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地味OL、異世界で女神(仮)

「名前は……高田です。高田京子。特に何の特技もない人間です……」

 異世界の円形会議室に響く、湿り気を帯びた自己紹介。

 そこにいたのは、何の取り柄もないと信じ込む地味なOL・高田京子、33歳(出向中)。
 気づいたら、社員食堂でカレーうどん食べてたのに、気づいたらこの円形石造会議室にいた。

 対面には、三メートルの身長に7色の羽根を背負った長老風の男がいて、威厳たっぷりに言った。

「そなたこそ、伝説の“調和の女神”である」

「いやいやいやいやいやいや!!!」

 全力で否定した。
 なにせ、昨日の夕飯も冷凍餃子。今朝も冷凍餃子。朝に餃子って女神やるやつ食うか?

「我々の世界・チョウワニアは、今、崩壊寸前……」

「いや、私も崩壊寸前なんですよ。髪の分け目も社会的立場も、どっちに寄ってんのかわかんないし」

「しかし、我々には“ふつう”が必要なのだ」

「ふつう……?」

 チョウワニアの世界は、魔法の暴走で“個性の暴力”に満ちあふれていた。
 民は全員、自己主張が激しすぎて社会がまわらない。

 ・かっこつけ剣士「技名を10秒叫ばないと発動しない」
 ・魔導士「呪文にポエムが必要」
 ・鍛冶屋「鍛冶場にラップバトルを導入」
 ・パン屋「パンが全員、喋る」

「一言で言えば……うるせぇんですよ」

「うん、それはつらいね」

「そこで“個性ゼロ”で“人畜無害”なあなたを女神にし、社会の調和をもたらそうと……」

「ええと、それ、誉めてます?」

 こうして京子の異世界女神ライフが始まった。
 役割は“何もしないこと”。つまり、何か言われたら「そうですね」「いいですね」とうなずく。それだけで、民が自己満足して勝手に落ち着くらしい。

 最初は不安だったが──

「女神様、拙者の新技“音速のマカロン斬り”、どう思われますか!」

「……いいと思いますよ」

「うおおおおおおおおおお! やはり我が道は正しかったーーー!」

 どこかへ走り去っていった。

 またある日──

「女神様、私、愛と戦いの融合について語りたくて小説を書いたのですが、3万字あります!」

「すごいですね。読みませんけど、すごいです」

「ひぃいいい、肯定された! 私、がんばるうううう!」

 この“うなずき女神”戦法、めちゃくちゃ効いた。
 チョウワニアは3週間で完全に落ち着き、みんな“満足した個性”として社会に溶け込みはじめた。

 だが。

 ある日、女神庁(本当にある)からのお達しが入る。

「京子様、あなたが“普通である”ということが、今や最高の異常になりつつあります」

「は?」

「あなたの“平凡さ”にあやかりたいと、信者が行列を作っています」

 その結果──

 ・“地味服”が流行(ベージュ一色)
 ・“髪は分け目不明”が神聖視される
 ・“冷凍餃子”が聖なる供物に認定される

「いやいや、私、ただの地味OLですよ!?」

「その“ただの地味OL”が、逆に奇跡なのです」

 最終的に、チョウワニア王が言った。

「我が国は“京子国”と改名する。通貨は“1ギョーザ”。首都は“フツーシティ”。公式宗教は“京子教”。シンボルカラーは灰色だ!」

「お願い、もう帰らせて……」

 結局、京子は自力で魔法陣を発見し、カレーうどんを残したまま帰還した。

 社員食堂に戻ると、机の上にはまだ湯気の立つうどん。そして、となりには同僚の坂口。

「高田さん、何してたの? 3分くらいフリーズしてたよ」

「……いや、ちょっと異世界で女神やってました」

「は?」

 坂口はぽかんとしていたが、そのあと言った。

「高田さんってさ、俺けっこう好きだよ。その“何もない”感じが、安心するっていうか」

「……え?」

「“人畜無害のカリスマ”って言葉、ぴったり」

「やめて、トラウマ刺激しないで」

 こうして、地味なOLは、地味なままでリアルでモテている。
 異世界よりもややこしい現実世界で、今後もきっと「調和」を振りまいていくのだろう。

 ──ただし、餃子の在庫には注意してほしい。


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