第70巻 豊橋市:トヨハシノカミの願い
朝、愛知県豊橋市。
海風と田園が共存する街に、ちょっと変わった神様がいる。
その名もトヨハシノカミ。海と農業の神でありながら、やたらと「実り豊かに」というフレーズを多用する男。
そして今朝、神社に訪れたのは高校3年生の遼馬。
願いは一つ。
「俺、どうしても『実る』恋がしたいんです……!」
すると、隅の方で畑仕事をしていた神様が、顔だけ振り向いた。
「ほほう。実る恋、か。了解だ」
「ホントですか!?ありがとうございます!あの、相手は隣の席の千夏ちゃんで――」
「話は後だ。まずは耕すぞ!」
「え?」
「畑だ」
「畑!?」
そう、トヨハシノカミの願いの叶え方は「比喩をガチで物理化」するタイプ。
“実る”恋と聞いた瞬間、彼の中では“耕す→種まき→水やり→収穫”の一択になっていたのだ。
「まず、この土に触れ。感じろ。“地元愛”を」
「恋の話だったんですけど!?」
「恋とは地道な作業。急に実るものではない」
神様、妙に農業に寄せる。
さらに、手渡されたのはスコップと謎の種。
「この“恋豆”を植えるのだ。育てば、君の心も育つ。……たぶん」
「“たぶん”って言った!? 今、“たぶん”って言いましたよね!?」
「さあ、日が高くなるぞ。水をやるのだ!」
翌日、学校で千夏に話しかけようとした遼馬は、ポケットから恋豆の写真を見せて言った。
「これ、昨日、俺が育てた恋の……芽なんだ」
「は?」
「まだ芽だけど、育ててる。今度、花が咲いたら見に来て」
「……なに?告白の新手?家庭菜園系?」
反応は微妙だ。でも遼馬はもう止まらない。なにせ神様直伝なのだ。
そして1週間後。
恋豆は、どう見ても枝豆だった。しかも普通に美味い。
遼馬は豆を茹で、学校に持参。
「千夏!これ、食べてみて!」
「……え?これが恋?」
「うん!育てた!マジで!」
「……美味しい!」
告白ではないが、第一関門:笑顔で話すは突破した。
トヨハシノカミは、神社の端でうなずいていた。
「実り豊かな恋……とは、まず相手と“共に収穫できる関係”だ」
その脇には、カレーうどんに枝豆を入れた謎料理が湯気を立てていた。
美味いかどうかは、運しだい。
📌
恋も農業も、“やってみる”が始まりだ。
トヨハシノカミのやり方はズレてるけど、根は真面目で丁寧。
たぶん、日本一素朴な恋の応援者である。
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