『ねむけダービー!〜眠気との死闘・午前会議編〜』
午前9時。都内某所、広告代理店ビル7階の会議室。
静寂のなか、重い空気が漂っていた。
理由は簡単。全員、猛烈に眠いのである。
「……では、昨日の案件の続きから……ぐぅ……じゃない、グラフを見てください」
部長の声はすでに、睡魔との激しい格闘を物語っていた。
その瞼は、まるで「閉じたほうが合理的」とでも言いたげな重さを誇っている。
会議メンバーは全6名。
彼らは今――眠気と戦う、壮絶なねむけダービーの真っ最中なのである。
* * *
【出走者紹介】
①部長・加納(52)
昨晩、娘の進路相談で寝不足。「よく分からんけど芸大ってなんだ……?」
②主任・佐々木(34)
0歳児の夜泣き育児で慢性寝不足。「今朝、哺乳瓶に自分の目薬入れかけた」
③新人・藤野(22)
夜ふかしでアニメ一気見。「最終回が朝5時だったんで……(自業自得)」
④営業・小松(28)
前日、合コン帰り。テンションの高さでバレるため静かに耐える。
⑤経理・村井(40)
誰よりも眠くないように見えて、誰よりも瞬きが多い謎の存在。
⑥庶務・笹本(25)
昨晩の「徹夜パン作り会」で撃沈。趣味が重い。
* * *
【第1ラウンド:意識ドリフトGP】
まず最初に脱落したのは、新人の藤野。
「……ここは、最終回の島……」
隣で書類を指さしていたはずの手が、いつのまにか剣になり、部長の顔がラスボスになっていた。
「……藤野?起きてる?」
「う、うす……!勇者の覚悟はできてます!」
「……あ、寝てるわコレ」
起こされた藤野、心底恥ずかしそうにうつむいた。
「今日の議事録、任せるね」と言われたときの顔は、次に眠らないという強い覚悟に満ちていた(5分だけ)。
* * *
【第2ラウンド:マウスカーソル漂流記】
主任・佐々木のパソコン画面では、カーソルがじわじわと右下に漂流中。
「ふぁ……ん、あれ……俺、今なにしてた……?」
「グラフまとめてたんじゃ?」
「あ、そっか……なんで今カーソルがごみ箱の上……?」
「それはたぶん、意識がそっち寄ってたからです」
「オレの意識、ごみ箱寄り!?うわ〜」
心が折れそうになるも、佐々木はコーヒーを片手に立ち上がった。
「すみません、ちょっと豆から挽いてきます」
「時間かけすぎィ!」
* * *
【第3ラウンド:静かな負け犬】
営業・小松は、無言の中でやらかしていた。
彼のノートには、しっかりと“□□□”の直線落書きが続いていた。
「なんか……大丈夫?」
「え、はい!めちゃくちゃ聞いてます!」
「じゃあさ、このキャンペーン、何を提案したいか言ってみて」
「……そ、それは……ですね……」
「“ねむけ撃退まくら”って何?」
「あっ、違う、これ家で考えてた企画で……!」
完全に心ここにあらず。
* * *
【第4ラウンド:まばたき怪獣・村井】
彼は寝ていない。だが、まばたきの回数が異常。
「村井さん……1分間に何回……?」
「61回っす」
「もはや蛍光灯の点滅より速い……」
「眠いっていうか、まぶたがヒマなんで動かしてるだけです」
「変な言い訳すぎて逆にすごい」
ちなみに村井、午後に入ってからもずっと“起きてるけど内容は入ってない”という絶妙な状態をキープし続け、最終的に「耐久賞」を受賞する。
* * *
【そしてラスト:眠りの女神・笹本】
彼女は序盤から不自然に静かだった。
「……で、進行表は笹本さんが……」
「……」
「……あれ?笹本さん?」
コトン。
隣でおでこが机に着地した音。
見れば、A4サイズの進行表をちょうど枕にして、超絶自然な角度で眠っている。
その表情が――あまりにも気持ちよさそうだった。
「……あぁ……眠いって、罪なのかもしれない……」
全員の心に、妙な一体感が生まれた瞬間だった。
* * *
【結末:だいたい眠い時は無理しないのが一番】
「すみません、全体的に眠そうなんで、今日の会議はここまで!」
部長の英断が下されると同時に、メンバーの表情が一気に晴れやかに。
「昼、仮眠室使っていいぞ!」
「ありがたや~!」
「会議室を畳にしましょうよ!」
「それもう旅館!」
こうして、午前会議は史上初の“ねむけサスペンド”となり、各自それぞれの眠気と和解しに向かったのであった。
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