第149章 鳥取市:トットリノカミの、のんびり砂対応
鳥取の朝は、風と砂とで始まる。
遠くで聞こえる海鳴りと、ふわりと舞う砂。まるで何もないようでいて、ちゃんとある。静かで、強くて、なんかちょっとザラザラしている。
そんな鳥取の気配を、毎朝ぼんやり感じながら寝転んでいる神様がいる。
──トットリノカミである。
鳥取砂丘の守護者にして、のんびり屋で砂の操作が得意。願いは風に乗せて受け取り、気が向いたら砂で返す──それが彼のスタイルだ。
この朝、彼の耳に届いたのは、こんな願いだった。
【願い】
「子どもが砂遊びにハマりすぎて、洗濯機が毎日砂漠です。どうにかなりませんか(母・疲労)」
「……ああ、あるあるだなあ……」
トットリノカミは寝転がったまま、顔の上に砂を一粒乗せた。
「今日は、“静かなる砂対応”を発動するかねぇ……」
午前10時。鳥取砂丘ふもとの公園。
願い主の子ども・リュウトくん(4歳)は、今日も絶好調で砂を投げていた。
「いえーい!サンドストーム!」
「おい、コラ!そのズボン、もう3枚目です!」
神様、のそのそと現れる。
「お母さん、おつかれさん。とりあえず“砂だまり逆流結界”を張ってみたよ」
「え、今なんて?」
神が指を振ると、リュウトくんのズボンから、ボソボソと砂が外に押し出されてきた。
「えっ、逆!?砂が服から出てくる!?」
「“入る前に出す”……それが神流砂術」
なお、服のポケットが一瞬で空になったので、リュウトくんは泣いた。
「なんで宝石(飴の包み紙)がなくなったのおお!」
神、やや反省。
午後、鳥取駅前。
商店街の店主から、新たな願いが届く。
【願い】
「お客さんが“何もない”って言うんです。何か、あるって言わせたいんです……」
「ほいきた」
神、砂丘の砂をポケットから一握り。駅前の花壇にさっと撒く。
「ここ、元・海底。ここ、昔・恐竜の通り道。ここ、なんか気がするスポット」
5分後、通りがかった観光客たちが──
「えっ、なにこの“なんかありそうマップ”?」
「やば、インスタに映えそう。何かある感すごい」
──まさかの大好評。
「何もないことの中に、何かがある」作戦、大成功。
「……砂は、すべてを曖昧にしてくれるんだよねぇ……」
神様、ちょっと名言ぽい。
夕方。鳥取砂丘の展望エリア。
そこに、神様を探してやって来た女子高生がいた。
「ねぇ、神様!質問していい?」
「うーん、まあ、よければ」
「“風紋”ってさ、なんか人生と似てない?」
「おお……それっぽいこと言ってくるね……」
神は少し考えてから答えた。
「……似てるかもね。風が吹いたら形は変わるし、誰かが踏んでもまた戻るし」
「じゃあ、戻らなかったら?」
「……そんときは、そんとき」
「ゆるッ!」
だがその“ゆるさ”が、なぜか心に残る。
「ありがと、なんかスッキリした」
「風、ちょうどいいしねぇ……」
──砂丘の風に、吹かれながら、二人はしばらく黙って並んでいた。
夜。
トットリノカミは、砂に体をうずめて眠る前に、ぼそっとつぶやいた。
《本日の砂対応:
・洗濯機対策:半成功(子泣いた)
・何もなさ改善:成功
・高校生の悩み:風紋で対応》
「……今日もまあ、砂らしくてよかったよね……」
そよそよと風が吹き、周囲の砂が勝手に神の布団のようにまとわりついていく。
──こうして、砂の神は今日も、なんとなく、誰かの願いに、ふんわり応えている。
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