 そして、そっと祖父のCDをかけた。

 ♪ 育てよ~ 伸びよ~ 太れ~ 根っこ~ ♪

 ミニトマトの葉が、風に揺れて踊った……気がした。


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