第95巻 府中市:フチュウノカミの願い
東京都府中市――
多摩の武蔵野の空気を残しつつ、競馬場と神社が並ぶ独特のこの街には、
「願いを歴史的に叶える神様」が、厳かに潜んでいる。
その名は――フチュウノカミ。
願いを叶えるとき、やたらと“過去との整合性”を取りたがるというクセがある。
現代的なお願いでも、なぜか古文書を確認してから反応する。
そのため願いの到達は遅めだが、叶うとやたら由緒正しい形で実現される。
この日、府中駅近くのカフェでバイトをしていた大学生の龍成は、人生にうっすらモヤっていた。
「なんかこう……自分が注目されるような役割って、ないかなあ……一発でいいから、スポットライト浴びたい……」
その夜、彼のスマホが謎の振動とともに「カーン」という和鐘の音を鳴らした。
画面に表示されたのは、
【照覧ノ記】
願意:己、注目ノ兆候ヲ希フ
確認:大國魂神社、祭礼記録ノ精神ヲ基盤トシ
執行者:府中之神
実行形式:一時的神輿化(暫定)
「なんだよこれ!? 神輿化!? 俺、担がれるの!?」
翌朝。
バイト先に行くと、彼の制服がなぜか金襴の羽織付きになっていた。
さらにレジカウンターに謎の木札が。
本日、店内神事執行中。
ご注目は、あの者に。
「いや、堂々と“あの者”って書かれても!!」
だがなぜかお客がみんな「今日はこの人から買うと縁起がいい気がする」と、
やたらと彼のレジに並ぶ。
バイトリーダーすら「なぜか龍成くんのコーヒーだけ、味が“重厚”」とコメント。
それから数日。
・街頭インタビューに偶然映る(しかも後光がさしてる)
・大学のゼミでプレゼン中、パワポが勝手に“巻物風エフェクト”に
・祖父の書斎から発見された書物に「りゅうせい」という名前(たぶん無関係)
やがて、近所の商店街から「週末のイベントで“注目の若者”として舞台に立ってほしい」と依頼が来る。
「……俺、注目されてるけど……これ、たぶん“昔っぽく”注目されてない?」
「まことその通り」
「出たな! フチュウノカミ!! 和風Wi-Fiみたいに繋がってくるな!!」
「古きを辿り、新しきを知る……
ゆえに、君の願いも“祭礼フォーマット”で応じたまで」
「時代に合わせて!? 柔軟にしてくれよ!!」
「無理。神だから」
結果、龍成は府中の街で
“一日限りの現代神輿男子”として市民に担がれた(比喩ではない。実際に担がれた)。
ご年配に「ご利益ありそう」と写真を撮られ、
小学生に「何の神様なの?」と聞かれ、
「えーと、“目立ちたい神”です……」と答えた。
それ以来、龍成は“なんとなく目立つ体質”として知られ、
何かと街イベントの「顔」的存在になった。
本人は言う。
「自分が注目されることに、ちゃんと責任持たなきゃなって思えるようになった。神輿に乗ってから、ちょっとは……背筋伸びたかも」
府中の風が、今日も静かに吹く。
どこかでまた、「ちょっと目立ちたい」誰かの願いが――
歴史と伝統をまとって、なぜか荘厳に叶えられている。
それが、フチュウノカミ流。
──完──
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