第7話:東京駅の駅神様
赤レンガの駅舎が堂々と佇み、新幹線も在来線もひっきりなしに発着する東京駅。
ここを守る駅神様は、クラシカルな燕尾服に懐中時計を下げた紳士の姿をしていた。どこか英国執事のような物腰で、口癖は「ご案内いたしますよ」。
朝の通勤ラッシュ、駅神様は腕時計をちらりと見やり、指先で空気をすっとなぞる。すると、混雑した改札のひとつが偶然空き、人の波がすっと流れる。
「ふむ、滞りなく――」
そう頷いた矢先、東海道新幹線のホームで旅行者のカップルがきょろきょろ。
「え、京都行きって何番ホーム?」
駅神様は小さく咳払いをして懐中時計を開く。すると、ホームの案内板がぱっと光り、彼らは迷うことなく新幹線へと向かった。
「良い旅を」
しかしその一方で、地下のグランスタでは別の光景が広がっていた。
スーツ姿の会社員が、弁当売り場を前に腕組みしている。
「シュウマイ弁当……いや、深川めし……それとも牛肉どまんなか……」
駅神様は額に手を当てる。
「……これは私でも選べませんな」
結局、会社員は悩みに悩んで三つとも購入。新幹線の座席で幸せそうに食べ比べを始めた。駅神様は遠くから見守りながら、ついくすりと笑う。
夕暮れ、赤レンガの駅舎に灯りがともる。
駅神様は胸ポケットから小さな銀の懐中時計を取り出し、静かに呟いた。
「この駅を行き交うすべての人に、良き時間がありますように」
その声は人々に届かぬが、不思議と東京駅の空気はほんの少し柔らかくなった。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。