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【bon25:兵庫県_デカンショ節と“即興詩で全部解決しようとする奴”】

「ヨーオイ デカンショ デカンショで 夏が来る〜♪」
 夜の丹波篠山、しんとした田園を舞台に鳴り響くデカンショ節。
 酒と踊りと詩の文化を兼ね備えたこの唄は、江戸期の知識人たちの“憩いの場”から生まれたもの。
 ……なのだが。
「はい! 一句詠みましたァ!」
 またしても、何かがズレている。
「“デカンショを 詠みたい夜に 草履飛ぶ”……!」
「草履飛ばさないでぇぇぇぇぇ!?」
 叫ぶ小百合。その横では拓朗が静かに念仏のように唱える。
「何人か詩人が混じってるとは思ったけど、まさか雄大が最初に暴発するとは……」
 そう、今夜の会場では、デカンショ節の間奏部分に“自由詩を挿し込む新ルール”が採用されていた。
 言い出しっぺはもちろん、雄大。
「だってさ、歌詞に“知恵者が詠んだ”ってあるじゃん? 俺、そこにシンパシー感じてさ!」
「お前、知恵の“使い方”を間違ってるだけだよ!!」
 その時、静かに舞台に上がったのが、賢人
 目立たないが、人の心に残るような言葉をそっと置いていく、不思議な男。
「“ひと夏の 火照りし踊り 故郷へ”……」
 場が一瞬で、静まった。
「……あれ? ちゃんとしたやつ来た?」
 美琴がぽつりと呟いた。
 そこへ続けて現れたのが、冷静沈着な女性――実菜穂
 彼女は淡々と詠んだ。
「“群の中 踏み外せしも また絆”」
「え、かっこよ……てか、俺の草履、踏み外しって扱い!?」



 それはまるで、盆踊り会場に突然開かれた“即興詩の戦場”だった。
 踊る者、詠む者、突っ伏す者、そして草履を飛ばす者。
 そのすべてを黙って見ていたのが、崇祥
 彼は他者との信頼関係を大事にしながら、言葉に宿る“繋がり”を見極める力を持っていた。
「……“詩”ってさ、結局“誰に向けてるか”が大事なんだよ」
 そう言って、短く詠んだ。
「“輪の中に 名もなき声が ふと息づく”」
「え、何それ……盆踊りの本質……?」
 会場がざわりとしたその時、満を持して現れたのが――
 スパンと扇子を鳴らしながら、華やかに登場した裕菜
「よろしい、ならば“自己改善”の句を一つ……!」
「この人だけ自己啓発セミナーの風をまとってる……!」
「“昨年の私に 勝つため この輪に立つ”」
「かっこいいけど“勝ち負け”じゃないからね!?」
 そして全員が踊りの輪に戻ろうとしたその瞬間――
 中央にいた雄大が、口を開いた。
「……俺、もう一句詠んでいいかな」
「やめとけ!」
「“はじまりは なんとなくだった でも今は”」
 間。ひと呼吸。
「“この輪のなかで 誰より汗かいてる”」
 ――なんと正直な一句だった。
 観客が、少しだけ笑って、ちょっとだけ拍手した。
 賢人がぽつりとつぶやいた。
「……それも、悪くない詩だ」
 実菜穂が、静かに頷いた。
「草履がなければ、もっとよかった」
「そこだけマジで謝るわ……!」
 踊りと詩が混ざり合いながら、
 デカンショ節の最後のリズムが響き渡る――
「ヨーオイ デカンショ デカンショで 夏がくる〜♪」
(bon25:End)


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