文具のチャチャチャチャ♪
文房具たちが眠る夜の文具店、「スマイル文具堂」。店内が真っ暗になると、彼らは棚からそっと抜け出して、おしゃべりタイムを始める。
中でも声が大きいのが、三角定規のミカドである。定規なのに尊大。物差しなのにえらそう。口癖は「直角は人格である」。
「いいかお前ら、世の中、直角で動いてるんだ。机も棚も、ドアの開け閉めも。すべて俺の角度を基準にしてんの!」
すると、隣のコンパス・ツムジがぐるぐる回りながら反論する。
「でもさー、ミカドって線引き下手じゃん?ちょっとズレてるとさ、プルプル震えんの、あれ笑えるよねー」
「それは筆圧の問題だッ!」
「自分で線引くくせに筆圧のせいにすな」
「貴様こそ、くるくる回ってるだけで生産性ゼロのコンパスの分際でぇ!」
定規とコンパスが怒鳴り合うと、シャープペンのシャーペンヌがため息をついた。
「また始まった……静かにできないのかしら、夜なんだから」
「そ、そうだよぉ」とノリで頷くのは消しゴムのケシタロー。彼は消しすぎがちで、周囲の紙をよくボロボロにする。
「こ、こんなことしてる場合じゃないよぉ……明日また、小学生の筆箱に入れられるかもしれないのに……」
「それな!」
ノリでくっついたのはスティックのりのノリ彦。彼は無意味に熱血で、「俺はすべてを一つにする!」と叫びがちだ。
「おいノリ彦、また誰かにくっついたのか?シャーペンヌのキャップが白くなってんぞ」
「すまん!情熱が漏れた!」
この文房具界、なにかと騒がしい。
だが今夜は、特別な日。年に一度の「文房具カラオケ大会」があるのだ。優勝者は、店長の特注ペン立て「プレミアムスリーブ」に1週間飾られるという名誉が与えられる。
ミカドは、ずっとそれを狙っていた。
「今年こそ俺の“直角ボイス”で文具界を震わせてやる……!」
だが、彼には致命的な弱点があった。
音痴である。
去年は森山直太朗の「さくら(独唱)」を歌いながら、最後のサビで「さくら~らら~ずこーん!」と外し、ツムジに腹筋を崩壊させた。
しかし今年のミカドは違った。
「俺は……ボイトレを受けた!」
「え?どこで?」
「コピー機の中」
誰も信じなかったが、ミカドは本気だった。目が鋭い。角度がキレてる。
ついに大会が始まる。
一番手は消しゴム・ケシタロー。「粉雪(レミオロメン)」を歌うも、途中で涙が出てきてマイクが濡れる。
二番手、ノリ彦。「世界に一つだけの花」を熱唱しすぎて、マイクに密着してしまい、外れなくなる。
三番手、ツムジ。YOASOBIの「アイドル」を高速で回転しながら披露。途中で吐いた。
そして四番手、ミカド。
静寂。定規のくせに堂々とマイクの前に立つ。
「俺は……歌う!この地球(ホシ)に……直角を響かせる!」
曲は「津軽海峡・冬景色」。
イントロ。低い波の音。静かな店内。
ミカドが口を開いた。
「……つがーるー……かいきょぉ~~おおお」
思いのほか上手かった。
「おっ、うまいじゃん」
「去年より断然ましだよ!」
シャーペンヌが手を叩き、ケシタローが泣きながらティッシュを差し出す。
最後のサビ、彼は叫ぶ。
「ごぉぉおおお~~ん!!」
ミカド、渾身のビブラート。店中のペンが震えた。
その瞬間。
店の照明がパチンと点いた。
「……なんだこの騒ぎは」
朝だった。
開店準備に来た店長が、店の奥で奇妙な配置になっている文房具たちを見て、首をひねる。
「三角定規、こんな位置に置いたっけ?」
ミカド、元の棚に戻っていたが、片端がちょっとだけ傾いていた。
まるで、歌い疲れたように。
彼の夢は叶った。
次の日、SNSにはこう投稿されていた。
「文具屋の三角定規がなぜかかっこいい位置に置いてあった。推せる」
ハッシュタグは #定規の魂 。
いいなと思ったら応援しよう!
楽しんでいただけることが一番の喜びです。いつもご覧いただき、ありがとうございます!これからも、皆さんと一緒に素敵な時間を共有できるように、より一層努力していきます。