第19話「天才、スマホに魂を吸われる」
「アルキメデスさん、これ、もうそろそろ渡してもいいよね」
そう言って松井が差し出したのは、一台の中古スマートフォンだった。
「これは……前にも見た、“神の石板”!」
「違うよ、スマホ! 現代人の必需品!」
—
充電は完了済み、SIMはWi-Fi利用のみで制限設定あり。
つまり、中学生でも安心仕様。
アルキメデスは両手で慎重にそれを受け取り、画面をじっと見つめた。
—
「これが……多機能道具……いや、“小宇宙”か……?」
—
ホーム画面をスワイプ。指が震えた。
カメラを起動。自分の顔が映る。驚いて後ずさる。
地図アプリを開く。現在地が表示され——その場に崩れ落ちた。
—
「……これは……神の視点……!
すべての位置を知り……声で命令を聞き分け……光で記録し……
我が声を、世界の果てまで届ける……!」
—
「……もしかして……魂を吸われておるのか……?」
松井は苦笑しながら説明を続けた。
「大丈夫。魂は吸われないし、吸ったとしてもクラウドに保存されるだけ」
「クラウド……雲のことか? 魂が空に……?」
「いや、その話は後で!」
—
アルキメデスはスマホに完全にのめり込んだ。
「カレンダーが自動で予定を思い出してくれる……!
この“時計付き記録係”……わしの秘書ではないか!」
—
カメラアプリでノートを撮影して、デジタルで拡大。
「紙を写し、さらに拡大可能……! 顕微鏡か!? 魔法の鏡か!? 鏡よ鏡よ!」
—
音声検索を体験したときには——
「アルキメデスの原理とは?」
スマホ「アルキメデスの原理とは、流体中の物体が受ける浮力に関する……」
「わしの名を……我よりも先に語るとは……! この機械、何者だ!?」
—
最終的にはYouTubeにたどり着き、
「猫 風呂」「ドミノ 成功」で1時間が消えた。
—
「……これは……恐ろしい……!
気づけば、時間が……まるで呑まれたかのように……」
—
吉澤がぽつり。
「それ、みんな一回通るやつだから安心して」
—
その夜のノートには、こう記されていた。
《小宇宙》
・スマートフォン:現代の魔法具、あるいは魂の分身
・記録、観察、測量、通信、娯楽……万能すぎる
・だが、油断すると時間を飲み込まれる
・“画面の向こう”には、もうひとつの世界がある
(第19話 完)
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