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第27話「帰らぬ天才の文化祭」

 文化祭前日——
 2年B組の教室では、最後の準備が行われていた。
 —
「アルキメデスくん、もういいって! 張り紙20枚も貼らなくていい!」
「いや、告知とは“拡散と反復”の原理に基づく! 知の周知なくして興味は生まれぬ!」
 —
 彼が主導するのは、理科部との合同展示「浮力体験コーナー」。
 水槽に物体を浮かべ、質量と体積の関係を学ぶブースだ。
 —
「これは、わしの原理が“遊び”の姿で再現されたものだ!」
 —
 ——だが始まってみると、
 来場者に対して、ただ説明するのでは飽き足らず、
 アルキメデスはいつの間にか講義を開始していた。
 —
「それでは皆の者、“浮かぶ理由”を考えるのじゃ!」
 —
 集まる小学生。
 横で困惑する理科部員。
 —
「ちょっと! 展示じゃなくて“授業”になってる!」

 教室の隅に、質問ボックスを設けたところ——
「“空気にだって浮力あるんですか?”」
「“お風呂とプールでは浮き方が違うのはなぜ?”」
 —
 アルキメデスはひとつひとつ丁寧に、
 しかも全力で答える。
「良い質問じゃ! 空気にも“密度”があるゆえ、原理は同じ!
 わしの風呂理論にて示そう!」
 —
 講義は次第にヒートアップし、
 ついには「定理Q&A大会」に発展。
 —
 そして午後——
 アルキメデスは、教室の壁に並べられたパネルの前に立つ。
 自ら描いた浮力図。
 古代の船と現代の潜水艦の比較。
 そして、一枚の紙。
 —
『これは、わしがこの世に生きていた証だな』
 —
 その文字を、理科部の後輩が見てつぶやいた。
「……この人、いつか帰っちゃう気がする」
 —
 放課後、教室でひとり後片付けをしながら、
 アルキメデスは小さく笑ってこう言った。
 —
「浮かぶとは、離れることではない。
 人の知が、水の上に光のように残れば、それでよいのだ」
 —
 その日のノートには、こう記されていた。
《文化という器》
 ・遊びの中に理がある
 ・問いの中に未来がある
 ・子らの中に、わしの定理が生きていれば、それでよい
 ・わしはここで“残った”のであろうか?
(第27話 完)


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