鶏もも肉、それは宇宙からの贈り物
とあるスーパーの精肉コーナーで、静かなる戦いが勃発していた。
名を「鶏もも肉争奪戦」と言う。
「最後の一パック……ッ!」
そのパックに、まず手を伸ばしたのは主婦歴28年の大御所・島村ユキ。彼女は“鍋奉行界の審判”と恐れられる存在で、鍋の具に異物(ウィンナーなど)を入れた者は、即座に糾弾される厳しさで知られていた。
しかし、そのパックを挟んで、真向かいにいたのは――
「鶏ももは俺の主食……この三日、鶏皮を切り続けて左手が腱鞘炎ですが何か?」
謎の若者・松本ススム(自称:もも肉パフォーマー)。彼の部屋は、もも肉のポスターで埋め尽くされているという噂が、鶏界隈で囁かれている。
「お譲りいただけますか?」
「断る。俺は今夜、“もも肉カーニバル”を開催する予定なのだ」
「カーニバル!? ふざけてるの? こちらは“親子丼八連戦”の予定が詰まっているのよ!」
二人の握るパックが、ビニール越しにギュッと軋んだ。
そこへ颯爽と現れたのが、店員のイケメンこと「ミヤケくん」だ。エプロンに身を包み、バイト歴まだ3日目なのに、おばさま人気ランキング堂々1位。
「お客様〜、鶏もも肉でしたら、今まさに! バックヤードから新しいパックが届くところでございますっ!」
「なにぃっ!」
二人は同時に振り返る。視線の先にいたのは、巨大な台車を押す男・店長こと「柴田(72)」。
彼の腕には「鶏を極めし者」と読める刺青(※シール)が貼られている。
「よぉし、みんな落ち着け。今日は特別に“幻のもも肉・超ジャンボカット”を持ってきたぞ。通常の三倍の厚さ、名付けて“Z(ゼータ)カット”!」
パックに詰められたその肉は、光を反射して七色に輝いていた(ように見えた)。なぜかBGMが“ボレロ”になり、売り場全体がざわついた。
「Z……ゼータカット……!」
「それ、限定何パックですか……?」
「ひとり、ひとパックまで! 血みどろの争いは困るからな!」
売り場は戦場と化した。
若者は台車に飛び乗り、華麗にバック転してパックをゲット。島村ユキはエコバッグをヌンチャクのように振り回し、肉に飛びつく男たちを次々撃退。
店内放送が響く。
「お客様にお知らせします。精肉コーナーが現在、アスリートによるバトルフィールドと化しております。安全のため、青果コーナーへの避難をおすすめいたします」
その頃、青果コーナーでは静かに試食トマトをかじる老夫婦が、「あら、また肉戦争?」と笑っていた。
***
結局、Zカットのもも肉は10分で完売。争奪戦の勝者は、やはりススムと島村ユキの二人だった。
しかし、彼らの手には、なぜか“同じパック”があった。
「……え?」
「お客様方、申し訳ありません。ジャンボすぎて、1パックしかございませんでした」
「うっそ……」
店長はニッコリ笑って言った。
「二人で、分け合うというのは、いかがでしょう?」
「ええええええええええええええええええっ!」
こうして二人は、しぶしぶもも肉を半分こ。ススムの家で“もも肉カーニバル&親子丼フェス”が合同開催された。
なお、その日から二人は“鶏もも肉友の会”を立ち上げ、月一で「お肉を語る会」を開催。初回のテーマは「皮をカリッと焼くにはどうすべきか」で、3時間にわたる激論が交わされたという。
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