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第156章 出雲市:イズモノカミの縁結び急便、ただいま迷走中

出雲大社のそば、ふわりと霧がかかる森の奥に、今日も神様はいた。

 名を、イズモノカミ。

 縁結びに強く、願いは神秘的に、優しく叶える。

 ……ただし最近は「ちょっとだけ働く」スタイルを徹底しているせいか、なぜか毎回ズレた形で叶えることでも有名である。


 「ご縁がありますように……」

 ぽそっと願ったのは、出雲市役所で働く公務員・彰啓。30歳。結婚願望は“ややある”が、行動力は“かなりない”。

 神頼みをしてみたのは昼休み。おみくじが「小吉」で、しかも「“チャンスは南から来る”」と書かれていたのが決定打だった。

「南……って何?九州?」

 彼がポストに投げた小さな願い札は、夕方には神様の手に。

 それを受け取ったイズモノカミは、ふわりと微笑んだ。

「縁、結びましょうか。優しく、ちょっとだけ」


 翌朝。

 彰啓の職場に、謎の配達員が現れた。

「こちら、“縁結び急便”でーす」

「……?」

 手渡されたのは、ラベンダー色の封筒。差出人は不明だが、消印には見覚えのない「カミサマ私書箱」の文字。

《あなたにぴったりのご縁をご用意しました。ご希望の受取方法を以下よりお選びください。

A:神秘的な出会い
B:運命的な再会
C:たぶん間違い》

「……Cが怖い……」

 迷った末に、“おみくじの小吉”精神でBを選ぶ彰啓。


 その日の夕方。

 帰宅途中、偶然入ったコンビニで──

「あれ……彰啓くん?」

 声をかけてきたのは、中学時代の同級生・美晴。しっかり者で笑顔が印象的な女性だ。

「久しぶりだねぇ。相変わらず……優柔不断な顔してるね?」

「そ、それ褒めてないよね?」

 少しだけお茶をして、LINEを交換。

 夜には「なんかうれしかった」というメッセージが届く。

(こ、これが……運命的な再会!?)

 脳内でBGMが流れ出した。

 だが、このとき彼は知らなかった。

 イズモノカミは、同じタイミングで──別の「ご縁」も投函していたことを。


 三日後。

 職場でまたも“縁結び急便”が届いた。

「Aの“神秘的な出会い”もついでに送っておきました〜」

「ついでって何!?」

 その直後、役所に視察にやってきた民間業者の女性担当者が、見た瞬間に言った。

「……あれ、夢に出てきた人!」

「え、夢?」

 なぜか彼女は、彰啓の顔を“前世の縁”と確信し、あれよあれよとランチの約束までされてしまう。

 (え……これもご縁?神秘的って、そういう……?)

 彼の心は、パンク寸前。


 悩みに悩んだ彰啓、ついに神社へと走った。

 「イズモノカミ様!二重にご縁を結ぶのは反則では!?」

 すると、社の奥から、ふわりと神様が現れた。

「ええ、確かに。だから私は“ちょっとだけ”手を添えただけですよ。あとは……」

 ──選ぶのは、あなた。

 その言葉に、彰啓はぐるぐる頭を抱えながらも、小さくうなずいた。

「……うん。たぶん、正解は“ちゃんと話して、ちゃんと考える”なんだな」

 ご縁は、神様が“つなぐ”だけ。

 それを“育てる”のは、人間の仕事。


 後日。

 結局、美晴とは二度目の再会で自然と距離が縮まり、今では“ちょっといい感じ”に発展している。

 縁結び急便からは、新たな案内が届いた。

《次回のおすすめご縁:“同棲物件選びツアー”》

「ちょっと急じゃない!?」


 神様はその頃、神社の縁側でお茶をすすっていた。

「ご縁って、いつでもそばにあるのです。
 ただ、ちょっとだけ気づいて、ちょっとだけ頑張るのが大事なんですよねぇ」

 空を見上げると、風がそっと、二通の願い札を運んでいった。


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