【bon43:宮城県_大漁唄い込みと“止まらない宴”】
宮城県・気仙沼――。
潮風と焼きホタテの香りが立ちこめる漁港の広場で、すでに何かが始まっていた。
「……ねえ、まだ昼だよね?」
磨林が、眉間にシワを寄せながら周囲を見回す。
のぼり旗、櫓、拍子木の音、そして――
既に酔ってるおじいさんたちが円陣で盆踊ってる。
「大漁唄い込みって、こんなに“フライング宴”だったっけ?」
愛賀が小声で言うと、響雅が渋く頷いた。
「漁のない日は祭りの日……らしい。しかも“踊るか呑むかしかない”って、このおっちゃん言ってた」
そばにいた海の男が笑って割って入る。
「うちはな、踊ってると魚が寄ってくるんだぞ。まあ気のせいだけどな! それでもいいのよ! 気分がアガるんだから!」
彼のテンションにやや引き気味の修大がぽつり。
「……たぶん今、この空間に“常識”って単語は存在しない」
その通りだった。
突然、中央のステージで大太鼓が鳴った。
「よっ! はじまったぞー!!」
「漁師のど真ん中いっちょやってけー!!」
声が飛び交い、法被姿の漁師たちが前に立ち、手拍子とともに歌いだす。
♪チョイサ チョイサァ〜! 海はよ〜 大漁だぁ〜♪
全員、声がでかい。
マイクいらない。
むしろ海鳥が逃げた。
愛賀が呆然とつぶやいた。
「……この唄、なんか……説得力がすごい。魚が絶対寄ってくる気がしてきた」
響雅が目を細める。
「理屈じゃない。これはもう、“魂の営業ソング”だ」
気がつけば、観光客も巻き込んでの大合唱が始まっていた。
太鼓のビートはまるで船のエンジン音、男たちの歌声は風を切る帆。
盆踊りというより、これはもう集団出航前の気合い入れである。
その真ん中で、修大がなぜか木箱の上で踊っていた。
「えっ!? 俺!? なんで!?」
どうやら流れで背中を押され、気づいた時には一番目立つ場所に。
「ほら! お兄ちゃん! 足もっと広げて! 波乗ってる感じ出して!」
「せっかく踊るなら“港のアイドル”くらい目指さにゃな!」
地元のおばちゃんたちから矢継ぎ早にアドバイス。
まるでアイドル育成型盆踊り。
観客の笑い声、拍手、掛け声。
その様子を遠巻きに見ていた磨林がぽつりと呟いた。
「……笑われてるわけじゃない。笑ってもらってる。」
愛賀が頷く。
「ここの人たち、“楽しい”の押し売りがうまいよね……
しかも、嫌な感じじゃない。不思議と受け入れちゃう……」
そこへ、宴会モードの漁師が皿を持ってやってきた。
「おっ、あんたら! 食え食え!
これは今朝揚がったサンマ! 踊ってくれた礼だ!」
「え、礼に魚!?」
愛賀が驚く間に、響雅が既に一口。
「……うん、踊って正解だった」
味で納得してる。真顔で。
そこにさらに、港の若手が登場。
「踊りが良かったら、“ほや”もサービスすっからな!!」
「え、それ基準!?」
地元食材が踊りの成果報酬になっているらしい。
気がつけば――全員がそれぞれのリズムで踊り始めていた。
フォーメーションなどない。
決まりもない。
でもなぜか、全体がまとまって見える。
「楽しむ」という動機だけで人が一致すると、こうなるのか――
修大は木箱の上で、
誰よりも大きく手を振りながら思った。
「……俺、今なら漁もいける気がする」
「やめとけ、漁師なめんな!」と総ツッコミ。
全体が笑いに包まれたその瞬間、
遠くから、“次の歌い手”が大声でスタンバイを始めた。
「いくぞーッ! 次は“波のむこうの恋唄”だぁあ!」
「え、そんなロマンチック展開!?」
「ジャンルの幅広すぎない!?」
踊りと唄とツッコミが波のように押し寄せる、
それが、宮城・気仙沼の“リスペクトされし宴”だった。
(bon43:End)
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