第143章 小田原市:オダワラノカミの堅実な大暴走
神様も、たまには「やらかす」。
小田原の朝は、今日も穏やかだった。潮風が町を撫で、観光客がゆるやかに小田原城を目指す。歴史の風がそっと吹くその片隅──
「……城、歪んでないか?」
突然そんなことを呟くのが、小田原の守護神・オダワラノカミである。
城と海をこよなく愛する、堅実で落ち着いた神様。基本的に穏やかな日々を守るタイプだが、その堅実さが極まると──過剰に“防御的”になる。
そして今日、ついにその神が「異常検知モード」を起動した。
午前9時、小田原城前。
オダワラノカミは城の石垣をじっと見つめていた。
「……0.03度、傾いている。ように見える。ような気がする……いや、間違いだったら失礼か?」
神、慎重すぎる。
だが彼は過去に「“気のせい”で天守閣を2週間警戒し続けた」という前科がある。あの時は風見鶏の向きが変わっただけだった。
「しかし、備えあれば……祟りなし……!」
神、ついに決意。
「急ぎ、“補強祈願式”を発動するッッ!!」
そう叫んで、天守閣の真下で「神的土台補強術式」を組み始めた。
石垣の微細な隙間に霊力がスッ……と流れ込み、わずかに──わずかに揺れた。
「わあっ!今、地震じゃない!?」
近くの観光客が叫ぶ。
違う、それは神様が勝手に震わせたのだ。
「くっ……もう少し静かに祈ればよかった……!」
正午。神通庁・小田原支部に連絡が入る。
《件名:地盤振動の件、心当たりのある神、正直に手を挙げるように》
オダワラノカミ、そっと机に「黙祷中」の札を立てる。
無言の反省である。
そんなとき、新たな願いが届いた。
【願い】
「明日の運動会、雨が降りませんように(小田原市立第二小・教頭代理)」
「よし、天候調整は慎重に……いや、堅実に、確実に……!」
神はすぐさま“微圧式雨雲誘導封印札”を空に投げた。
が、それが風に飛ばされ──小田原駅のホームに落下。
すると、なぜか駅構内で“霧雨”が発生した。
「ホームだけ局所的に降ってる!?」
「これ、オダワラノカミのせいじゃね?」
「ち、違う!これは風のいたずらだ!」
神様、口では否定しつつ、内心「次から札はヒモ付きにしよう」と反省していた。
午後3時。小田原城近くのカフェ。
オダワラノカミはレモネードを飲んでいた(神はレモンが好き)。
そこへ町内会のご婦人たちがやってくる。
「この前のお城の影、なんだか縁起が良かったわよ〜。なんか宝くじ当たったの」
「あたしはダイエット3日坊主、8日続いたのよ」
「なにその微妙なご利益……」
──いや、これも“堅実な奇跡”か。
「ま、バレなきゃ……いや、違うな……真摯であることが信頼に繋がる……」
神様は自戒を込めて、レモンを追いレモンした。
夕方。再び小田原城の見回り。
「──あれ?天守閣の旗、風で逆さに?」
神、反射的に“逆風変換術”を発動。
……突風が起き、観光客の帽子が10個飛んだ。
「ちょっ……まって、まって、違うんです!」
神様、帽子を神速で回収するが、一人の少年が叫ぶ。
「すげえええ!神風だあああ!」
その声に、拍手が巻き起こる。
「えっ……あ、ありがとうございます……いや、違うんですけど……」
なぜか拍手で締められる神様の暴走。
夜。
神殿で日記を書くオダワラノカミ。
《本日のご利益:3件(防災・天候・落とし物)
混乱:6件(地震誤解・局所霧・突風・誤解・帽子・レモン)》
「……堅実とはなんだろうな」
神、迷走。
だが日記の最後に、こんな一文を添えた。
《明日は、城を揺らさずに頑張ります》
そうして静かに、彼は自作の“防災手ぬぐい”で目元を覆い、寝た。
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