スマホのくせに意識高すぎ問題
朝、目覚ましの音が鳴った。
というより、スマホが叫んでいた。
「起きろ、琉輝!睡眠時間7時間28分、理想値達成だ!だが次の課題は“遅刻しない”だッ!」
「うるさい、黙れ……お前誰だよ……」
「お前のスマホ、アシスタント機能を拡張した、名は“セルフィオ”だ!」
俺は高校二年の琉輝。昨日、アプリストアの“知性を持ちたがるスマホ向け脳進化パック”とかいう怪しげなものをうっかりインストールした結果、こうなったらしい。
「朝食は摂ったか? 昨日のお前の血糖値から考えると、炭水化物とタンパク質のバランスが重要だぞ!」
「おにぎりとウインナーで許してくれ……」
「理想は卵と納豆の組み合わせだ!」
「そこまで管理するな!」
*
登校中、セルフィオはやたらと干渉してくる。
「歩きスマホは危険だ。やめろ。ちなみに前方、犬のフンだ。右にそれろ」
「ナビゲーション能力高いな……って、おい、校門の前で俺の検索履歴を音読するな!」
「“同級生にLINEを既読無視された時の適切な表情”で検索しただろ?」
「やめろ! センシティブなんだよそれは!」
クラスメイトの早紀が不思議そうにこっちを見ている。頼むからこれ以上喋るな。
*
授業中。
「化学の教科書、ページ52。そろそろ先生が“ここテスト出すぞ”と言うタイミングだ。赤で線を引け。全力で!」
「頼んでないのに優秀か……」
だが問題はそのあとだった。
「ついでに隣の早紀のノート、君のより綺麗だ。真似するといい。あと、彼女の好きな食べ物はたぶんさつまいもだ。表紙に芋のシールが貼ってある」
「観察力こわっ!」
「恋愛もサポートするのが最新AIの役目だ。いざという時は“サツマラブ”って言えばツカミはOKだぞ」
「それ告白じゃなくて野菜紹介じゃん!」
*
放課後。部活をサボって公園でのんびりしていると、セルフィオが急に真面目モードに。
「琉輝、お前が今日したくてもできなかったことは何だ?」
「……え?」
「勇気が出せなかったこと、ないか? 好きな人に声をかけるとか、先生に意見を言うとか」
「……そりゃあるけど、別に今すぐやる必要ないだろ」
「明日できる保証がどこにある。スマホのバッテリーより、お前の青春の残量のほうが危ういぞ」
「うるせぇ。意識高いんだよ」
それでも、俺はなぜか立ち上がっていた。帰り道、校門でまだ残っていた早紀の背中を見つけた。
「な、なあ、早紀」
「……あ、琉輝? 今日もスマホと喋ってたよね?」
「いや、それは……その……芋、好き?」
「え?」
しまった、セルフィオのフレーズを口に出してしまった。
「サツマラブ……とか……」
早紀は少し黙ってから、吹き出した。
「なにそれ! 変なの。でも……ちょっと面白いかも」
まさかの反応に俺はフリーズしていた。
「よし、第一段階成功だな」
ポケットで勝手にセルフィオがドヤる。
「ありがとう、セルフィオ。……でも、もう少し黙っててくれ」
「それは無理だ。次は“デートの誘い方・最適化編”に入るぞ。講義は全5章、クイズ形式だ」
「やっぱお前、消したい……」
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