第28話「アルキメデス、夢を語る」
文化祭が終わり、日常が戻ってきたある夜。
—
アルキメデスは、寮の屋上に寝転びながら星を見上げていた。
—
秋の夜空には、ギリシャの空で見慣れたはずの星座たちが、
やや違う角度から輝いていた。
—
「……わしは、ここで“見つけられた”のだろうか」
—
その隣に、松井と吉澤がそっとやってくる。
—
「なに考えてんの?」
「夢だ。……いや、夢であって欲しいのかもしれぬ。
だが、わしはこの“未来”を愛し始めておる」
—
「なら、残ればいいじゃん」
「……いや、それはまた、別の理の問題でな」
—
そう言いながら、アルキメデスは静かに語り出す。
—
「わしは、もとの時代で“未完成の定理”を残してきた。
そしてここで、その答えを見た。
では——完成した今、わしは何を求めるのだ?」
「あなた、帰りたいの?」
吉澤がたずねる。
—
アルキメデスはしばらく星を見上げたまま、答えなかった。
—
「……わからぬ。
わしがこの時代で目にしたもの——
シャワー、スマホ、落語、牛乳、カラオケ、π(パイ)の形をしたポーチ……」
—
「最後だけ急に薄いな」
—
「すまぬ、印象に残ってしまってな……」
—
二人の笑い声が夜風に混じる。
—
「でもさ、たしかにアルキメデスは、もう“ここの人”だよ」
「わしは、“わしの定理”が残る世界を、夢見ていたのかもしれぬ。
それが現実にあったこの時代は……やはり、夢のようだ」
—
「夢でもいいじゃん。夢って、叶ったときが一番リアルなんだから」
—
その言葉に、アルキメデスは静かにうなずいた。
—
深夜。
彼は寝台の中で目を閉じながら、ノートに最後の一文を書く。
—
《夢の座標》
・知は残る
・人は笑う
・未来には、わしの名前が生きていた
・ならば、この夢の中で、わしは“在った”のだろう
(第28話 完)
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。