ポイ捨て禁止隊 隊長
朝の通学路にあるバス停前。その日、そこに“それ”は立っていた。
「ポイ捨て禁止隊 隊長・加藤だ。貴様、今、ガムの包み紙を地面に捨てたな?」
制服姿の男子高校生・山野は、コンビニおにぎりのフィルムを握ったまま、硬直した。
「え、いや、いま、ゴミ箱に捨てようと思ってて」
「その手元、どう見ても地面方向を向いていたぞ! 違反行為と認定!」
「いや、まだ捨ててないし!」
謎の青いベストを着た中年男・加藤は、ホイッスルをぴぴーっと吹いた。
周囲に誰もいないのを確認すると、加藤は懐から小型スタンプと手帳を取り出し、山野の手に「ゴ」と押した。
「ゴ?」
「ゴミの“ゴ”だ。これは仮違反印。これで24時間以内に再犯した場合、“フルスタンプ制裁”となる」
「なんスかそれ」
「『ゴ・ミ・ス・テ・イ』の6文字が揃うと、公民館で強制ゴミ拾いボランティアに参加してもらう」
山野は困惑して手の甲を見る。しっかりと朱色の「ゴ」が残っていた。
「洗っても落ちんぞ。特殊インクだ」
次の日、山野は仲間に「変なスタンプ押された」と説明したが、誰も信じなかった。
「また寝不足で幻覚見たんじゃね?」
しかし次々と「謎のスタンプ被害者」が見つかる。
・「ス」の印が押された女子生徒(アイスの棒を道端に落とした瞬間)
・「テ」の印が押されたサラリーマン(缶コーヒーを置き去り)
・「ミ」の印が押された小学生(落ち葉をポイして怒られる)
誰一人として、ポイ捨てしたという自覚がなかった。
「奴はどこにでも現れる……朝の公園、駅のホーム、文化祭の片づけ中……!」
「見つめてるのに気づかないうちに……“ゴ”を押されている……!」
加藤隊長のうわさは町中に広まり、ついには「都市伝説」扱いされた。
が、現実だった。
ある日、ゴミの放置が横行していた「カラス多発通り」の歩道に、「ゴ・ミ・ス・テ・イ」の6文字が並んだ巨大看板が出現。
その下には、ひとりの男が直立していた。加藤だった。
「ついに……集まったのだ、6文字が!」
「おい、町内会に無断で看板立てるな!」
「私はポイ捨ての呪いを断つために、この身を捧げているだけだ……!」
話を聞けば、加藤は元役所職員で、“町の清掃担当”だった頃に数々のゴミ地獄を経験したという。
ある日、大雨の中、道に捨てられたストロー1本が排水口に詰まり、道路が川のように冠水。その場にいた幼稚園児がずぶ濡れになり、「ストローのバカーーー!」と叫んだ。
その姿に打たれた加藤は、退職後に「ポイ捨て撲滅人生」をスタートしたのだ。
だが、方法は独特だった。
・違反者のリュックに謎のパンフレットを勝手に忍ばせる
・夜に路上で「ポイ…ポイ…」とつぶやきながら掃除して回る
・勝手に作った「ゴミの神様に誓います!」ステッカーを配る
もはや変な宗教に近い。
しかし、あるとき中学生の間でそのステッカーが「逆にオシャレ」と流行。
「ポイ捨てって、だせぇよな」「え、普通ゴミは持ち帰るでしょ?」
次第に町からごみが減り始める。
商店街の八百屋の親父も、「おい、加藤のおっちゃんのおかげで、ゴミ袋の回収量減ったぞ」と、感謝の言葉を口にするように。
町は変わった。けれど。
「ねえ、あの変なおじさん、最近見なくなったよね」
加藤は忽然と姿を消していた。代わりに、町の各所に新たなステッカーが貼られていた。
《ポイ捨て禁止隊は、あなたの心の中にいます》
その日、山野は帰り道、なぜか懐かしい笛の音を聞いた気がした。ふと地面を見ると、アイスの棒が落ちている。
彼は、しゃがんで拾い上げた。
すると、どこからか微かに、拍手の音が聞こえたような気がした。
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