【bon39:大阪府_河内音頭と“笑いの頂上決戦”】
大阪・八尾。
夏の夕暮れ、まだ完全に暗くなる前。
河内音頭の太鼓が、じわりと空気を温めていく。
露店の焼きそばの香り。
人混みの中で光るLEDのうちわ。
その真ん中に、妙に目立つ集団がいた。
「いいか、今日は“自分アピールの極致”が試される日や」
自信満々にそう言い放つのは、里夏子。
目立ちたがり屋の彼女は、すでにLEDで名前が流れるうちわを両手に持っていた。
「“里夏子”って書かれてる……自作……!?」
と目を見開いたのは冴輔。
極度の緊張型で、足元に汗たまりを作っている。
「でもでも……結果よりも過程を大事にする私たちは、競争とかじゃなくて――」
やちよの声は最後まで聞かれなかった。
なぜならその時、皇士郎がステージの上に跳び上がったからである。
「よっしゃあああ!! 八尾の王になるでぇええええええ!!!」
周囲の太鼓隊が、一拍ずらした。
完全に一人だけ“盆踊り界の猪木”状態だった。
「うち、ちょっと河内音頭で騒ぎたかっただけやのに……この人、優勝狙いに来てる……」
やちよが困った顔で笑う。
冴輔はすでに、後方でこっそり緊張して吐いていた。
「これ、バトル……なの? 平和な踊りじゃないの!?」
そのとき、河内音頭のリズムが切り替わった。
「ソレ、踊りましょか〜」
掛け声とともに、地元の女性が回転しながら登場。
シンプルながら色気のある所作、首筋の角度、背筋の反り。
これぞ“河内の美”――が、皇士郎は違う方向に燃えていた。
「くぅぅ〜っ! こっちも負けへんでぇえええ!!」
なんと、特注のLED入り法被をバサァッと翻した。
「うわっまぶし! 電飾で視界が失われる!」
やちよが目を押さえ、冴輔はその光に完全にフリーズ。
「この人、“光量”で優勝狙ってる……」
しかし、そのとき異変が。
――河内音頭のリズムが、加速する。
テンポが軽くなり、周囲の踊り手たちが一斉に体を揺らし始めた。
地元の少年が叫んだ。
「おっちゃんら、テンポあげてきたでー!」
まるで皇士郎の空回りに対し、河内音頭自体が“迎撃”を開始したかのようだった。
その空気を察したのは、やちよだった。
「これは……“踊り”で突き返されてる!」
冴輔が、ふるふると震えながらつぶやく。
「やちよ……ぼく、やるよ……! 踊りで、僕の“地味で素直な気持ち”を……伝える……!」
立ち上がる冴輔。
その動きはぎこちないが、音に寄り添おうとしていた。
「地味でも、伝わる。むしろそれが“地元の呼吸”!」
やちよもそれに続き、
LEDを持った里夏子も、LEDを置いて自然な笑顔に戻り、踊り始める。
皇士郎も、それを見てゆっくりと……
「……やるな。お前ら……! 俺も、リズムに乗る!」
――最初からそうしてくれ。
(bon39:End)
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