見出し画像

【bon23:滋賀県_江州音頭と“絶対に交じらない奴”問題】

 太鼓が鳴る。
 鉦(かね)が重なる。
 唄が……あれ? 三方向から聞こえる?
「えっ、なんか歌が……三重奏になってる?」
 小百合が不思議そうに空を見上げる。
 ここは滋賀県・近江八幡市。
 地元の盆踊り会場では、なんと「江州音頭」本家と分家と、“カラオケ自主派”が同時に踊り合戦を展開していた。
「俺が本家や! これは代々続いとる型や!」
「こっちは若い子向けにリズム加えてんの!」
「オレはYouTubeで学んだやつィィィ!」
 もう何がなんだかわからない。
 その中で、銀大という青年がしっかりと太鼓を叩いていた。
 彼は「他人を支える」のが喜びという珍しいタイプで、踊りの流れをしっかり観察していた。
「よし、なら俺は“間”を埋める役をする」
 そう言って、流派の隙間に入っては踊りを橋渡しする。
 見事な中和力だった。
 しかしその後ろで――
「やっぱ音頭には“独自ステップ”で勝負だよね!!!」
 完全に独立国家が出現していた。もちろん雄大である。
 ピョン! ターン! ズサー!
「それ何!? 何の型!?」
「“江州マッスルドリフト”って新技!」
「ないわッ!!」
 見かねたキリカがやってきた。
 彼女は他人の成功にちょっと嫉妬しがちであるが、今回は“明確な怒り”のほうが勝った。
「なんであんたの“新技”のせいで、本家と分家が一緒にツッコんでんのよ!」
「えっ、むしろ団結の象徴になってない!?」
「なってないよ!!」



 盆踊り会場が、妙な一体感を持ちはじめた。
 原因は、全員が雄大のステップに対して「とりあえず止めよう」と思ったからだった。
「なんで“間違った行動”が全体の結束を生むの!?」
 はづきが本気で頭を抱える。
 そのとき、銀治――落ち着いた目つきの中年男性が、場の空気を読んで前へ出た。
 彼は信用第一を信条にし、話す言葉に無駄がない。
「……本家も分家も、自分の型を貫いてる。その違いは尊重していい」
「ですよね! 型が違っても!」
「でも、お前のは“型がない”」
「うわ! 正論の刀がエグい!」
 そのとき、ふわりとした浴衣姿の女性――佑里香が登場。
 彼女は明確な目標を持ち、今夜の目標は「江州音頭を完璧に踊る」ことだった。
 なのに――
「……なんで“動きが全部ダチョウ”なんですか、雄大さん?」
「えっ、ちょっとテンポに合わせて首ふってただけだけど?」
「それ、舞台から見ると“首狩り族の儀式”です」
「やめて!! 俺、そんな舞い方してた!?」
 周囲の本家・分家・カラオケ組がひとつの結論に至る。
「まず、あの人をどっかに預けましょう」
「隔離しないで!」
 そして祭りの終盤――
 雄大はついに“江州音頭研究係”にまわされ、舞台袖でノートを持たされた。
「はい、“見て覚える係”ね!」
「いや、俺踊るつもりで来たんだけど!?」
「それが間違いだったね!!」
 ラスト。江州音頭の音色が夜風に乗り、
 全員のステップが揃ったその瞬間――
 観客のひとりがぽつり。
「今日の音頭……妙に団結感あったな……」
「それは、ひとりの“爆発物”がいたからです」
「誰だよその“音頭界の起爆剤”」
 ……そう。雄大だった。
(bon23:End)


いいなと思ったら応援しよう!

Goldness 楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。