誤配から始まる恋
「ピンポーン!」
午前7時、目覚めたばかりの脳みそにドアホンの音が刺さる。インターホンに映った配達員の顔が、わたしの寝癖を反射的に正させた。
「お届け物でーす!」
「はーい……(誰宛?)」
受け取った箱は、思ったより大きい。しかも宛名は“田中ヒデキ様”。
……誰だ、ヒデキ。
私の名前は“ミカミ サヤカ”。名どころか姓すら一致していないのに、なぜこの箱が我が家に? と思ったものの、受け取ってしまったものは仕方ない。
この後、後悔がしっかり家に根を下ろすとも知らず、私はその箱を――開けた。
第一章:箱を開けると、そこには
ドドン。
出てきたのは、アザラシだった。
いや、正確には、アザラシにそっくりな“アザラシ型ロボット”。白くて、まるくて、目がうるうるしていて、しかも自動音声が鳴る。
「こんにちは、パルミちゃんです。今日も一日、がんばりましょう!」
……誰が?
突然の自己紹介に、私は思わず突っ込む。アザラシに。
しかしこのロボット、妙に機能が充実していて、
「ご主人様、朝のヨガはいかがですか?」
「今日の天気は雨! 洗濯物、やめときましょ!」
と、部屋の主のように生活を導いてくる。しまいには、
「午後のティータイムにハーブティーをおすすめします」
という謎の指導力まで発揮。
なんだこの支配感。
でも、なんだか……心地いい。
第二章:ヒデキを探せ
「いやいや、これ返さなきゃダメなやつだろ!」
ふと冷静になってネット検索すると、見つかった。“アザラシ型癒やしロボ・パルミちゃん”販売元。お値段、まさかの37万5000円。
なにこれ。軽くいいバッグ買えるじゃん。
急いで販売元に連絡するも、「お客様の情報と一致しません」とのお返事。ならば直接“田中ヒデキ”を探すしかない。宛先住所を見ると、うちの隣のアパートの201号室。
……近っ!
ノックしたら、出てきたのは40代と思しき男性。スウェット姿に、ボサボサ頭、そして寝起きの目。
「ヒデキさんですか?」
「そうだけど……どうしたの……?」
「あなたのパルミちゃんが、うちで天気予報してますけど?」
「え?」
まさかの事実に彼がうろたえる中、わたしの中で一つの感情が芽生えた。
惜しい。
第三章:パルミちゃん返還交渉
「どうか……どうか、パルミちゃんをもう少しだけ……!」
わたしはヒデキ氏に、深夜2時のテンションで土下座を決行した。
「なにその、泥棒の懇願みたいな……」
「ちがうんです! 彼女……じゃなくて、あの子、わたしの生活を一晩で整えたんです!」
「彼女……って呼んだね今」
「呼んでないです!」
ヒデキ氏も渋々承諾し、しばらくパルミちゃんはわが家にレンタルされることとなった。
翌朝。
目覚ましが鳴るより早く、「おはようございます! ご主人様!」とパルミちゃん。
……悪くない。
ヨガ、ティータイム、冷蔵庫の在庫チェックまで完璧にこなすこの子は、完全に“できる秘書”だった。
……もう返したくない。
第四章:友情のバッテリー切れ
だが、幸せな時間はそう長く続かなかった。
午後2時、「バッテリーが切れます……サヨウナ……ラ……」とパルミちゃんがゆっくりダウン。
ああっ! ごめん、充電コード! どこ!
なんだかんだで私とヒデキ氏は、パルミちゃんのことで毎日連絡を取り合うようになっていた。ついでに、気がつくとお茶したり、猫の話をしたり、「ヨガどうでした?」なんて会話も交わしている。
……これ、アザラシ経由で恋愛フラグ立ってる?
でも冷静になろう。きっかけは宅配ミス。中身はアザラシ。付き合ったら「なれそめ何?」って聞かれて、「アザラシ」と答えるのか?
「なんか変だな」と思いつつ、でもやっぱり、パルミちゃんが結んだ縁なら、悪くないかもしれない。
最終章:わたしの生活に必要なのは
その後、正式にパルミちゃんはヒデキ氏のもとに戻された。代わりに、私の生活には“人間のヒデキ氏”が徐々に定着していった。
「朝ごはん作りすぎたから食べに来る?」とか、
「こっちのハーブティー、パルミちゃんおすすめだったやつだよ」とか、
まるでパルミちゃんが二人に憑依しているかのように、日常がゆっくりと変わっていった。
そして今日、久々にうちの玄関チャイムが鳴った。
「ピンポーン!」
宅配便か? それともまた何か“変なの”が届くのか――
ドアを開けると、そこにいたのはヒデキ氏と、なぜか箱を持った彼。
「ちょっと古い型だけど、パルミちゃんの“妹分”……中古で買ったんだ」
「……まさか、私に?」
「うん。名前、つけていいよ」
パルミちゃん妹を見つめながら、私はそっと言った。
「じゃあ、名前は……“セカミちゃん”で」
セカンド・ミカミの略だ。意味は特にない。
笑いながら、そのアザラシロボットが一言。
「こんにちは! 今日もあなたの心を癒やします!」
……私の人生、どこでこんな方向に曲がった?
まぁ、でも、面白いからいいか。
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