見出し画像

育児コンサル、はじめました。

 「はい、では次の方どうぞー!」

 僕の名は大森拓朗、二十七歳。職業は――育児コンサルタントである。

 「いや、それどんな仕事よ?」

 そう言われることには慣れている。僕も最初は「育児? それ専門でアドバイスするって、なに言ってんの自分」と思っていた。だがある日、公園のベンチで寝落ちしていた僕を起こしたママさんに言われた。

 「あなた、抱っこが上手すぎるわ」

 それがすべての始まりだった。

     *

 今日も相談者がやってきた。ガラガラとベビーカーを押す、目の下にクマを飼った新米パパ。

「どうされました?」

「この子が、夜泣きすごくて……僕、もう限界で……泣きたいのはこっちだって感じで……」

「お子さん、名前は?」

「しゅんすけです」

 僕はそっと、しゅんすけくんの小さな手を握った。そしてこう言った。

「この子、夜中にUFO呼ぼうとしてますね」

「は?」

「わかります。声の波長が宇宙寄りなんですよ。夜泣きというより交信です。寝る前にアルミホイル帽、ぜひ試してみてください」

 真顔で言ったので、パパは信じた。次の日、「すごい! 寝ました!」と報告があった。たぶん偶然である。

 別のママはこう言った。

「うちの娘、食べ物投げまくって困ってるんです」

「投げる対象は?」

「にんじん、ピーマン、しいたけ」

「完全に野菜反乱ですね。ではこちらの“食べ物キャスティング会議シート”を使ってみてください」

 そう言って渡したのは、僕が100均で自作した謎の表。キャラ名(にんじん男爵、しいたけ伯爵)や必殺技(ポトフブレイク)が書ける。ママは目を丸くしていたが、後日「しいたけ伯爵、娘のお友達になりました」と報告があった。うそみたいな本当の話である。

     *

 ただ、もちろんうまくいかない日もある。

 ある日、「子どもが言うことを全然聞かない」という相談に、僕は「言うことを聞いてもらうのではなく、こっちが従うふりをして立場を逆転させるんです!」と熱弁した。

 「たとえば?」

 「朝起きたら、逆に“パパが靴下履かせて〜!”って言う。ご飯のときも“あーんして〜”と頼む。子どもが主導権を握ってると思えば、不思議とスムーズに動くようになります!」

 結果、家じゅうの大人たちが“赤ちゃんごっこ”になったという。なぜかおじいちゃんまで「おむちゅ履きたいの〜」と口走り、全員混乱した。

 そのとき僕は深く反省した。

 子どもは予測不可能で、しかも感染力が高い。

 次からは、戦略に“祖父母への波及”も考えるようになった。

     *

 でも、いちばん驚いたのは、ある日突然やってきた六歳児、ゆいちゃん。

「わたしも、そうだんしにきました!」

「えっ、どんなお悩み?」

「うちのママがね、ずーっと“やさいたべて”って言ってくるの。わたし、もうちょっとチョコ食べたいのに!」

 僕はうなずいた。ついにきた、“逆・育児相談”。

「……それは、難しいね。でも、ママは心配なんだよ。おなか壊したり、元気なくなったら困るから」

「でもさー……ブロッコリーって、カリフラワーの敵でしょ?」

「そういう発想は好き」

 ゆいちゃんには、特別に“野菜大戦争トレーディングカード”を渡した。カード裏には「勝った野菜はおやつに変身!」と書いてある。彼女は真剣な目でうなずき、「じゃあ、わたし、ほうれん草から仲間にする」と宣言して帰っていった。

 数日後、そのママから「ゆいがブロッコリーのこと“ブロッキング将軍”って呼んで、食べてます」と報告があった。たぶんそれも偶然である。でも、ちょっと誇らしかった。

     *

 育児は、たしかにたいへんだ。でも子どもたちは、小さな冒険者で、小さな芸術家で、小さな社長で、小さな宇宙人なのだ。

 だからこそ、彼らと向き合うには、こっちも“ちょっと変な大人”でいる必要があるのかもしれない。

 僕は、今日も育児相談所の看板を出す。

 「お悩み、なんでもござれ! ただし回答は信用するな!」

 それが僕の流儀だ。


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。