第46章:鹿児島県「桜島の鼓動と種子島の宇宙の夢」
高千穂の森を後にし、アオイは列車とフェリーを乗り継いで、鹿児島に辿り着いた。
到着した港から見上げると、噴煙を上げる桜島が、まるで眠らぬ神のように鎮座していた。
その姿は、ただ雄大なだけではない。
——どこか、怒りも、慈しみも、問いかけも、すべてを含んでいるように思えた。
手帳には、こう記されている。
——「火の島は、生と死を分け隔てぬ。黒き石の奥に、未来を照らす灯がある」
古の欠片は、「黒曜石の欠片」。
火山の活動によって生まれた黒いガラスのような石で、わずかに熱を帯びている。
それは、大地の鼓動と、人々の“未来への探求心”を象徴しているという。
*
アオイが桜島の麓に足を踏み入れると、噴煙の匂いと、土のざらついた熱が足元から伝わってきた。
乾いた風が吹き、灰が舞う。
その中で、海辺に腰を下ろしていた老漁師が声をかけてきた。
「旅の人か。こりゃまたえらい場所に来たな」
彼の名はタケシ。
桜島で生まれ育ち、この島を離れず生きてきたという。
「この山ぁ、ただの山じゃなか。怒るし、揺れるし、灰も降らす。だが、それでも、ワシらを見捨てたことは一度もなか」
「……共に生きてきたんですね」
「そう。桜島は“試練”をくれる。でも、その分だけ“恵み”もくれる。焼けた大地に、一番に芽が出るんは、強いもんや」
*
タケシの案内で、アオイは火山灰の堆積地を歩いた。
その途中、黒く光る石が埋もれていた。
アオイが手を伸ばすと、虹色の欠片が共鳴する。
掌にのせた途端、黒曜石は微かに震え、温かさを帯びた。
——「これが、“古の欠片”……!」
熱を伝えるそれは、大地の記憶のように重く、しかし不思議と希望に満ちていた。
そして、光が満ちる。
世界はまた、記憶の扉を開く。
アオイが見たのは、幾度もの噴火と、そのたびに焼けた地に根を張る人々の姿だった。
家を失いながらも耕し直し、また家を建て、火山の音に耳を澄ましながら暮らす。
その暮らしに、悲壮さはなかった。
むしろ、生命力そのものが、そこに根を張っていた。
——「自然は恐ろしい。でも、それを畏れ、受け入れ、向き合えば、共に生きられる」
——「壊されることは、終わりじゃない。再び、始めるだけ」
その言葉が、アオイの胸に焼きついた。
*
視界が切り替わり、今度は種子島の夜空。
天を目指して立つロケット。
それを見上げる子どもたちの目には、希望と夢が映っていた。
——「昔、人は空に手が届くなんて思わなかった。でも、今は違う」
——「見えないものに、手を伸ばせば届くかもしれない。それが“探求”ということだ」
宇宙センターのスタッフが、少年に言った。
「このロケットは、誰かの夢が詰まった筒なんだよ」
「夢?」
「うん。火山と共に生きる人たちが、空に向かって飛ばす“希望”さ」
*
アオイの手の中の黒曜石は、かすかに光を返した。
タケシが穏やかに言った。
「火も星も、見る角度が違うだけで、どっちも人を試してくる。でもな、試されることは、悪いことじゃなか」
「……可能性を信じるために、試されてるんですね」
「そういうこっちゃ」
*
アオイは手帳を広げ、書き記す。
——「鹿児島:桜島の鼓動と種子島の宇宙の夢」
黒曜石の欠片は、大地の熱と、空への憧れの象徴。
生きるとは、壊れることを恐れず、未来に挑み続けること。
——「足元の火も、見上げた星も、どちらも“命”を照らす光」
アオイは、遠く南の空を見つめ、次の地へ思いを馳せた。
残るは、沖縄——旅の終わりにして、始まりの地。
(第46章:鹿児島県「桜島の鼓動と種子島の宇宙の夢」完)
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