見出し画像

第46章:鹿児島県「桜島の鼓動と種子島の宇宙の夢」

 高千穂の森を後にし、アオイは列車とフェリーを乗り継いで、鹿児島に辿り着いた。
 到着した港から見上げると、噴煙を上げる桜島が、まるで眠らぬ神のように鎮座していた。
 その姿は、ただ雄大なだけではない。
 ——どこか、怒りも、慈しみも、問いかけも、すべてを含んでいるように思えた。
 手帳には、こう記されている。
 ——「火の島は、生と死を分け隔てぬ。黒き石の奥に、未来を照らす灯がある」
 古の欠片は、「黒曜石の欠片」。
 火山の活動によって生まれた黒いガラスのような石で、わずかに熱を帯びている。
 それは、大地の鼓動と、人々の“未来への探求心”を象徴しているという。
 

 
 アオイが桜島の麓に足を踏み入れると、噴煙の匂いと、土のざらついた熱が足元から伝わってきた。
 乾いた風が吹き、灰が舞う。
 その中で、海辺に腰を下ろしていた老漁師が声をかけてきた。
 「旅の人か。こりゃまたえらい場所に来たな」
 彼の名はタケシ。
 桜島で生まれ育ち、この島を離れず生きてきたという。
 「この山ぁ、ただの山じゃなか。怒るし、揺れるし、灰も降らす。だが、それでも、ワシらを見捨てたことは一度もなか」
 「……共に生きてきたんですね」
 「そう。桜島は“試練”をくれる。でも、その分だけ“恵み”もくれる。焼けた大地に、一番に芽が出るんは、強いもんや」
 

 
 タケシの案内で、アオイは火山灰の堆積地を歩いた。
 その途中、黒く光る石が埋もれていた。
 アオイが手を伸ばすと、虹色の欠片が共鳴する。
 掌にのせた途端、黒曜石は微かに震え、温かさを帯びた。
 ——「これが、“古の欠片”……!」
 熱を伝えるそれは、大地の記憶のように重く、しかし不思議と希望に満ちていた。
 そして、光が満ちる。
 世界はまた、記憶の扉を開く。

 アオイが見たのは、幾度もの噴火と、そのたびに焼けた地に根を張る人々の姿だった。
 家を失いながらも耕し直し、また家を建て、火山の音に耳を澄ましながら暮らす。
 その暮らしに、悲壮さはなかった。
 むしろ、生命力そのものが、そこに根を張っていた。
 ——「自然は恐ろしい。でも、それを畏れ、受け入れ、向き合えば、共に生きられる」
 ——「壊されることは、終わりじゃない。再び、始めるだけ」
 その言葉が、アオイの胸に焼きついた。
 

 
 視界が切り替わり、今度は種子島の夜空。
 天を目指して立つロケット。
 それを見上げる子どもたちの目には、希望と夢が映っていた。
 ——「昔、人は空に手が届くなんて思わなかった。でも、今は違う」
 ——「見えないものに、手を伸ばせば届くかもしれない。それが“探求”ということだ」
 宇宙センターのスタッフが、少年に言った。
 「このロケットは、誰かの夢が詰まった筒なんだよ」
 「夢?」
 「うん。火山と共に生きる人たちが、空に向かって飛ばす“希望”さ」
 

 
 アオイの手の中の黒曜石は、かすかに光を返した。
 タケシが穏やかに言った。
 「火も星も、見る角度が違うだけで、どっちも人を試してくる。でもな、試されることは、悪いことじゃなか」
 「……可能性を信じるために、試されてるんですね」
 「そういうこっちゃ」
 

 
 アオイは手帳を広げ、書き記す。
 ——「鹿児島:桜島の鼓動と種子島の宇宙の夢」
 黒曜石の欠片は、大地の熱と、空への憧れの象徴。
 生きるとは、壊れることを恐れず、未来に挑み続けること。
 ——「足元の火も、見上げた星も、どちらも“命”を照らす光」
 アオイは、遠く南の空を見つめ、次の地へ思いを馳せた。
 残るは、沖縄——旅の終わりにして、始まりの地。
(第46章:鹿児島県「桜島の鼓動と種子島の宇宙の夢」完)


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。