石、愛嬌のある河原の子たち
「ようこそ、全国“石マニア”選手権へ!」
アナウンスが響き渡ると、観客たちは一斉に歓声を上げた。だがその場にいた僕・佐久間圭(27)は、開いた口がふさがらなかった。
「……本気でやるの? 石のコンテスト?」
「当たり前だろ、これが年に一度の祭典だ」
そう語るのは、大学時代の友人・三好だった。彼は地質学科出身で、在学中から石に話しかけていた男だ。
「ほら見ろ、あの熱気。まるで甲子園だ」
「全員が地面見てる時点で熱気は錯覚だよ」
会場は、河原の特設ステージ。参加者たちは各自の石を丁寧に並べ、磨き、名前をつけている。テントからは「え?この子、“波平石(なみへいいし)”です」「こっちは“サンシャイン・ゴロ助”!」などという叫びが飛び交っていた。
「で、お前も出すの?」
「もちろん。紹介しよう――“岩田ロメオ”!」
彼の手に抱かれていたのは、まるで横顔に見えるゴツゴツの石だった。
「顔にしか見えない……けど口が変な方向に曲がってない?」
「そこが味だ」
うわ……病気だ。
僕は帰ろうかと思った。だがその時、司会者がこう叫んだ。
「今年は特別企画! “石、しゃべらせてみた選手権”も開催!」
「なにそれ」
「簡単さ。石を擬人化して、台本通りに寸劇させるのさ」
「なんで河原で石が演劇始めるの!?」
参加者のひとりがマイクを握り、石を2個、舞台に置いた。
「“岩彦、もう君とはやっていけない”」
「“待ってくれ砂子! お前がいないと俺はただの地質資源なんだ!”」
――爆笑の渦。
僕は人生で初めて、石が別れ話をする姿を見た。
三好も負けじと手を挙げた。
「我が“岩田ロメオ”による、現代風恋愛悲劇『メトロノームに恋した石』を披露する!」
そして始まった一人芝居。
「俺には動けない運命がある。でも君が時を刻む限り、俺はここにいる……カチ、カチ、愛してる……!」
周囲から拍手が巻き起こった。異常だ。
だがさらに異常なことが起きた。
「さあ、次は“最も地味な石”のグランプリを発表します!」
選ばれたのは――僕がさっき、道端で靴紐を結んでいたときに蹴った小石だった。
「あれ!? 俺が蹴ったヤツじゃん!」
審査員の講評が入る。
「この石、どこにでもある感が素晴らしい。むしろ存在している意味すら疑わせてくる」
「哲学ですらある」「これは無を超えた無」
結果、小石は“虚無石大賞”を受賞した。
僕はその日、石に嫉妬するという初めての感情を覚えた。
その後も会場は大盛り上がり。
「これは“遺影石”。ばあちゃんが拾った石に似てるの」
「“トビウオ石”は、投げると10回跳ねる。嘘じゃない。嘘だけど」
「“すべらない石”……ただのスベスベした石です」
ついには、司会者が高らかに宣言した。
「来年は“石と人間の協奏”をテーマに、演奏会を開催します!」
三好が僕に目を輝かせて言った。
「よし、俺は岩田ロメオにオカリナ吹かせる!」
「もう帰っていい?」
帰り道、僕はうっかり石につまずいた。
その瞬間、思った。
――いや待て。この石、“滑る”を演出したって意味では……もしかして演出家の才能が……
そして僕はその石に、そっと名前をつけた。
「……お前、今日から“演出石(えんしゅついし)”な」
人生で初めて、石に礼を言った。
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