第92巻 港区:ミナトクノカミの願い
六本木、虎ノ門、芝公園――
高層ビルが天を突き、カフェがMacBookだらけになるこの街には、効率命の神様がひっそり生息している。
名を――ミナトクノカミ。
願いを叶えるスピードは速いが、とにかく“効率”が優先。
夢より現実、情熱より段取り。
ムダな演出は省略され、願いがPDF形式で通知されるという噂もある。
さて、今回の主人公は、港区のIT企業で働く若手社員・湊大。
真面目で控えめな彼は、派手な同僚に囲まれて地味に生きていた。
ある日、飲み会のあと六本木の交差点でつぶやく。
「……一回くらい、主役になってみたいな。誰かに“すごい”って言われるくらい、役に立てたらいいのに……」
その瞬間、スマホに通知が届く。
件名:あなたの願いについて
差出人:ミナトクノカミPDFセンター
添付ファイル:wish_result_optimized.pdf(216KB)
「こっっわ!!! え、神様からPDF来た!? ZIPじゃないだけマシだけどさ!!」
次の朝。
社内システムが急にトラブルを起こした。
社員のPCが一斉にフリーズ。営業部が叫ぶ。総務が泣く。
そのとき。
湊大のPCだけ、なぜか通常通り稼働していた。
しかも、社内ネットワークの裏設定に自動ログイン済み。
試しに画面を操作すると、数クリックでトラブルは解決。
「えっ!? 俺、救世主じゃない!?」
「助かったよ! 湊大くん、天才か!? IT神か!?」
「いや、違……違……(神、か)」
以後、湊大の評価は急上昇。
・社内ポータルのトップに「社内貢献MVP」掲載
・社長直々にSlackで「サンキュー!グッジョブ!」スタンプ
・同僚女子から「この人に話すと問題が3分で解決する」と“港区の問題処理装置”という謎あだ名をもらう
だが、どこか引っかかる。
「俺、別に特別なことしてない……よな……?」
そのとき、再びスマホに通知。
件名:支援プランBを一部適用中です
内容:業務効率最適化、システム同期支援、同僚評価ブースト(3日限定)
備考:PR映えを求めないあなたのために、成果のみ表示されています。
―ミナトクノカミ
「やっぱり神かああああああ!!」
その後、湊大は“静かに目立つ”存在として社内で定着。
主役ではないが、何かが起きるとまず名前が挙がる。
誰かが困っていれば、なぜか彼の周りに答えがある。
そして湊大は気づく。
「主役じゃなくてもいい。“誰かの最短距離”になれるなら、それもありだ」
港区のビル風が吹くなか、どこかの会議室の片隅で――
ミナトクノカミは、今日も願いをフォルダ分けして整理中。
・要件定義済みの願い
・緊急度高の願い
・効率化余地ありの願い
ひとつずつ、手際よく、スマートに。
神だって、港区では業務改善が命なのだ。
──完──
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