見出し画像

第130巻 西東京市:ニシトウキョウノカミの願い

──願いは平和的。でも“平和”を守るには、それなりの根回しが必要です。

 西東京市、閑静な住宅街の一角に、よく見ると街路樹の間にちょこんと置かれたベンチ型の祠がある。まるで公園の一部のようだが、そこに座っているのは、神様である。

 ニシトウキョウノカミ。穏やかで控えめ、主張も少なめな神様だ。

 今日も朝から、スズメにパンくずを分けながら、ぼんやりと祠ベンチに座っている。

「……鳩とスズメの間に、平和があるといいなぁ」

 そのつぶやきにタイミングよく現れたのが、高校生の千颯。彼は他人を尊重するタイプで、なんとなく神様に波長が合う。

「神様……ちょっとだけお願いしたいんですけど……」

「うん、なにかな?」

「うちのクラス、席替えするたびに微妙な空気になるんです。あんまり仲良くない人が近くになると、無言で戦争みたいな雰囲気で……」

「うんうん。あるあるだね。席替え問題」

 神様はふんわり頷くと、そっと紙と鉛筆を取り出した。

「じゃあ、千颯くん……まずは“全員が安心できる席替え”を考えてみよう」

「えっ、神様がくじ引きとかじゃなくて?」

「僕は神だけど、平和な案を出すタイプ。働きたくないわけじゃないよ?」

「……いや、若干そう聞こえたけど……」

 神様は鉛筆をくるくる回しながら、慎重に案を練っていく。

「たとえば、“共通項がある者どうしで自然と近づく席替え”……ってどう?」

「共通項?」

「好きな給食メニューとか、靴のサイズが近いとか」

「靴のサイズ!?関係あります!?」

 そこへ、控えめだが芯のある優羽がやってきた。

「神様、今度の席替え、私も不安なんです。隣になった子と話せないと、なんか孤立しちゃうし」

「よし、では“控えめな人同士ペアリング”作戦を導入しよう」

「ペアリングって……もはや席替えというより、婚活みたいですね」

 さらに、冷酷に見えるが実は真面目な悠心も合流。

「どうせなら、心理的距離が近い相手と座れた方が合理的だ。共通の嫌いな教科とか、先生のモノマネ精度とか、相性指標にできる」

「だいぶパーソナリティ暴かれてない?」

「平和のためだ」

 神様はその全データをもとに、「席替え相性シート」を手書きで作成した。

「うん、これを印刷して、こっそり配ろう。先生にもバレないようにね」

「やっぱり、裏で根回しする感じなんですね……」

 そして当日、教師公認のくじ引きで席替えは行われた。

 しかし──

 生徒たちはなぜか、驚くほど穏やかに着席していった。

「お、○○ちゃんと一緒だ! 体育得意同士じゃん!」

「わたし隣、苦手教科おなじ人だ~安心~」

「え、なにこの居心地の良さ……」

 もちろん先生は「最近の子は柔らかい空気だなあ」と微笑んでいたが、背後では“神様の控えめ戦略”が炸裂していたのである。

 放課後、千颯は神様の祠ベンチに立ち寄った。

「神様……これ、もはや神業じゃなくて人間の根回しですよね?」

「ふふ、でも平和って、だいたいそういうものだから」

「……納得です」

 夕暮れの住宅街で、ベンチに寄りかかる神様は、風に吹かれながら穏やかに目を細めていた。

 ──この街の神様は、今日も控えめに、でも確実に平和をつくっている。


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。